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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

親子会議

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 私は部屋に入ると、隅に置かれていた背凭れのついていない木製の椅子をお父様のいるベッドの脇に置き座った。
 他の椅子は重くて持ち上げられないから、この木製の椅子があってよかった。多分、診察するリッカ先生用だけど。
 私は居住まいを正すと、お父様に向き合った。

「落ち着かれたようでよかったです。お父様」
「心配かけてごめんね。でも今回は大したことなかったから。小さい頃からお医者さんに何度も死ぬ死ぬ言われた割りにはこうして今も生きてるんだから、僕ってなかなかしぶといよね」
「笑顔で言わないでください」

 確かに症状自体はリッカ先生達の手当てのおかげで収まったようだ。よかった。
 ただ、さっき血を吐いたから貧血気味なのか、顔に血の気がない。鉄分をとって貰わないと。その辺はリッカ先生が調理師の人と相談してるかな。

「それで、どうだった? お話してきたんでしょう」
「はい。一応、話は聞けたのですが、少々急だったもので、まだ上手く頭の中で纏められてません」
「流石に言われたその日にやるのは大変だったかな? でも早めがいいから」
「・・・・・・やっぱり。マリス嬢とリンス嬢を今日登城させたのはお父様なんですね」

 なんとなく、そんな予感はしてたけど、今回の件は色々とお父様が操ってるな。操ってるって言い方は少し人聞き悪いかもしれないけど。
 昨日突発的に起きた事件に昨日の今日で行動を起こす行動力と判断力は見習わなくては。とはいえ、お父様の体ではあまり自由に動けないだろうから、実行したのは王様か補佐官さん──今回は補佐官さんだろうな。
 私の質問にお父様は隠すこともせずに頷いた。

「うん。今回の件はミリアが巻き込まれた以上、レヴェルは冷静さを欠くと思ったし、事情聴取をするならするで、本人達の記憶が鮮明なうちがいいと思ったからね」
「陛下はどのようなご様子でしたか」
「落ち着いている──と言いたいところだけど、うーん。ギーシャ達の件については落ち着いたけど、僕が体調を崩したから別の意味で取り乱してはいるね」

 飼い主に高速で尻尾を振る犬のようにお父様に懐いている王様はお父様の件に気をとられ、冷静ではないけど、冷静になってくれたようだ。単に気をそらしたとも言えるけど。

「陛下が国外追放やら身分剥奪やら言い出した時は驚きましたよ」
「大丈夫だよ。あの子はレイセン国王だから。根はしっかりしてるよ。謁見の間で言ってたことは半分冗談だから」
「それ、半分は本気ってことですか・・・・・・。陛下は少し、ギーシャ王子に厳しい気がします。お会いにもなりませんし」

 私が少し拗ねた感じで言うと、お父様に苦笑されてしまった。

 でも、昔から王様のギーシャ王子に対する態度は他の王子王女に比べて冷たい気がする。
 ギーシャ王子には二人の兄王子と一人の妹姫がいる。とはいえ、ほとんどが腹違いだ。レイセン国王はとある事情から三人の妃を娶らなくてはならない決まりがあり、ギーシャ王子が亡くなられた第一夫人──正妃の子であり、第二王子と第一王女が第二夫人の子で、第一王子が第三夫人の子である。
 他の三人に対する王様の態度とギーシャ王子に対する態度に差異を感じる。別に他の三人を贔屓にしている訳ではない。王様が王子王女達と一緒にいるところを見かけることはほとんどない。けど、時々ギーシャ王子に対しては避けてるんじゃないかと思う時がある。
 結局、ギーシャ王子が外に出られなくなった時も王様は一度もギーシャ王子に会いに来なかったし。

「あはは、拗ねないで。でもレヴェルにも困ったものだね──あの子はこのまま突き放すのが最良と考えているようだけど、出来れば違う道を選んで欲しいなぁ」
「何のお話ですか?」
「ううん。何でもない。レヴェルも親子の愛情を知らずに育った子だからね。距離を掴みあぐねているのかもしれないね」

 珍しく、お父様が昔の話をした。
 お父様の口からはあまりちっちゃい頃の話を聞かない。王様から聞く昔話もお父様との思い出ばかりだし。
 お父様が王子だった頃の話が本人の口から出るのは稀だ。時々、お婆様のお話は聞くけど。
 けど、今の言葉を聞くに、あまり楽しい話ではないのだろう。私は深く触れずに、話を戻した。

「お父様、相談に乗って頂けますか?」
「もちろん。まずはミリアの考えを聞かせて貰いたいな」
「はい。今回の件で問題なのは、卒業パーティーで私闘騒ぎを起こして、私が巻き込まれてしまったこととギーシャ王子とリンス嬢の婚約破棄の件です。婚約破棄についてはシュナイザー家の出方も窺わなくてはいけませんし・・・・・・」

 シュナイザー家とて、一方的な婚約破棄発言に何もしない訳ではないだろう。
 それをお父様に訊ねると、思いもよらないことを告げられた。

「ああ、そうだ。ミリアはまだ聞いてないだろうから、教えておくね。さっき、シュナイザー家からギーシャとシュナイザー嬢の婚約を保留にしてくれとの申し入れがあったんだ」
「・・・・・・え?」
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