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req.1 はじまりの一夜
4. トワルの変身
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ということで。
国王の死体を見ては失神を繰り返されても話が進まないので、リュシメルたちは場所を変えることにした。
場所はE-12。最初にリュシメルが呼ばれた部屋だった。
そこでふと、リュシメルは思った。
「あれ? 貴女たちはE-12って指定されなかったの? 普通に陛下の寝室に来たけど」
トワルが先にリュシメルを寝室へ連れて行ったため、E-12はもぬけの殻だったはず。
国王の寝室とは隣り合っているとはいえ、防音設備が徹底された部屋からリュシメルとトワルの声が聞こえたというのは有り得ないだろう。
「んーん。私たちもこの部屋に呼ばれてたけど、二人がいなかったから私が探知して隣の部屋にいるって分かったから、移動したの」
「ああ、なるほど」
この場にいる四人の中で一番小柄でありながら、ベアモントを肩にかけるように担いで運んで来たイルルの説明にリュシメルは頷いた。
何故、そんなことが出来たのか。
そのことを疑問に思う者はいなかった。
「やっぱ、意識のない人って重~い! ていっ!」
どさりと弛緩したベアモントの体が二人掛けのソファに落とされる。
一仕事終えたイルルは肩をぐるんぐるんと回し、一心地つくように息を吐いた。
「ベアモントも流石に直接死体を見なければ、もう失神しないでしょ。で、王子。どうするんです?」
「とりあえず、ベアモントを起こそうか。説明が二度手間になっちゃうからね」
「はいはい。ベアモント、起きてー」
リュシメルがベアモントの体を揺さぶり、起こそうと試みる。
「う、ううー・・・・・・?」
ベアモントは唸りながらも目を覚ました。
失神を繰り返したせいか、顔色は最悪で目も焦点が合っていない。それでも、額を押さえて上体を起こす。
「あ、あれ? 僕は一体──」
「陛下の死体見て、七回も失神したんだよー。ベア、平気? あ、星砂糖あげる」
イルルがスカートのポケットから小瓶を取り出し、その中から星砂糖を一粒手のひらに転がし、ベアモントの口元に差し出した。
ベアモントは特に抵抗感もなく口を開き、放り込まれた星砂糖を舌で味わった。
「いいなー。イルル、私も私も」
ちょうだい、ちょうだい、とリュシメルが両手を差し出し、星砂糖をねだったがイルルは小瓶の栓を閉めポケットに戻してしまった。
「だぁめ。これは頭痛や眩暈用の特別製だから。はい、リュシメルにはこっちのただのとびきり美味しいトリュフチョコをあげる」
「チョコ!」
どこから取り出したのか。小瓶を仕舞った手とは逆の手にいつの間にかトリュフチョコの入った透明なラッピング袋を手にしていた。
「もぐもぐ・・・・・・ふふっ、あまぁい・・・・・・♪」
口の中でとろけるトリュフチョコを一粒ずつ、愛おしむ様に食べ、頬を緩めるリュシメル。
その傍らではベアモントが沈んだ空気を醸し出していた。
「陛下が死んだ・・・・・・? 何でそんな場所に僕を? 殿下は何を考えて──ま、まさか殿下が陛下を──いやいや、このタイミングじゃメリットが──」
ぶつぶつと呟き、リュシメルと同様の疑いをトワルに向けている。協力者とは一体何なのか。
「大丈夫だよ、ベアモント。別に僕が殺った訳じゃないから。ほら、落ち着いて。イルルのお菓子を食べながら作戦会議をしようね。お茶を淹れてくれるかな?」
「わー、悪魔がいる」
ベアモントをフォローを装いつつ、早く事を進めようとしているトワルを見て、リュシメルが呟いた。
「美味しい」
