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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

ブレイクタイムとはいかない

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 ごんっ!

 なんか痛そうな音がした。
 てか、額が痛い。

「ミリア、何をしているんだ?」

 頭上でギーシャ王子の声がする。
 私は床に勢いよくおでこをぶつけ、床に突っ伏していた。

「只今情報処理中ですので、暫くそのままでお待ちください」

 そんな機械的な台詞を言って、思考を巡らす。が、相変わらず頭はあんま働いてくれない。
 頑張って! 私の脳味噌! せめて摂取した糖分というお給料分は働いてー!
 なんて訳の分からないことばかり考えてしまう。
 ギーシャ王子の話を聞いて、芋づる式に私の過去の大失態・・・まで思い出してしまい、脱力してしまった。
 顔を上げるとギーシャ王子は律儀に微動だにせずに私の言葉を待っていた。

「役に立ったか?」
「ええ。まぁ・・・・・・ところで、ギーシャ王子は何故わざわざあの場でリンス嬢に婚約破棄を告げたのですか?」
「マリスがこういうことは早めに伝えておかないと拗れるからと」

 あれはマリス嬢の差し金だったのか・・・・・・。
 面倒なことをしてくれおって・・・・・・!
 そのせいでこんなことになっているかと思うと疲労とか通り越して腹が立ってきた。
 マリス嬢になんかバチあたんないかな? あ、でもマリス嬢もぶん投げられたんだっけ? なら少しは溜飲も下が──んないわ! 絶対下敷きになってた私の方がダメージでかいわ!

「周囲の反応は考えなかったのですか?」
「俺がやることに誰も興味はないだろう」

 ここでもギーシャ王子のズレた思考が発動してた。

「な、成程。参考になりました。では、私は一度失礼します。多分、もう一回来ます・・・・・・」

 あかん。想像以上にメンタルやられた。
 昔は平気だったのに、久々だからか、役割のプレッシャーからか精神疲労が半端ない。
 このまま話していても、拉致が明かないというか、余計とっ散らかりそう。
 ぶっつけ本番が不味かった。リハーサルが必要だった。
 ここは一度退いて、色々纏めてから出直そう。逃げる訳じゃないよ? 戦略的撤退だよ!

「ああ、またな」

 私はふらふらと立ち上がり、覚束ない足取りで出口に向かう。
 その時、乱雑に重ねてあった木箱に蹴躓いて、体が前に傾く。

 ひっ!
 このままじゃ木箱の角に頭ぶつける!
 それに絶対雪崩が起こる!

 踏ん張ろうとしたが、体に力が入らない。
 わ────!!!

 思わずぎゅっと目を瞑った時、背後からお腹を支えられ、後ろに引き戻された。

「は・・・・・・大丈夫か?」
「びっくりした~!」

 振り替えるとギーシャ王子が私を支えてくれていた。逆の手ではぐらついた箱を押さえ、二次被害防止もばっちりだ。
 慌てて動いたのだろう。さっきまでいた即席木箱ベッドの端に毛布が引っ掛かっている。
 私は転ばずに済み、思わず素の声をあげてしまった。

「ギーシャ王子、ありがとうございます」
「いや、その格好じゃ通りにくいな。今、道を開ける」

 そう言ってギーシャ王子は木箱や行李をいくつも重ねて持ち上げ、端に寄せた。やっぱ力がついてるんだな~。
 うんうん、もうすぐ高等部だもんね~。
 高等部という単語が頭に浮かび、私はふと思った。
 このままだとギーシャ王子はどうなるんだろう?
 もしかしたら、ギーシャ王子は高等部に進めないかもしれない。それも私の匙加減に掛かっているのだ。
 今更ながらに自分が想像してた以上の重責を背負ってしまったと自覚する。

「よし。これで通れるだろう」

 ギーシャ王子がぱんぱんと手を払って、体を退かすと、さっきよりより開けた道が出来ていた。
 行きは大変、帰りは楽々。ありがたい。

「ありがとうございます。では、また」
「ああ」

 ギーシャ王子が開けてくれた道を通って扉まで行き、ドアノブに手をかけると、ギーシャ王子に名前を呼ばれた。

「ミリア」
「はい?」
「久々に話せてよかった」

 そう言って、ギーシャ王子は笑っていた。

「私もです」

 中等部に上がってからは少し距離を置いていたのに、そう言って貰えて少し嬉しくなる。
 私はギーシャ王子に笑みを返して物置部屋を後にした。



 なんか、疲れてしまった。
 色々と考えることがありすぎて、脳が休息を必要としている。
 う~、なんでこんな考えなくちゃいけないの!?
 私が潰れたことが一番の問題なら私べつにあんま怒ってないからそれでよくない!?
 でも、そうはいかないのが実情だ。
 婚約破棄自体は王家とシュナイザー家の問題だし。うぅん・・・・・・。

 よし! 甘いものを食べよう!
 疲れた時は甘いもの。これ鉄板。
 王宮には官吏のために食堂が設備されている。頭を使う文官にも体力を使う武官にも糖分は必要だからか、そこは以外とデザートメニューが充実してるのだ。
 何にしようかな~?
 モモのタルト? チョコレートケーキ? あ、プリンアラモードもいいな。

 うきうき気分で食堂へ向かおうとすると、突然背後から人が現れた。

「ミリア様」
「ぎゃっ!」

 びくってした~。えっとこの人は服装的に王様の側近さん?

「何かようですか?」
「はい。ミリア様に取り急ぎご報告を」
「何でしょうか」
「午後より、マリス・リアルージュ様とリンス・シュナイザー様が登城されます。ミリア様は第二談話室で待つようとのこと」
「・・・・・・あー」

 どうやら、午後の天気は嵐になりりそうである。
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