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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

テルファの甘言

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 レイセン王国国王は妃を三人娶る。
 それは絶対に揺るがない決まり。

 というのは、レイセン王家は友好の証としてエーデルグラン帝国の王女を正妃として娶るという約定があるからだ。

 しかし、友好関係と言っても実情はそうではない。
 大陸の覇王・エーデルグランは侵略国家だ。
 数多の国を数の力と武力で属国にしてきた。
 今でも、水面下では摩擦が起こっている状態だ。
 それでも友好関係の対面は守らなくてはならない。レイセン王国側に王女を拒む権利はないのだ。

 だからと言って、帝国の人間がレイセン王国で力をつけるのは良くない。その対策のために、当時の王様や宰相が考えたのが三夫人制の確立だ。
 妃が二人だと後宮が二分しかねないので、三人にし、いわゆる三竦み状態をキープし、正妃が力を持ちすぎないことを目的に作られた制度だ。
 今は夫人は二人だけど、欠けてしまったのが正妃のため、王様の代ではこの制度の役目は終わっている。

 約定により、王様に嫁いだのがギーシャ王子のお母さん。今は亡き王妃様だ。
 王妃様も銀色の髪と紫の瞳をしていた。
 帝国の王女様にも会ったことがあるけど、王妃様も王女様もギーシャ王子より、瞳の色が濃かったな。

 とはいえ、ギーシャ王子が母方の血を濃く受け継いでいるのは間違いない。だから、国外追放など有り得ないのだ。

 エーデルグランははっきりとした理由や目的がなくてもそれらしい建前さえあれば戦争を仕掛けてくるような国だ。
 だから、帝国の血を濃く引くエーデルグランとレイセンの友好の証とも言える存在であるギーシャ王子を国外に追放するわけにはいかない。

 お父様の言った通り、王様のあの発言は冗談だ。いや、それくらい怒っていたんだろうけど、王様は私的感情で国を窮地に陥らせるような暗愚ではない。
 かといって、お父様やその周辺絡みになると、どうしても感情が切り捨てられないから、今回の件もすんなりとお父様の提案に従って私に任せたのだろう。

「ギーシャといえば、どうやら馬鹿な真似をしたみたいだね。あの子」

 テルファ様の声にはっと引き戻された。
 おっと、考え事してた。
 どうやら、先日の件はテルファ様の耳にも入っているらしい。

「それで今は物置部屋に引き込もってるんだって? 何がしたいのかな、ギーシャは。ミリアならわかる?」

 理解に苦しむと頭を抱えるテルファ様。

「わかるような、わからないような──どのみち、私の口からは話せませんけど」
「どうして?」
「ギーシャ王子自身の問題だからです。私からぺらぺら喋る訳にはいきません」

 ギーシャ王子が引き起こした婚約破棄騒動。
 それはギーシャ王子が周囲に関心が希薄なことと、それでもどこかで愛情を求めていることが理由だと思う。
 けど、それを私から勝手にこの人に話すわけにはいかない。私だって、ギーシャ王子の全てを知っている訳ではないのだから。

「ふーん。でも、興味あるな。わかっているだけでいいから、ミリアの見解を聞かせてほしいな」

 尚もテルファ様は食い下がってくる。

「ですから、お話できませんって!」

 私が強めに断るとテルファ様は少し私から離れた。諦めてくれたかとほっとしていると、テルファ様は優しく、けれども妖しく笑い、私にこう提案してきた。

「そう。じゃあ、こうしよう。ミリアが話を聞かせてくれたら、ギーシャにかつて何があったのか教えてあげる」
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