ベアモントの淹れたお茶を口にしたリュシメルはほぅっと感嘆した。
口の中に広がる紅茶の芳香。
セオリーをきちんと踏まえて抽出された味わいが舌に広がり、お菓子に向く手が止められない。
「やっぱ、ベアモントの淹れるお茶は一味違うわねぇ。私がやってもこうはならないわ」
「そんな、ただの慣れですよ」
恐縮ですと、肩をベアモントが肩をすぼめる。
「はいはい。そろそろ本題に入っていいかな? ここはカフェテリアじゃないんだよ。歓談はほどほどに。言っておくけど、本当に時間がないんだからね」
パンパンっとトワルが、教育者のように手を叩いて三人の視線を集める。
まだ、公にはなっていないものの、国家の一大事が隣室に広がっているというのに、呑気なものだった。
焦ってどうなるというものでもないというのも事実だが、それを差し引いてもこの場にいる面子の順応力は高いだろう。
一番長く取り乱していたベアモントも、すでに現状を冷静に把握している。
「いいですよー。私はさっきちらっと訊きましたけど、陛下の死の隠蔽ってどうやるんですか? 臥病扱いにして、公的な場では王子が出るとか?」
「半分正解で半分ハズレかな。正解は、父上には今まで通り、国王でいて貰う。もちろん、公の場でもね」
「は?」
死んだ人間をどうやって公の場に出すのだと、リュシメルは間の抜けた声を上げた。
「えーと・・・・・・それは一体・・・・・・?」
おずおずとベアモントが訊ねると、トワルが立ち上がった。
「こういうこと」
そう言うと、トワルの体が柔らかな光に包まれ、その姿を変えていく。
光が薄れて消えると、そこには黒髪に髭を蓄えた大柄な男が立っていた。
四十代後半くらいと思われるその男は紛れもないホルド王国国王ラグレニア=スクエヴンその人だった。
「ああ、そういうことですか」
そこまで見せられて、リュシメルは納得した表情で紅茶を啜った。
トワルの変貌に誰も驚かない。
先程、イルルの探知能力に誰も突っ込まなかったように。
国王の死体を見ては失神を繰り返されても話が進まないので、リュシメルたちは場所を変えることにした。
場所はE-12。最初にリュシメルが呼ばれた部屋だった。
そこでふと、リュシメルは思った。
「あれ? 貴女たちはE-12って指定されなかったの? 普通に陛下の寝室に来たけど」
トワルが先にリュシメルを寝室へ連れて行ったため、E-12はもぬけの殻だったはず。
国王の寝室とは隣り合っているとはいえ、防音設備が徹底された部屋からリュシメルとトワルの声が聞こえたというのは有り得ないだろう。
「んーん。私たちもこの部屋に呼ばれてたけど、二人がいなかったから私が探知して隣の部屋にいるって分かったから、移動したの」
「ああ、なるほど」
この場にいる四人の中で一番小柄でありながら、ベアモントを肩にかけるように担いで運んで来たイルルの説明にリュシメルは頷いた。
何故、そんなことが出来たのか。
そのことを疑問に思う者はいなかった。
「やっぱ、意識のない人って重~い! ていっ!」
どさりと弛緩したベアモントの体が二人掛けのソファに落とされる。
一仕事終えたイルルは肩をぐるんぐるんと回し、一心地つくように息を吐いた。
「ベアモントも流石に直接死体を見なければ、もう失神しないでしょ。で、王子。どうするんです?」
「とりあえず、ベアモントを起こそうか。説明が二度手間になっちゃうからね」
「はいはい。ベアモント、起きてー」
リュシメルがベアモントの体を揺さぶり、起こそうと試みる。
「う、ううー・・・・・・?」
ベアモントは唸りながらも目を覚ました。
失神を繰り返したせいか、顔色は最悪で目も焦点が合っていない。それでも、額を押さえて上体を起こす。
「あ、あれ? 僕は一体──」
「陛下の死体見て、七回も失神したんだよー。ベア、平気? あ、星砂糖あげる」
