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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
修羅場間幕
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「うぅ・・・・・・ん? う~ん・・・・・・うぇ!?」
唸りながら目を覚ますとびっくりする程の美人さんが私を覗き込んでいて、思わずがばりと起き上がってしまった。
すると──ごつん!
「あう! うぎっ!?」
「──っ!」
美人さんとおでこがごっつんこ。ついでにマリス嬢の下敷きになった際に打ったであろう背中も痛んだ。
ああああ~~っ、いったぁ!
ずきずきする額とジンジンする背中を擦っていると、同じく額を擦っている美人さんが私に訊ねた。
「ミリア、具合はどうだ?」
「額と背中がすっごく痛いです!」
「だろうな」
思わず梳きたくなるようなさらさらの銀髪。水平線の彼方に溶ける太陽のような橙色の瞳。純白の白衣に包まれた細い体躯。
おお。相変わらずの美人っぷり。流石はユーザーに何故攻略対象じゃないのかと悶絶させたミスター・ビューティー。
そんな美人さんの正体は宮廷医のカルム・ベアテル先生。私が気絶したから多分お父様が呼んでくれたんだろうな。
「すみません。ご足労お掛けして」
「メイアーツ家は王宮の目と鼻の先だ。気にすることはない」
そっけなく見えるがこれはカルム先生の通常運転だ。昔からこんな感じで昔からめっちゃ美人さんだった。
私は小さい頃、まだ宮廷医見習い──前世で言うところの研修医──だったカルム先生とひょんな事で知り合い、当時から好奇心の赴くままうろちょろしてはやんちゃが過ぎて作った傷の手当てをカルム先生にしてもらっていた。懐かしい。
「それでどうですかね。私の背中」
「ああ。気を失っている間に診させてもらったが、打撲だな。腫れているが骨に異常はない。さっき軟膏を塗らせてもらった」
「え? カルム先生が塗ったんですか?」
「俺の魔力に合わせた魔法薬しか持ってきてなかったからな。俺とミリアの魔力は相性がいいから直ぐ効いてくる。痛みも明日の朝には引くだろう。その後は普通の軟膏で構わない。侍女に渡しておいたから赤みが引くまでは朝夕に塗るように」
「はーい」
魔力で作られた軟膏タイプの魔法薬は作り手が塗り込むことで作り手の魔力と薬の魔力を繋がり、魔力の密度が高まる為、効力が高まるらしい。
まぁ、それなら仕方ないか。
「どうした?」
「別に。ただ、私もお年頃ですから」
「・・・・・・言っておくが服を脱がしたのは侍女だ。俺は背中しか見ていないぞ」
仕方ないと思いつつ、膨れながらそっぽを向いていたため、カルム先生も察したらしくそう付け加えた。
転生してから人に肌見せる機会とかほとんどないからなー。水着とかないし、服は基本ドレスだし。学園の制服もスカート膝丈にタイツだし。ああ、体育の授業ではスコート履くけど。
背中の開いたドレスとかあるけどお兄様達が猛反対するしなー。
何が言いたいかというとちょっぴり恥ずかしかったです! ちょっぴりね!
「にしても、大変な騒ぎだったそうだな」
「卒業パーティーですか? ええ、あの騒動はきっと前代未聞の女生徒同士の殴り合いとして語り継がれると思いますよ」
卒業パーティーと言っても、実際は高等部へ上がる進級パーティーだし、高等部の卒業パーティーは別の日取りだからそれがせめてもの救いだろう。学園最後のパーティーがあれとか嫌すぎる。いや、まぁ、中等部の皆も気の毒だとは思うけどね!?
てーか、マリス嬢とリンス嬢どーすんだろ。高等部上がったら絶対に変な空気になるぞ。というか今何してんだろ?
「カルム先生、マリス嬢とリンス嬢はどうなりましたか? 後ギーシャ王子も」
壮絶なキャットファイトに隠れて忘れそうになっていたが、ギーシャ王子も充分当事者だ。王家とて体裁を整える為に何らかの処分はしているだろう。
「ミリアを潰した少女とシュナイザー家の令嬢だったら、マリス嬢だったか? はお前と一緒に気絶して、シュナイザー嬢は拳を突き上げて仁王立ちしながら高笑いしていたところを取り押さえられたらしい。ギーシャ王子は騒ぎを見て眩暈を起こしたところを騎士に連れられて別室で休まれたそうだ。三人とも処分が下るまでは謹慎らしい」
「そうですか・・・・・・ふっ、く!・・・・・・ふふっ」
「どうした?」
「いえ、ふふっ・・・・・・なんでも・・・・・・っ」
脳裏にリングの上でボクシンググローブをしたリンス嬢が勝者のポーズを決める映像と勝利のゴングが流れ、うっかり吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
「別にいいが。今日はゆっくり休め。忙しくなるんだから」
「忙しく?」
意味が分からなく首を傾げるとカルム先生も首を傾げた。
「何か行事とかありましたっけ?」
「いや、今回の件は当然陛下の耳に入られるだろう。そうなったら今回の件の被害者として──というより、宥め役として呼ばれることになるだろう」
「・・・・・・なんという二次被害」
ヤバい。明日から第二の修羅場が待っている。
これから起こるであろう厄介ごとに私は頭を抱えた。
唸りながら目を覚ますとびっくりする程の美人さんが私を覗き込んでいて、思わずがばりと起き上がってしまった。
すると──ごつん!
