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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
騎士の嘆願
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「別に構いませんが、どういったお話でしょうか?」
「ミリア嬢は本日、陛下に会いにいらしたのですよね」
「はい」
昨日の一件が既に知れ渡り、私が怪我をしたら陛下がどうするかなんて王宮の関係者なら誰でも分かる。
私が陛下を宥めるために登城したことはギルハード様も理解するところだろう。
「陛下との謁見後に謹慎の身であるギーシャ殿下と面会する理由を訊ねてもよろしいでしょうか?」
「ギルハード様は陛下がギーシャ王子にどのような処分を下すのかが気掛かりなのですね」
一騎士のギルハード様では陛下の考えを探ることは出来ない。だからこうして私から何か情報を引き出そうとしているのだろう。
ギルハード様は憂い顔で頷き、話を続ける。
「・・・・・・はい。此度の件でギーシャ殿下が重い処罰を受けるのではないかと思いまして──陛下に嘆願しようにも今の陛下では聞く耳を持って頂けないでしょうし。必要であれば私が腹を切って──」
「いや、お待ち下さい」
ギルハード様が不穏なことを言い出したので、そこで止めた。
いやいや、腹を切るって侍じゃないんだから。この世界って妙に前世の世界と似たようなとこがあるんだよな。中世西洋風の世界観なのに。
ハラキリ、ダメ、絶対。
そんなことをしたらキリくんが絶対に泣く。泣いて泣いて最後に泣き腫らした顔で元凶を抹殺しようとすると思う。
「落ち着いて下さい、ギルハード様。今回の件は関わった人達が人達ですが、所詮は学生同士の小競合いです。処罰は免れませんが、ギルハード様が思っているようなことにはなりません」
そう。例え、喧嘩したのが侯爵令嬢と特殊な魔力によって注目を集めている少女だろうと、婚約破棄を宣言したのが第三王子だろうと、巻き込まれたのが公爵令嬢だろうと学生同士の問題なのだ。
婚約破棄宣言はシュナイザー家も何か言ってくるだろうが、それはそれ。
少なくとも私の怪我の件は大人に介入して欲しくない。
「陛下についてはご安心下さい。怪我の件は私の方にも非があったことをご説明しましたので」
まぁ、さっきお父様が体調を崩されたから今頃王様の頭の中に私のことは入ってないだろう。
私が王様に可愛がられてるのは最愛の兄の娘だからという理由な訳だし、そのお父様の容態がよくない今はきっとお父様につきっきりで他のことはどうでもよくなっているだろうし。
お父様も態々私にギーシャ王子に会っておいでと言った辺り、この件は完全に私に片付けさせるつもりだろう。だったら、王様のフォローもしてくれてる筈。
「実は、この件の処罰は私が決定するようにと命じられているのです」
「ミリア嬢が?」
「はい。ですから──」
思い詰めないで下さいと言おうとしたら、ギルハード様に跪かれてしまった。いきなりなに!?
「ミリア嬢、此度の件で貴女は怪我を負われています。その一因を作ったのは紛れもなく我が主君。本来ならば、このようなことを申し上げるべきではないのかもしれません。ですが、どうか寛大なご処分をお願い申し上げます」
切実な声で嘆願され、頭を下げられて私は困惑してしまった。
ど、どうしよう。はっきり言ってまだギーシャ王子達をどうするかなんて考えてない。
見通しなんで全然立ってない、全くのノープラン。
何も考えてなかった頭に突然、ギルハード様の嘆願という情報がぶっ込まれ、脳内が弾け、思考がぐるぐる回る。だが、どんなに思考を巡らせても纏まらなければ意味がない。白紙状態の今、なんて答えれば!?
うーんと、えーと・・・・・・とりあえず立ってもらおう!
公爵令嬢という立場だが、人に跪かれたり、かしずかれたりするのは苦手なのだ。相手がギルハード様なら尚更。この光景を事情を知らない人が見たら何事かと二度見されると思う。今、ここに私達以外いなくてよかったー!
「ギ、ギルハード様、そのようなことはお止め下さい。貴方が頭を下げる必要はありません。ほら、お立ちになって──」
この時、私はギルハード様になんて答えようかという考えに脳を支配され、大切なことを忘れていた。そして、普段なら絶対にやらないことをしてしまった。
とにかく、立って跪くのを止めて貰おうとギルハード様の革手袋に覆われた手を掴み、引き上げようとして──
「──っ!」
一瞬、ギルハード様の体が強張り、次に手を思い切り振りほどかれた。
「わっ!」
強い力と勢いに私はびっくりしてバランスを崩し、尻餅をつく。たっぷりのパニエがクッション代わりになったくれたのか、痛みはない。おおー! パニエすごい! ありがとう!
