9 / 9
Another Side:外での異変
しおりを挟む
これは、カリンが地下書庫へ向かった後の話。
「じゃ、ちょっとグラム殿下と話して来まーす!」
そう言って手を振りながら奥へと入っていったカリンを見送ったリーナとカイルは、受付近くの壁際に避けてカリンとグラムの戻りを待っていた。
「一体全体、何がどうなってるんですか?」
「だーかーらー、俺も知らねぇって!」
行儀よく背筋を伸ばして立っているリーナが横目に、隣で壁に凭れかかっているカイルに訊ねると、カイルは頭を掻きながら頭を振った。
「飯済ませていつも通り図書館に行くかと思ったら、「婚約を破棄する旨をカリン君に伝えるから、カリン君を探しに行くぞ!」っていきなり言い出して、そのままワケわからんうちにああなったからな。頭、基本的に人の話聞かねぇし」
「ああ、だから貴方も頭を抱えていたんですね」
はぁ~、と二人のため息が重なる。
「なぁ、どーなると思う?」
「お嬢様とグラム殿下の話し合いですか? 正直、まず話し合いになるかどうか・・・・・・」
「だよなぁ」
二人の目蓋の裏には本に熱中するグラムと、グラムに完全スルーされてキレ散らかしているカリンの姿が鮮明に映っていた。
「とは言え、お嬢様がおっしゃっていたように、このタイミングでのご婚約の破棄はお嬢様にとっても本意ではありませんから、何としてでも説得されるでしょうね」
「いやいや、頭は手強いぞ~? 賭けてみるか?」
「カイル様?」
互いの主で賭けなど、とリーナにじとっと目で窘められたカイルは、ははっと笑ってしゃがみ込み、膝で頬杖をついてぼんやりと出入口の方を眺め始めた。
「ん? 何だあいつら?」
出入口が開き、ぞろぞろと入ってきた深緑のローブ集団に、カイルは怪訝そうな顔をして見せた。
「どこかの研究者団か何かではありませんか?」
「そーかぁ?」
リーナはローブのフードがやけに目深なのは気になったが、貴族学院に入館してきた以上、身元は保証されているだろうと特に気にしなかった。
しかし、カイルの眉間の皺はほどけない。
この時点で、カイルは明確にローブの集団に不信感を感じていた。
「あ、受付に行ったぞ」
「外部の人間なら、まずは入館証の提示義務がありますから当然でしょう」
「今度は奥の方に行った。ひょっとして、あいつらも地下書庫に用があるのか?」
「・・・・・・」
さっきカリンを案内した女性教員に通されて、奥へとぞろぞろ入って行くローブの集団に、リーナも何か引っ掛かるものを感じ、その動作を細かに観察する。
「ひー、ふー、みー・・・・・・」
「リーナ?」
いきなり数字を数え始めたリーナに、カイルはどうしたのかと訊ねたそうな顔を浮かべた。
数える声が止むと、リーナは剣呑な目つきで言った。
「おかしいですね・・・・・・」
「何が?」
カイルの問いに、リーナは固い声で答える。
「人数です。地下書庫に一度に入れる定員は十名までです。なのに、彼らは十二人います。」
「!」
リーナの指摘にカイルは立ち上がり、じっとローブの集団の動きを警戒した。
「頭やカリンみたいな特例ってことは?」
「そうぽんぽん例外があっては、何のための規則かわからなくなるでしょう」
片や、第四王子の付き人。片や、侯爵令嬢の侍女。
それぞれ守るべき対象を持つ二人は洞察力に優れ、危機察知能力が高かった。
そんな二人の本能が警鐘を鳴らす。
彼らは危険だと。
リーナとカイルは目配せをして頷くと、受付の方へと向かっていった。
「じゃ、ちょっとグラム殿下と話して来まーす!」
そう言って手を振りながら奥へと入っていったカリンを見送ったリーナとカイルは、受付近くの壁際に避けてカリンとグラムの戻りを待っていた。
「一体全体、何がどうなってるんですか?」
「だーかーらー、俺も知らねぇって!」
行儀よく背筋を伸ばして立っているリーナが横目に、隣で壁に凭れかかっているカイルに訊ねると、カイルは頭を掻きながら頭を振った。
「飯済ませていつも通り図書館に行くかと思ったら、「婚約を破棄する旨をカリン君に伝えるから、カリン君を探しに行くぞ!」っていきなり言い出して、そのままワケわからんうちにああなったからな。頭、基本的に人の話聞かねぇし」