「あう! うぎっ!?」
「──っ!」
美人さんとおでこがごっつんこ。ついでにマリス嬢の下敷きになった際に打ったであろう背中も痛んだ。
ああああ~~っ、いったぁ!
ずきずきする額とジンジンする背中を擦っていると、同じく額を擦っている美人さんが私に訊ねた。
「ミリア、具合はどうだ?」
「額と背中がすっごく痛いです!」
「だろうな」
思わず梳きたくなるようなさらさらの銀髪。水平線の彼方に溶ける太陽のような橙色の瞳。純白の白衣に包まれた細い体躯。
おお。相変わらずの美人っぷり。流石はユーザーに何故攻略対象じゃないのかと悶絶させたミスター・ビューティー。
そんな美人さんの正体は宮廷医のカルム・ベアテル先生。私が気絶したから多分お父様が呼んでくれたんだろうな。
「すみません。ご足労お掛けして」
「メイアーツ家は王宮の目と鼻の先だ。気にすることはない」
そっけなく見えるがこれはカルム先生の通常運転だ。昔からこんな感じで昔からめっちゃ美人さんだった。
私は小さい頃、まだ宮廷医見習い──前世で言うところの研修医──だったカルム先生とひょんな事で知り合い、当時から好奇心の赴くままうろちょろしてはやんちゃが過ぎて作った傷の手当てをカルム先生にしてもらっていた。懐かしい。
「それでどうですかね。私の背中」
「ああ。気を失っている間に診させてもらったが、打撲だな。腫れているが骨に異常はない。さっき軟膏を塗らせてもらった」
「え? カルム先生が塗ったんですか?」
「俺の魔力に合わせた魔法薬しか持ってきてなかったからな。俺とミリアの魔力は相性がいいから直ぐ効いてくる。痛みも明日の朝には引くだろう。その後は普通の軟膏で構わない。侍女に渡しておいたから赤みが引くまでは朝夕に塗るように」
「はーい」
魔力で作られた軟膏タイプの魔法薬は作り手が塗り込むことで作り手の魔力と薬の魔力を繋がり、魔力の密度が高まる為、効力が高まるらしい。
まぁ、それなら仕方ないか。
「どうした?」
「別に。ただ、私もお年頃ですから」
「・・・・・・言っておくが服を脱がしたのは侍女だ。俺は背中しか見ていないぞ」
仕方ないと思いつつ、膨れながらそっぽを向いていたため、カルム先生も察したらしくそう付け加えた。
転生してから人に肌見せる機会とかほとんどないからなー。水着とかないし、服は基本ドレスだし。学園の制服もスカート膝丈にタイツだし。ああ、体育の授業ではスコート履くけど。
背中の開いたドレスとかあるけどお兄様達が猛反対するしなー。
何が言いたいかというとちょっぴり恥ずかしかったです! ちょっぴりね!
「にしても、大変な騒ぎだったそうだな」
「卒業パーティーですか? ええ、あの騒動はきっと前代未聞の女生徒同士の殴り合いとして語り継がれると思いますよ」
卒業パーティーと言っても、実際は高等部へ上がる進級パーティーだし、高等部の卒業パーティーは別の日取りだからそれがせめてもの救いだろう。学園最後のパーティーがあれとか嫌すぎる。いや、まぁ、中等部の皆も気の毒だとは思うけどね!?
てーか、マリス嬢とリンス嬢どーすんだろ。高等部上がったら絶対に変な空気になるぞ。というか今何してんだろ?
「カルム先生、マリス嬢とリンス嬢はどうなりましたか? 後ギーシャ王子も」
壮絶なキャットファイトに隠れて忘れそうになっていたが、ギーシャ王子も充分当事者だ。王家とて体裁を整える為に何らかの処分はしているだろう。
「ミリアを潰した少女とシュナイザー家の令嬢だったら、マリス嬢だったか? はお前と一緒に気絶して、シュナイザー嬢は拳を突き上げて仁王立ちしながら高笑いしていたところを取り押さえられたらしい。ギーシャ王子は騒ぎを見て眩暈を起こしたところを騎士に連れられて別室で休まれたそうだ。三人とも処分が下るまでは謹慎らしい」
「そうですか・・・・・・ふっ、く!・・・・・・ふふっ」
「どうした?」
「いえ、ふふっ・・・・・・なんでも・・・・・・っ」
脳裏にリングの上でボクシンググローブをしたリンス嬢が勝者のポーズを決める映像と勝利のゴングが流れ、うっかり吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
「別にいいが。今日はゆっくり休め。忙しくなるんだから」
「忙しく?」
意味が分からなく首を傾げるとカルム先生も首を傾げた。
「何か行事とかありましたっけ?」
「いや、今回の件は当然陛下の耳に入られるだろう。そうなったら今回の件の被害者として──というより、宥め役として呼ばれることになるだろう」
「・・・・・・なんという二次被害」
ヤバい。明日から第二の修羅場が待っている。
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