イルルがスカートのポケットから小瓶を取り出し、その中から星砂糖を一粒手のひらに転がし、ベアモントの口元に差し出した。
ベアモントは特に抵抗感もなく口を開き、放り込まれた星砂糖を舌で味わった。
「いいなー。イルル、私も私も」
ちょうだい、ちょうだい、とリュシメルが両手を差し出し、星砂糖をねだったがイルルは小瓶の栓を閉めポケットに戻してしまった。
「だぁめ。これは頭痛や眩暈用の特別製だから。はい、リュシメルにはこっちのただのとびきり美味しいトリュフチョコをあげる」
「チョコ!」
どこから取り出したのか。小瓶を仕舞った手とは逆の手にいつの間にかトリュフチョコの入った透明なラッピング袋を手にしていた。
「もぐもぐ・・・・・・ふふっ、あまぁい・・・・・・♪」
口の中でとろけるトリュフチョコを一粒ずつ、愛おしむ様に食べ、頬を緩めるリュシメル。
その傍らではベアモントが沈んだ空気を醸し出していた。
「陛下が死んだ・・・・・・? 何でそんな場所に僕を? 殿下は何を考えて──ま、まさか殿下が陛下を──いやいや、このタイミングじゃメリットが──」
ぶつぶつと呟き、リュシメルと同様の疑いをトワルに向けている。協力者とは一体何なのか。
「大丈夫だよ、ベアモント。別に僕が殺った訳じゃないから。ほら、落ち着いて。イルルのお菓子を食べながら作戦会議をしようね。お茶を淹れてくれるかな?」
「わー、悪魔がいる」
ベアモントをフォローを装いつつ、早く事を進めようとしているトワルを見て、リュシメルが呟いた。
「美味しい」
ベアモントの淹れたお茶を口にしたリュシメルはほぅっと感嘆した。
口の中に広がる紅茶の芳香。
セオリーをきちんと踏まえて抽出された味わいが舌に広がり、お菓子に向く手が止められない。
「やっぱ、ベアモントの淹れるお茶は一味違うわねぇ。私がやってもこうはならないわ」
「そんな、ただの慣れですよ」
恐縮ですと、肩をベアモントが肩をすぼめる。
「はいはい。そろそろ本題に入っていいかな? ここはカフェテリアじゃないんだよ。歓談はほどほどに。言っておくけど、本当に時間がないんだからね」
パンパンっとトワルが、教育者のように手を叩いて三人の視線を集める。
まだ、公にはなっていないものの、国家の一大事が隣室に広がっているというのに、呑気なものだった。
焦ってどうなるというものでもないというのも事実だが、それを差し引いてもこの場にいる面子の順応力は高いだろう。
一番長く取り乱していたベアモントも、すでに現状を冷静に把握している。
「いいですよー。私はさっきちらっと訊きましたけど、陛下の死の隠蔽ってどうやるんですか? 臥病扱いにして、公的な場では王子が出るとか?」
「半分正解で半分ハズレかな。正解は、父上には今まで通り、国王でいて貰う。もちろん、公の場でもね」
「は?」
死んだ人間をどうやって公の場に出すのだと、リュシメルは間の抜けた声を上げた。
「えーと・・・・・・それは一体・・・・・・?」
おずおずとベアモントが訊ねると、トワルが立ち上がった。
「こういうこと」
そう言うと、トワルの体が柔らかな光に包まれ、その姿を変えていく。
光が薄れて消えると、そこには黒髪に髭を蓄えた大柄な男が立っていた。
四十代後半くらいと思われるその男は紛れもないホルド王国国王ラグレニア=スクエヴンその人だった。
「ああ、そういうことですか」
そこまで見せられて、リュシメルは納得した表情で紅茶を啜った。
トワルの変貌に誰も驚かない。
先程、イルルの探知能力に誰も突っ込まなかったように。
応援ありがとうございます!
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