なんて現実逃避でパニエに感心してたけど、うん、やめよう。
完全にやってしまった。
ギルハード様を見ると、蒼い顔をして私が触れた手をぎゅっと握り締めている。
眉間の皺が今日一深くなっており、唇を噛み締めている。
怒っているわけではない。ただ、恐れているのだ。
ゲームでのギルハード様のルートを思い出す。
ギルハード様はゲームで、そしてこの世界である名で呼ばれていた。
忌み名として嫌い、恐れていたその名前。
彼の首筋に浮かぶ黒い茨が目に入る。
その姿に相応しく、絡み付き、棘で刺し、ギルハード様を蝕むもの。
その呪いじみた名は──『茨の魔王』。
「ミリア嬢は本日、陛下に会いにいらしたのですよね」
「はい」
昨日の一件が既に知れ渡り、私が怪我をしたら陛下がどうするかなんて王宮の関係者なら誰でも分かる。
私が陛下を宥めるために登城したことはギルハード様も理解するところだろう。
「陛下との謁見後に謹慎の身であるギーシャ殿下と面会する理由を訊ねてもよろしいでしょうか?」
「ギルハード様は陛下がギーシャ王子にどのような処分を下すのかが気掛かりなのですね」
一騎士のギルハード様では陛下の考えを探ることは出来ない。だからこうして私から何か情報を引き出そうとしているのだろう。
ギルハード様は憂い顔で頷き、話を続ける。
「・・・・・・はい。此度の件でギーシャ殿下が重い処罰を受けるのではないかと思いまして──陛下に嘆願しようにも今の陛下では聞く耳を持って頂けないでしょうし。必要であれば私が腹を切って──」
「いや、お待ち下さい」
ギルハード様が不穏なことを言い出したので、そこで止めた。
いやいや、腹を切るって侍じゃないんだから。この世界って妙に前世の世界と似たようなとこがあるんだよな。中世西洋風の世界観なのに。
ハラキリ、ダメ、絶対。
そんなことをしたらキリくんが絶対に泣く。泣いて泣いて最後に泣き腫らした顔で元凶を抹殺しようとすると思う。
「落ち着いて下さい、ギルハード様。今回の件は関わった人達が人達ですが、所詮は学生同士の小競合いです。処罰は免れませんが、ギルハード様が思っているようなことにはなりません」
そう。例え、喧嘩したのが侯爵令嬢と特殊な魔力によって注目を集めている少女だろうと、婚約破棄を宣言したのが第三王子だろうと、巻き込まれたのが公爵令嬢だろうと学生同士の問題なのだ。
婚約破棄宣言はシュナイザー家も何か言ってくるだろうが、それはそれ。
少なくとも私の怪我の件は大人に介入して欲しくない。
「陛下についてはご安心下さい。怪我の件は私の方にも非があったことをご説明しましたので」
まぁ、さっきお父様が体調を崩されたから今頃王様の頭の中に私のことは入ってないだろう。
私が王様に可愛がられてるのは最愛の兄の娘だからという理由な訳だし、そのお父様の容態がよくない今はきっとお父様につきっきりで他のことはどうでもよくなっているだろうし。
お父様も態々私にギーシャ王子に会っておいでと言った辺り、この件は完全に私に片付けさせるつもりだろう。だったら、王様のフォローもしてくれてる筈。
「実は、この件の処罰は私が決定するようにと命じられているのです」
「ミリア嬢が?」
「はい。ですから──」
思い詰めないで下さいと言おうとしたら、ギルハード様に跪かれてしまった。いきなりなに!?
「ミリア嬢、此度の件で貴女は怪我を負われています。その一因を作ったのは紛れもなく我が主君。本来ならば、このようなことを申し上げるべきではないのかもしれません。ですが、どうか寛大なご処分をお願い申し上げます」
切実な声で嘆願され、頭を下げられて私は困惑してしまった。
ど、どうしよう。はっきり言ってまだギーシャ王子達をどうするかなんて考えてない。
見通しなんで全然立ってない、全くのノープラン。
何も考えてなかった頭に突然、ギルハード様の嘆願という情報がぶっ込まれ、脳内が弾け、思考がぐるぐる回る。だが、どんなに思考を巡らせても纏まらなければ意味がない。白紙状態の今、なんて答えれば!?
うーんと、えーと・・・・・・とりあえず立ってもらおう!
公爵令嬢という立場だが、人に跪かれたり、かしずかれたりするのは苦手なのだ。相手がギルハード様なら尚更。この光景を事情を知らない人が見たら何事かと二度見されると思う。今、ここに私達以外いなくてよかったー!
「ギ、ギルハード様、そのようなことはお止め下さい。貴方が頭を下げる必要はありません。ほら、お立ちになって──」
この時、私はギルハード様になんて答えようかという考えに脳を支配され、大切なことを忘れていた。そして、普段なら絶対にやらないことをしてしまった。
とにかく、立って跪くのを止めて貰おうとギルハード様の革手袋に覆われた手を掴み、引き上げようとして──
「──っ!」
一瞬、ギルハード様の体が強張り、次に手を思い切り振りほどかれた。
「わっ!」
強い力と勢いに私はびっくりしてバランスを崩し、尻餅をつく。たっぷりのパニエがクッション代わりになったくれたのか、痛みはない。おおー! パニエすごい! ありがとう!
なんて現実逃避でパニエに感心してたけど、うん、やめよう。
完全にやってしまった。
ギルハード様を見ると、蒼い顔をして私が触れた手をぎゅっと握り締めている。
眉間の皺が今日一深くなっており、唇を噛み締めている。
怒っているわけではない。ただ、恐れているのだ。
ゲームでのギルハード様のルートを思い出す。
ギルハード様はゲームで、そしてこの世界である名で呼ばれていた。
忌み名として嫌い、恐れていたその名前。
彼の首筋に浮かぶ黒い茨が目に入る。
その姿に相応しく、絡み付き、棘で刺し、ギルハード様を蝕むもの。
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