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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

罪悪感

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「一つ質問していい?」
「何だ?」
「ギーシャ王子は、マリス嬢のこと好き?」

 私が突然、昔のような喋り方をしているから戸惑っているのだろう。ギーシャ王子は少し、間を置いてから頷いた。

「・・・・・・ああ。ギルハードに笑いかけてて、俺にも笑いかけてくれたあの子は得難い存在だから」
「そっか──でも・・・・・・ううん。何でもない」

 続きは言おうとしてやめた。きっと、今のギーシャ王子には理解出来ないから。

 ギーシャ王子のマリス嬢に対するものは、恋なのだろうか?

 ギーシャ王子が求めているのは、自分が安心して愛せて、愛を受けることが出来る存在。

 必要なのは、愛であって恋ではない。

 それが私のネックになっている。恋であれば、私は安心できるのだ。別に、マリス嬢でもリンス嬢でもいい。
 大切なのは、ギーシャ王子が恋をすること。
 でも、私がそれを訊くことはできない。

 私は肝心な時にギーシャ王子の手を放してしまったから。

 初等部最後の年に、私はギーシャ王子から離れてしまった。
 ちっちゃい頃から一緒で、周囲に怯え、一人で震えている時にだって私には会ってくれたギーシャ王子の手を自ら振りほどいてしまった。
 まだ、ギルハード様もリンス嬢も傍にいなかった頃。あの時、私が傍にいなきゃいけなかったのに。

 中等部に上がってからは傍観者に徹し、遠くからギーシャ王子を眺めることしかしなかった。

「ギーシャ王子、さっき久々に話せてよかったって言ってくれたよね」
「ああ。ミリアは中等部に上がってから、ほとんど一緒にいてくれなくなったから。だから今、ミリアと話せて──これは、多分『嬉しい』んだと思う」

 ギーシャ王子が胸元をきゅっと握り締めて、小さな笑みを溢す。

「俺は、どうでもよくて救いがたい人間だけど、ミリアにも『どうでもいい人間』って思われたのかと思うと、何だか胸がきゅってした」
「っ! それは違うよ!!」

 私は反射的にギーシャ王子に身を乗り出して、その双肩を掴んだ。

「違う・・・・・・違うの・・・・・・そうじゃない。言えないけど、違うの」

 私ってこんな声出せたんだ。
 そう思うくらい、か細い声が出た。
 ギーシャ王子の顔が見られない。視界には私とギーシャ王子の膝と床が映る。

 私がギーシャ王子から離れた理由をギーシャ王子には言えない。言えるはずがない。
 何度も偶然の一致だと思っても、不安は消えなかった。

 ──閉じた瞼の裏で、金色のリボンがゆらゆら揺れる。

「ミリア? どうしたんだ?」

 ギーシャ王子はそっと私の頭を撫でてくれた。

「ごめん・・・・・・ごめんね・・・・・・」
「何故、ミリアが謝る? 迷惑をかけているのは俺の方なのに」
「そうじゃないの・・・・・・ごめんね」

 ああ、ギーシャ王子が困っている。
 少し冷たい手が、ずっと私の頭を撫でている。

 私より五ヶ月後に生まれて、私より小さかったのにすっかり大きくなったんだね。

 ずっと降り積もっていた罪悪感が溢れだして、どうしていいかわからない。
 けど、泣いたらダメだと、唇を噛み締めた。

 蹲って、ギーシャ王子にしがみつく。

 私が落ち着くまで、ギーシャ王子はずっと無言のまま私の頭を撫で続けていた──。
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