「ああ、だから貴方も頭を抱えていたんですね」
はぁ~、と二人のため息が重なる。
「なぁ、どーなると思う?」
「お嬢様とグラム殿下の話し合いですか? 正直、まず話し合いになるかどうか・・・・・・」
「だよなぁ」
二人の目蓋の裏には本に熱中するグラムと、グラムに完全スルーされてキレ散らかしているカリンの姿が鮮明に映っていた。
「とは言え、お嬢様がおっしゃっていたように、このタイミングでのご婚約の破棄はお嬢様にとっても本意ではありませんから、何としてでも説得されるでしょうね」
「いやいや、頭は手強いぞ~? 賭けてみるか?」
「カイル様?」
互いの主で賭けなど、とリーナにじとっと目で窘められたカイルは、ははっと笑ってしゃがみ込み、膝で頬杖をついてぼんやりと出入口の方を眺め始めた。
「ん? 何だあいつら?」
出入口が開き、ぞろぞろと入ってきた深緑のローブ集団に、カイルは怪訝そうな顔をして見せた。
「どこかの研究者団か何かではありませんか?」
「そーかぁ?」
リーナはローブのフードがやけに目深なのは気になったが、貴族学院に入館してきた以上、身元は保証されているだろうと特に気にしなかった。
しかし、カイルの眉間の皺はほどけない。
この時点で、カイルは明確にローブの集団に不信感を感じていた。
「あ、受付に行ったぞ」
「外部の人間なら、まずは入館証の提示義務がありますから当然でしょう」
「今度は奥の方に行った。ひょっとして、あいつらも地下書庫に用があるのか?」
「・・・・・・」
さっきカリンを案内した女性教員に通されて、奥へとぞろぞろ入って行くローブの集団に、リーナも何か引っ掛かるものを感じ、その動作を細かに観察する。
「ひー、ふー、みー・・・・・・」
「リーナ?」
いきなり数字を数え始めたリーナに、カイルはどうしたのかと訊ねたそうな顔を浮かべた。
数える声が止むと、リーナは剣呑な目つきで言った。
「おかしいですね・・・・・・」
「何が?」
カイルの問いに、リーナは固い声で答える。
「人数です。地下書庫に一度に入れる定員は十名までです。なのに、彼らは十二人います。」
「!」
リーナの指摘にカイルは立ち上がり、じっとローブの集団の動きを警戒した。
「頭やカリンみたいな特例ってことは?」
「そうぽんぽん例外があっては、何のための規則かわからなくなるでしょう」
片や、第四王子の付き人。片や、侯爵令嬢の侍女。
それぞれ守るべき対象を持つ二人は洞察力に優れ、危機察知能力が高かった。
そんな二人の本能が警鐘を鳴らす。
彼らは危険だと。
リーナとカイルは目配せをして頷くと、受付の方へと向かっていった。
0
お気に入りに追加
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください
mios
恋愛
ここのところ、婚約者の第一王子に付き纏われている。
「ベアトリス、頼む!このとーりだ!」
大袈裟に頭を下げて、どうにか我儘を通そうとなさいますが、何度も言いますが、無理です!
男爵令嬢を側妃にすることはできません。愛妾もすでに埋まってますのよ。
どこに、捻じ込めると言うのですか!
※番外編少し長くなりそうなので、また別作品としてあげることにしました。読んでいただきありがとうございました。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。
梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。
ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。
え?イザックの婚約者って私でした。よね…?
二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。
ええ、バッキバキに。
もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。
愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる