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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
謹慎王子
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「こちらです」
重たい空気のまま案内された先。
そこは通路の最奥にある小さな扉の前だった。
・・・・・・ん?
私は隣の部屋の扉と目の前の扉を見比べてみた。
明らかに小さい。隣の部屋の扉の半分もない。
というか、この扉私の家にもあるぞ。
小部屋というか、納戸というか──
「物置部屋、ですよね。ここにギーシャ王子が?」
「はい。殿下は先日から自ら望んでこの部屋で謹慎されています」
ぴしり、とさっきとは違った意味で空気が凍る。
ギルハード様も心なしか明後日の方向を見ている気がする。
まさかとは思うけど──いや、まさか。でもギーシャ王子ならやりかねない・・・・・・。
ギルハード様に訊ねようかと思ったが、止めた。どうせ本人に会うんだし。
「ミリア嬢」
「は、はい」
「きっと、殿下のことは私より貴女の方がよくご存知かと思います・・・・・・あの方は人として欠落した部分がある」
「・・・・・・知ってます。でも、昔ならともかく、今はギルハード様の方がギーシャ王子に近いと思いますよ」
何せ、中等部に上がってから私とギーシャ王子は関わることが少なくなった。
クラスメイトだし、親戚付き合いもあるから全くって程ではないけど。
「ギーシャ殿下は私の生涯唯一の主君です。私の剣も役目も、殿下の幸福のために捧げました。だから、殿下には幸せになってもらわなければなりません」
「・・・・・・」
「こんな騒ぎになってしまいましたが、私は殿下が誰かを愛したという事実を喜んでいます。だから──」
「奇遇ですね。私もです。だから──ハッピーエンドになる方法をちゃんと見つけますよ」
そう言って、私は物置部屋の扉をノックした。
「・・・・・・誰だ?」
扉を隔ててくぐもった声が聞こえる。
「ギーシャ王子、ごきげんよう。ミリアです」
「ああ、ミリアか。怪我はいいのか?」
「ダメだったらここには来てません。少々お時間よろしいですか?」
「・・・・・・ん」
いまいち肯定かわからない返事だったけど、まぁいいや。
「入りますよ。ギルハード様、ご案内ありがとうございました」
「いえ、では私は失礼します」
「キリくんに頑張ってとお伝え下さい」
ギルハード様にお礼を言って、彼が元来た通路を戻っていくのと同時に、私は扉を開けた。
目の前には大量の行李や木箱が積み重ねられており、人一人がやっと通れるくらいの道しかない。
──さて、ドレスでどうやって通ろうか?
ドレスの裾をたくしあげてなんとかあの細道を通ることができた。
奥に入ると、並べられた木箱をベッドにしてその上で毛布にくるまっているギーシャ王子を発見する。
「ギーシャ王子」
私が声をかけると、ギーシャ王子はもぞりと身動いて顔を見せた。
寝ていたのか、その神秘を湛える淡紫の瞳はとろんとしており、最高の職人が紡いだ銀糸のような艶やかな髪は寝癖で少しくしゃくしゃになっていた。
ギーシャ王子の顔を正面から見たのは久しぶりだなぁ。相変わらず綺麗だけど、王様にはあまり似ていない。やっぱりお母さん似なんだろう。
それはさておき──
「ギーシャ王子、何故物置部屋などで寝ているのですか?」
「謹慎を言い渡されてやることもなく、暇だったからだ」
違う。そうじゃない。
「いえ、私は何故寝てたかを訊いているのではなく、何故物置部屋にいるのかを訊ねたのです。訊けばご自身がこの部屋を望んだそうですが・・・・・・」
噛み合っていない会話に頭痛を感じる。
謹慎の身であるにも関わらず、ギーシャ王子はうっとりとまるで夢心地な顔をしている。
「ああ。ここは落ち着くから。狭くて暗くて、誰も来なくて、人がいなくてほっとする。ここでじーっとしているとまるで自分が世界からいなくなったような気すらきて、とても心地いいんだ。だから謹慎を命じれた時にこの部屋ですると言った。自室より狭くて不便な場所だから特に文句もつけられなかったしな」
「そういえば、貴方昔からこの部屋が好きでしたね」
「覚えてたのか?」
「ええ、まぁ」
覚えてたというより、思い出した。そういえば、ちっちゃい頃にこの部屋を秘密基地と呼んで二人でよく一緒に遊んでたっけ。
ここに来る経路に覚えがあると思った。
部屋の扉あんなにちっちゃかったのかぁ。昔は普通に感じてたけど。部屋も狭く感じる。いや、それは大量の箱のせいか。物置部屋だもんね。
でも、やっぱお互い大きくなったんだなぁ。
ギーシャ王子は壁に背を預け、こちらを窺っている。
話すべきことはあるが、その前に一つだけ訊ねたい。
「ギーシャ王子、今どのような気持ちですか?」
「とても穏やかで、ほっとしてる。はぁ、このまま壁と一体化したい」
のほほんとした雰囲気で、のんびりしているギーシャ王子に眩暈を覚える。
いや、ね。予想してたけどね。
ギルハード様の反応から大体察してたけどね。
この王子──完全に謹慎を楽しんでる!!
