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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

共通点

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「え、私ってマリス嬢に似てるの?」
「はい。あと、リンス先輩にも似てますー」

 そう言われて頭上に浮かぶのはマリス嬢とリンス嬢によく似た猫が土煙をあげてぼかすか喧嘩する様子。キャットファイトを見た影響かな?

「一応訊くけど、どの辺が似てるの?」
「んー? なんか時々年不相応な雰囲気になるっていうか、こちらを見透かしてそうな感じがしますね」

 私とマリス嬢とリンス嬢。
 はっきり言って、全くタイプが違う。
 共通点なんて性別や年齢くらいしか思いつかないほど似てるところがないと思ってた。
 でも、先日発覚した共通点がある。
 転生者だということ。
 前世の記憶を持っていれば、精神年齢も上がるだろうし、同じゲームをプレイしていたのならキャラクターの事情に精通していてもおかしくない。
 キリくんは無意識に気づいたのだろう。
 流石に私達が前世の記憶を持ってるとは思ってないだろうけど、こことは全く異なる世界にいた時の名残のようなものがあるのかもしれない。
 かわいい顔してやっぱり侮れないなぁ。

「似てるのはそれだけ?」
「そうですね。あとは似てないっていうか、似ても似つかないですねー。全然タイプ違いますもん」

 似てるってそういうことね。
 私が人に掴みかかって喧嘩しそうなタイプに見えてたってわけじゃないのね。あー、よかった!

「ん? でも、見透かしてそうなところが苦手なのよね? キリくんは私のことは平気なの?」
「はい。ミリア先輩は弱そ──人畜無害って感じだから全然平気です」

 キリくん、今私のこと弱そうって言いかけたよね? 人畜無害も結構酷いけど・・・・・・。
 私舐められてるのかな? でも、私年下に弱いからなー。かわいい+年下とか最強じゃん。くっ、勝てない。

「お前はどこでそういう言葉を覚えてくるんだ・・・・・・」

 あのギルハード様でもキリくんには振り回されているらしい。すごい。

 さて、と。大分話し込んじゃったけど、そろそろギーシャ王子のところに行かなくちゃ。

「ギルハード様、キリくん。私はそろそろ・・・・・・」
「ああ、そうでしたね。お引き止めして申し訳ありません」
「ミリア先輩、ごめんねー?」

 私は軽く会釈をすると蕾宮へ向かって歩を進める。
 しかし、すぐにギルハード様に呼び止められた。

「ミリア嬢、もしかしてギーシャ王子の私室に向かわれますか?」
「? ええ。謹慎中でしたら私室にいらっしゃいますよね?」

 何故そんなことを訊くのだろうと不思議に思っていると、ギルハード様が気まずそうに口を開く。

「いえ・・・・・・ギーシャ殿下は私室にはいらっしゃいません」

 ん?

「え、謹慎中ですよね」

 まさか謹慎命令無視して外に出てるとか?
 いやいや、ギーシャ王子そんなアクティブじゃないし・・・・・・。

「はい。ギーシャ王子は謹慎を命じられた昨夜から必要最低限の事を除いて部屋から一歩たりとも出ておりません」

 んん? どういうこっちゃ?

「つまり?」
「ギーシャ殿下は別室で謹慎されてます」
「そうですか。では、その部屋を教えて頂けますか?」
「はい。まず蕾宮の中央の螺旋階段を三階まで上り、北の階段で五階まで行ってから西の階段を一階下り、向かって二番目の通路を曲がってから──」
「えーっと?」
「・・・・・・ご案内します」
「助かります」

 蕾宮は王族の住まいなだけあって万一に備えて造りが複雑になっている。あんな迷宮みたいな場所で働いている人達は本当に尊敬してしまう。
 あー、なんか思い出すなぁ。ちっちゃい頃、蕾宮で迷子になって王様が城の人達総動員させて私のこと探させて、一緒に遊んでたギーシャ王子が私が急にいなくなって泣いてたの。なつかしー。まぁ、私はその時、好奇心のままに動いてたから迷子になったこと自体気づいてなかったんだけど。

「キリ、私はミリア嬢を殿下の元までご案内してくるからお前は稽古に戻りなさい」
「はぁい。すぐ戻ってきてくださいね?」
「分かってる。ああ、木製剣を使うんだぞ」
「うー、やっぱまたあの玩具ですかー。わかりましたー」

 案内役を買って出てくれたギルハード様がキリくんにそう言うと、キリくんは槍を肩に担いで稽古をしていた場所に戻って行く。
 身の丈以上の槍は持ちにくそうで、刃先が地面に線を刻んでいる。

「ではご案内お願いします・・・・・・ギルハード様?」

 声をかけたけど、ギルハード様は動かずにキリくんの背中を見ている。

「キリには自分のことは自分でするように教えてます」
「はぁ」
「だから、自分の使った武器も自分で片付けさせています」
「自分で出したら自分で仕舞う、ですね」
「はい。ですが、また飛ばしかねないので」
「あ、成程」

 察した。
 キリくんがあの槍を仕舞うまでは見ていようということか。
 小さな体で大きな槍を懸命に運ぶ姿を見ていると、なんだか我が子を見ている気持ちになってくる。私がこんな気持ちなんだから、兄騎士のギルハード様はそれ以上だろう。
 こっそりと顔を窺えば、温かな瞳をキリくんに向けていた。なんかこう、父性的なものを感じる。
 キリくんが槍用の柵に槍を立てかけ、木製剣に持ち返ると、私達が見ていることに気づいたのかこちらに笑顔で手を振ってきたので私も振り返した。
 あ、木製剣が飛んでった。
 まぁ、木製剣はすごく軽い木で作られているちっちゃい子用の玩具だからあまり危険じゃないし、周囲に人もいないから大丈夫かな?

「お待たせ致しました。ご案内します」
「よろしくお願いします」

 私は先を行くギルハード様の後に続いて渡り廊下を進み、蕾宮の中へ足を踏み入れた。
 久しぶりに来たなぁ。相変わらず綺麗で塵一つないや。
 華美すぎず、ごてごてした装飾はなく、代わりに繊細な細工がそこらかしこに施された蕾宮。天井や壁には花や鳥などの細かな模様があり、建てた人間の拘りが感じられる。
 しかし、ずっと鑑賞している訳にもいかない。

「最初は螺旋階段を三階まで、ですよね」
「はい」

 中央にある大理石の螺旋階段を上り、歩いて階段、歩いて階段。ん? なんかこの道覚えてるような?

 私が記憶を辿っていると、突然ギルハード様が足を止めた。

「ギルハード様?」

 名前を呼ぶとギルハード様は振り返り、言った。

「ミリア嬢、殿下の元へ行く前に少々二人でお話させて頂いてもよろしいでしょうか?」
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