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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

激おこ陛下

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「伝統あるフレイズ学園の卒業パーティーで取っ組み合いの大騒ぎをした挙げ句、王家の血を引く者を害するとはなんということか! その二名の女生徒には即刻ギャーシャ諸供、厳罰を与えろ!」

 扉の向こうから重厚でよく響く男性の声がし、びくりと体が跳ね上がった。
 びっくりしたー。王様、相変わらず声大きいなー。
 そう、今私がいるのは王宮。しかも王様のいる謁見の間の真ん前。

 夕べ、カルム先生に言われた通りに私は王宮に呼び出された。先生の薬のおかげで腫れ自体はもう引いたけど、ぶっちゃけまだ背中は痛いし、そのせいで慣れない俯せの格好で寝たから熟睡できなかった。
 正直、もう少し休みたかったけど、そうこうしているうちに王様がもっとキレそうなので体に鞭打って登城したのだ。偉いでしょ? 誰か褒めて。

「陛下、ごきげんよう。そのようにお怒りになられてはせっかくの偉丈夫が台無しですよ」

 私は入室するとドレスの裾をちょんと摘まんでお姫様の挨拶。 前世では絶対にやることはないと思ってたから最初は抵抗あったけど、今ではすっかりなれて最早プロ級と言ってもいいと思う。
 ちなみに本日のドレスは薄い水色で胸元に白い薔薇飾りと銀のリボンがあしらわれているエレガントなデザインのものだ。そして、このドレスは王様からの頂き物。これを着て、にっこりと微笑んで見せると陛下は、

「ミリア! 私に会いに来てくれたのか。おお、それはこの間送ったドレスだね。よく似合っているよ。愚息が酷い迷惑を掛けてしまったね。すまない。怪我の具合はどうだ? 必要なものがあるなら言いなさい。なんなら、怪我が完治するまでは王宮で静養するといい。兄様もお喜びになられるだろう。ああ、会っていくだろう?」
「お心遣い感謝致します。陛下。お父様には後で会いに行こうと思います」

 笑顔で捲し立ててくる王様に私は微笑みながらそれだけ返した。
 獅子の鬣のような金髪に真夏の空のような紺碧の瞳。彫像のように整った美しくも王者の風格を纏った面立ち。国民が揃って自慢したくなるような男らしい美貌のこの男性こそ、レイセン王国の現国王、レヴェル・ライゼンベルトその人である。
 つまり、ギーシャ王子のお父さん。
 相変わらずのマシンガンぶりだなー。よく通る声だから至近距離で聞くと寝不足の頭がキンキンする。

「お髭を切られたんですね」
「ん? ああ、気づいたか。私は気に入ってたんだが、何故か臣下に不評でな」

 王様は臣下の人達に比べて若いためか、舐められないようにとオールバックにしたり、髭を生やしたりと色々年上に見られる工夫をしている。
 うん、でもやっぱお髭はない方がいいや。顔が若々しすぎて似合ってなかったもんね、あのちょび髭。
 すっきりとした王様の鼻の下を見てから、私は王様の目を見て言った。

「陛下、ギーシャ王子達は?」

 訊きたかったことを尋ねると王様は眉間に皺を寄せて不機嫌に答えた。

「愚息なら自室で謹慎中だ。残り二名の女生徒も自宅謹慎を言い渡している。安心しなさい。三人には然るべき罰を与えるからね」

 そう言って王様はぽんっと私の肩を叩いて微笑むけれど、全く安心出来ない。怒りながらそんな輝く笑顔をしないで。怖いから。

 ぶっちゃけ、王様は私に激甘だ。
 ちっちゃい頃からめちゃくちゃに可愛がられていたし、なんなら実の子以上の待遇を受けていたと思う。
 だから、今回の件で王様の怒りゲージはどっかーんとカンスト状態だと思う。
 私の前では顔に出さないけど、さっきの怒鳴り声聞こえてたからね?
 私が痛みと寝不足に耐えて昨日の今日で登城したのは王様が怒りに任せて三人に行き過ぎた罰を与えないように説得するため。
 普段は正当で妥当な判断をされる王様だけど、割りと感情的な人だから今回の件は結構ヤバいと思う。

「陛下、罰とはどのような」
「ふぅむ、国外追放とかが妥当か?」
「待っっって下さい!」

 ヤッバ! やっぱ早めに来てよかったわー。あれで国外追放はヤバい。流石にやり過ぎでしょ。

「どうした、ミリア」
「陛下。マリス嬢とリンス嬢の私闘及び、原因を作られたギーシャ王子にはなんらかの罰が与えられるべきだとは思います。ですが、私の怪我は近くにいた私の方に責任がございます。どうか、寛大なご判断をお願いします」
「おお、ミリアは本当に心優しい」

 王様がじーんと感動してるけど、いやいや、違うから、そーいうんじゃないから。
 あの時、私は好奇心で無意識に前に出ていた。まぁ、自業自得の面もある。好奇心は猫をも殺すとは正にこれ。もし下敷きになったのが私じゃなかったら王様の判断も変わっているだろう。だからこそ正しい判断をしてもらいたい。
 殴りあった挙げ句に巻き込んだ相手が悪かったせいで国外追放じゃ可哀想すぎる。まぁ、罰は受けて貰わなくちゃいけないけど。

「しかし、これ程の騒ぎを起こした以上は相応の──身分剥奪とか」
「それもちょっと・・・・・・」

 いやいやいや、王様まだ怒ってるよ。身分剥奪って。てゆーか、特別な魔力を持つヒロイン──マリス嬢を手放すのは王族としても不利益では?
 子供──マリス嬢とリンス嬢の実際の精神年齢は知らないが──のやったことだし、もうちょっと穏便にすませられないかなー?

 あーでもないこーでもないと王様と話し合っていると、一人の男性が部屋に入ってきた。
 淡い金色の猫っ毛に雲一つない冬の空のように透き通った瞳。華奢な体躯に白い肌。ワイシャツにスラックスというラフというかこの世界の男性の寝衣である服装で肩には若草色のカーディガンを羽織っている。
 中性的で儚い姿をした男性は王様の目の前であるにも関わらず、気怠そうに壁に凭れ掛かり、にっこりと微笑んでいる。その姿はどこか艶めかしくて私でさえ、一瞬固まってしまった。

「兄様!」

 王様はそう言うや否や、まるで瞬間移動でもしたのではと疑いたくなる速さで男性の元に駆け寄り、その細い体を支えた。

「大丈夫ですか?」
「あはは、平気だよ。ミリアが騒ぎに巻き込まれて登城するって聞いたから来たの。ミリア、久しぶり。お母さんと僕の可愛い子供たちは元気?」
「はい、元気にしてますよ。お母様は特に。お父様は──お変わりないようで」
「良くも悪くもね」

 苦笑した男性はそのまま王様に手を引かれて此方へと進んでくる。流石は美形兄弟。絵になるなー。

 ところで、今言ったようにこの儚げ美人さんは何を隠そう王様の異母兄にして私の今世の父、ナルク・ライゼン・メイアーツなのです。
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