重たい空気のまま案内された先。
そこは通路の最奥にある小さな扉の前だった。
・・・・・・ん?
私は隣の部屋の扉と目の前の扉を見比べてみた。
明らかに小さい。隣の部屋の扉の半分もない。
というか、この扉私の家にもあるぞ。
小部屋というか、納戸というか──
「物置部屋、ですよね。ここにギーシャ王子が?」
「はい。殿下は先日から自ら望んでこの部屋で謹慎されています」
ぴしり、とさっきとは違った意味で空気が凍る。
ギルハード様も心なしか明後日の方向を見ている気がする。
まさかとは思うけど──いや、まさか。でもギーシャ王子ならやりかねない・・・・・・。
ギルハード様に訊ねようかと思ったが、止めた。どうせ本人に会うんだし。
「ミリア嬢」
「は、はい」
「きっと、殿下のことは私より貴女の方がよくご存知かと思います・・・・・・あの方は人として欠落した部分がある」
「・・・・・・知ってます。でも、昔ならともかく、今はギルハード様の方がギーシャ王子に近いと思いますよ」
何せ、中等部に上がってから私とギーシャ王子は関わることが少なくなった。
クラスメイトだし、親戚付き合いもあるから全くって程ではないけど。
「ギーシャ殿下は私の生涯唯一の主君です。私の剣も役目も、殿下の幸福のために捧げました。だから、殿下には幸せになってもらわなければなりません」
「・・・・・・」
「こんな騒ぎになってしまいましたが、私は殿下が誰かを愛したという事実を喜んでいます。だから──」
「奇遇ですね。私もです。だから──ハッピーエンドになる方法をちゃんと見つけますよ」
そう言って、私は物置部屋の扉をノックした。
「・・・・・・誰だ?」
扉を隔ててくぐもった声が聞こえる。
「ギーシャ王子、ごきげんよう。ミリアです」
「ああ、ミリアか。怪我はいいのか?」
「ダメだったらここには来てません。少々お時間よろしいですか?」
「・・・・・・ん」
いまいち肯定かわからない返事だったけど、まぁいいや。
「入りますよ。ギルハード様、ご案内ありがとうございました」
「いえ、では私は失礼します」
「キリくんに頑張ってとお伝え下さい」
ギルハード様にお礼を言って、彼が元来た通路を戻っていくのと同時に、私は扉を開けた。
目の前には大量の行李や木箱が積み重ねられており、人一人がやっと通れるくらいの道しかない。
──さて、ドレスでどうやって通ろうか?
ドレスの裾をたくしあげてなんとかあの細道を通ることができた。
奥に入ると、並べられた木箱をベッドにしてその上で毛布にくるまっているギーシャ王子を発見する。
「ギーシャ王子」
私が声をかけると、ギーシャ王子はもぞりと身動いて顔を見せた。
寝ていたのか、その神秘を湛える淡紫の瞳はとろんとしており、最高の職人が紡いだ銀糸のような艶やかな髪は寝癖で少しくしゃくしゃになっていた。
ギーシャ王子の顔を正面から見たのは久しぶりだなぁ。相変わらず綺麗だけど、王様にはあまり似ていない。やっぱりお母さん似なんだろう。
それはさておき──
「ギーシャ王子、何故物置部屋などで寝ているのですか?」
「謹慎を言い渡されてやることもなく、暇だったからだ」
違う。そうじゃない。
「いえ、私は何故寝てたかを訊いているのではなく、何故物置部屋にいるのかを訊ねたのです。訊けばご自身がこの部屋を望んだそうですが・・・・・・」
噛み合っていない会話に頭痛を感じる。
謹慎の身であるにも関わらず、ギーシャ王子はうっとりとまるで夢心地な顔をしている。
「ああ。ここは落ち着くから。狭くて暗くて、誰も来なくて、人がいなくてほっとする。ここでじーっとしているとまるで自分が世界からいなくなったような気すらきて、とても心地いいんだ。だから謹慎を命じれた時にこの部屋ですると言った。自室より狭くて不便な場所だから特に文句もつけられなかったしな」
「そういえば、貴方昔からこの部屋が好きでしたね」
「覚えてたのか?」
「ええ、まぁ」
覚えてたというより、思い出した。そういえば、ちっちゃい頃にこの部屋を秘密基地と呼んで二人でよく一緒に遊んでたっけ。
ここに来る経路に覚えがあると思った。
部屋の扉あんなにちっちゃかったのかぁ。昔は普通に感じてたけど。部屋も狭く感じる。いや、それは大量の箱のせいか。物置部屋だもんね。
でも、やっぱお互い大きくなったんだなぁ。
ギーシャ王子は壁に背を預け、こちらを窺っている。
話すべきことはあるが、その前に一つだけ訊ねたい。
「ギーシャ王子、今どのような気持ちですか?」
「とても穏やかで、ほっとしてる。はぁ、このまま壁と一体化したい」
のほほんとした雰囲気で、のんびりしているギーシャ王子に眩暈を覚える。
いや、ね。予想してたけどね。
ギルハード様の反応から大体察してたけどね。
この王子──完全に謹慎を楽しんでる!!
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