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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

馬車に揺られて

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 私がギーシャ王子のいる物置部屋に再訪する少し前。
 方々に掛け合って、一通りの打ち合わせと手続きを終わらせてから、私は馬車に揺られて帰宅しようとしていた。

 はー。とりあえず、色々何とかなりそうでよかった。
 あまり時間ないし、明日にはギーシャ王子たちに話したいから、王様辺りに頼んでマリス嬢たちにまた登城してもらわなきゃ。
 それから──あれをこうして、ああして。

 そんな風に頭の中で明日以降の段取りを調整していた時、ふとギーシャ王子の顔が浮かんだ。

 ギーシャ王子、今頃あの部屋で睡眠を謳歌しているのかな?

 毛布にくるまって、猫みたいに丸くなっているギーシャ王子を想像して、くすりと笑みが溢れた。

 でも、本当にギーシャ王子と話すのは久々だったなぁ。
 中等部に上がってから話す機会は減ったというか、私が避けてたんだけど、三年になってからはマリス嬢やリンス嬢やギルハード様が一緒だったから余計に機会が減ったのよね。
 私的には助かってたんだけど・・・・・・いや、違うな? あれ?

 避けてたのは事実だけど、そうしたのは自分だけど。
 さっきのギーシャ王子の言葉を思い出す。

 ──久々に話せてよかった。

 私も、本当にそう思った。
 それがなんか引っ掛かったけど、不意に答えがすとんと腑に落ちてきた。

「そっか。私、ギーシャ王子と話したかったんだ」

 声にして見ると、更に心に馴染む。
 一方的に離れて、それがいいって思って、なのに今更って感じが半端ないけど、私はギーシャ王子と話したい・・・・・・一緒にいたい。
 ちっちゃい頃みたいに、まだ純粋にミリア・メイアーツとしてギーシャ王子の傍にいた時みたいに。

「ごめんなさい。やっぱり、屋敷ではなく王宮に向かっていただけますか?」

 矢も盾もたまらず、そう御者さんに告げると、了解の言葉と同時に手綱がしなる音がして馬車が曲がる。その衝撃で少し体が跳ね上がった。

 うおっと!

 馴れるまではお尻が痛くなったり、気持ち悪くなってたりしてたけど、流石に十数年乗ってれば馴れてくる。ただ、色々掛け合うためにずっと馬車で移動してたせいかな? これは──。

「・・・・・・酔った」

 うぷっと口元を押さえる。
 普段あまり長距離を馬車で移動したりしないから、長時間乗ってるとやっぱり乗り物酔いしてしまうのかもしれない。今日一日で蓄積された疲れのせいかもしれないけど。
 幸か不幸か、キャットファイト組のおかげで昼食をほとんど食べてないから、車内でリバースという淑女的にあれな展開は避けられそうではある。
 目を瞑って、綺麗な景色を思い浮かべながら吐き気を誤魔化す。
 うん。王宮に戻ったら、ギーシャ王子と話して、それから帰って、お腹に優しいもの食べて、お風呂にゆっくり浸かって、甘いもの食べて、ぐっすり寝よう。明日も忙しいんだから。
 ギーシャ王子と話すのは緊張しちゃうかもしれないけど、自分のしたいことは見えたから、ちゃんと話さなきゃ。

 今日はもうこれ以上疲れることもないだろうし、ギーシャ王子と話すのが一番の正念場だね。

 が、その前にティーカップを探す冒険に出て、ボスキャラと対峙することになるとはこの時の私は思っても見なかったけど。
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