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雇い主は誰?
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「では、説明していただきましょうか?」
どこから取り出されたのか、お母様に縄でぐるぐる巻きにされて鎮座している犯人さんを見下ろしながら、私は言いました。
「説明? 貴族のお嬢さんが俺なんぞに何の説明を求めるってんだ?」
この期に及んで惚けるおつもりのようです。
「知らないフリをしてやり過ごそうとしても無駄ですよ。すでにこちらはあの日、油を撒いた犯人が貴方だということは分かっているのです。だから貴方も逃げたのでしょう? さぁ、観念して知っていることを全て話して下さい」
「知らねぇなぁ。俺は物覚えが悪いんだ。ああ、だがあんたらが懐を温めてくれるんなら、ふとした拍子に思い出すかもしれねぇ」
金銭の要求ですか・・・・・・。
お金で情報を差し出すということは、ただの雇われさんですね。あまり事情は知らなさそうですけれど、雇い主の方とセイラ様の関連性さえ引き出せれば問題ありませんね。
当然ながらお金をお支払いする気はありません。もし金品の類いを渡して証言をさせたことが分かれば、ルオルカの法律上たとえ証言が事実であっても効力を失ってしまうからです。
「生憎ですが、そのような融通を利かせることは出来ません。どうか善良な心を持って、お話し頂けませんか? あの日、廊下に油を撒いたのが貴方なのか。それは誰の指示だったのかを」
「くははははっ! アンタいくつだ? お願いしたら相手が「いーよ!」って快く答えてくれると本気で思ってるのか? とんだガキだな! 答えて欲しけりゃ出すもん出せよ。話はそれからだろーが!」
これはまた、随分と品のない・・・・・・。
ブランカ学園は王侯貴族の通う学舎です。そんな場所にこのような乱暴な言葉遣いをする方が雇用される筈ありません。恐らく、この人に指示を出している方が手を回したのでしょうが、だとしたらかなりの有力者も噛んでいる可能性も出てきましたね。
何はともあれ、まずは情報収集です。元より正直に話して頂けるとは期待しておりませんでしたし、二度もお力を借りるのは少々心苦しいですが、仕方ありません。
「そうですか。では、こちらも別の手段に訴えるだけです。──お母様、申し訳ありませんが、お願いします」
「しょうがないわねぇ」
「な、何しやがる!?」
口でそう言いつつも、お母様は清掃員さんの額に人差し指を当て、魔法を発動されました。
「氷華五弁・透見『思海盗視』」
すると、清掃員さんの頭に雪の結晶で出来た天使の輪のようなものが現れます。雪の輪からはキラキラとした青白い光の欠片が生まれ、それがお母様の瞳へと流れて行きます。
「お母様」
私がお呼びすると、お母様は魔法を解除され、ふんふんと頷いてから言いました。
「雇い主は男性だったわよ。四十代くらいの、身なりのいい。けれど社交会とかで会ったことはないわねぇ」
ということは貴族の可能性は低い、ということでしょうか。ルオルカ王国は豊かな国ですので富裕層も多く、四十代の貴族ではない身なりのいい男性というだけでは特定は無理です。それこそ、お母様に王都のあちらこちらを歩き回って貰うしか──なんて非効率的な・・・・・・。駄目です。別の方法を考えなくては。
「あとね、名前は──」
「! 名前も分かるのですか!?」
「うん。私が覗いたのはあくまでこの人の記憶だから、偽名の可能性はあるけどね」
確かにその可能性は高いですね。わざわざ悪いことをするために雇った人間に本名を名乗るなんて、顔を隠さずに強盗をするようなものです。
あまり信頼性はありませんが、偽名にも人柄を表す特徴のようなものがあるかもしれません。
──ルオルカ王国で一番多い名前と姓の組み合わせとかかもしれませんが、一応訊いておきましょう。
「構いません。教えていただけますか?」
私がそう言うと、お母様は聞き間違えないように一音一音はっきりとした声で教えて下さいました。
「バルド・クレイン」
どこから取り出されたのか、お母様に縄でぐるぐる巻きにされて鎮座している犯人さんを見下ろしながら、私は言いました。
「説明? 貴族のお嬢さんが俺なんぞに何の説明を求めるってんだ?」
この期に及んで惚けるおつもりのようです。
「知らないフリをしてやり過ごそうとしても無駄ですよ。すでにこちらはあの日、油を撒いた犯人が貴方だということは分かっているのです。だから貴方も逃げたのでしょう? さぁ、観念して知っていることを全て話して下さい」
「知らねぇなぁ。俺は物覚えが悪いんだ。ああ、だがあんたらが懐を温めてくれるんなら、ふとした拍子に思い出すかもしれねぇ」
金銭の要求ですか・・・・・・。
お金で情報を差し出すということは、ただの雇われさんですね。あまり事情は知らなさそうですけれど、雇い主の方とセイラ様の関連性さえ引き出せれば問題ありませんね。
当然ながらお金をお支払いする気はありません。もし金品の類いを渡して証言をさせたことが分かれば、ルオルカの法律上たとえ証言が事実であっても効力を失ってしまうからです。
「生憎ですが、そのような融通を利かせることは出来ません。どうか善良な心を持って、お話し頂けませんか? あの日、廊下に油を撒いたのが貴方なのか。それは誰の指示だったのかを」
「くははははっ! アンタいくつだ? お願いしたら相手が「いーよ!」って快く答えてくれると本気で思ってるのか? とんだガキだな! 答えて欲しけりゃ出すもん出せよ。話はそれからだろーが!」
これはまた、随分と品のない・・・・・・。
ブランカ学園は王侯貴族の通う学舎です。そんな場所にこのような乱暴な言葉遣いをする方が雇用される筈ありません。恐らく、この人に指示を出している方が手を回したのでしょうが、だとしたらかなりの有力者も噛んでいる可能性も出てきましたね。
何はともあれ、まずは情報収集です。元より正直に話して頂けるとは期待しておりませんでしたし、二度もお力を借りるのは少々心苦しいですが、仕方ありません。
「そうですか。では、こちらも別の手段に訴えるだけです。──お母様、申し訳ありませんが、お願いします」
「しょうがないわねぇ」
「な、何しやがる!?」
口でそう言いつつも、お母様は清掃員さんの額に人差し指を当て、魔法を発動されました。
「氷華五弁・透見『思海盗視』」
すると、清掃員さんの頭に雪の結晶で出来た天使の輪のようなものが現れます。雪の輪からはキラキラとした青白い光の欠片が生まれ、それがお母様の瞳へと流れて行きます。
「お母様」
私がお呼びすると、お母様は魔法を解除され、ふんふんと頷いてから言いました。
「雇い主は男性だったわよ。四十代くらいの、身なりのいい。けれど社交会とかで会ったことはないわねぇ」
ということは貴族の可能性は低い、ということでしょうか。ルオルカ王国は豊かな国ですので富裕層も多く、四十代の貴族ではない身なりのいい男性というだけでは特定は無理です。それこそ、お母様に王都のあちらこちらを歩き回って貰うしか──なんて非効率的な・・・・・・。駄目です。別の方法を考えなくては。
「あとね、名前は──」
「! 名前も分かるのですか!?」
「うん。私が覗いたのはあくまでこの人の記憶だから、偽名の可能性はあるけどね」
確かにその可能性は高いですね。わざわざ悪いことをするために雇った人間に本名を名乗るなんて、顔を隠さずに強盗をするようなものです。
あまり信頼性はありませんが、偽名にも人柄を表す特徴のようなものがあるかもしれません。
──ルオルカ王国で一番多い名前と姓の組み合わせとかかもしれませんが、一応訊いておきましょう。
「構いません。教えていただけますか?」
私がそう言うと、お母様は聞き間違えないように一音一音はっきりとした声で教えて下さいました。
「バルド・クレイン」
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