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第二話 嵐は勝手に去ってゆく

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「それは、また唐突ですね。私、何かお気に触るようなことでも──」

「お嬢様」

「あー、カリン」

「リーナ、カイルにぃ、どうしたの?」

「殿下「かしら」ならもう、どこかへ行かれました「行っちまった」けど」」

 ──どすんっ。

 カリンはフリーズしている間にグラムはとうに去ったと二人に聞かされ、思わずソファからずり落ちた。

「なっ、なっ、な・・・・・・っ、なんじゃそりゃああああっ!」

 思わず絶叫。
 周囲は大声になんだなんだとカリンたちの方へと視線を向けたが、リーナとカイルがカリンの姿を遮り、醜態を晒すことはなかった。

 ──が、突然の婚約破棄宣言。

 カリンはリーナに助け起こされ、ソファに座り直すと、膝の上に肘を立て、組んだ両手の上に顎を乗せて険しい顔をした。

「カイルにぃ」

「おう」

 スナキツネ顔でカリンが呼ぶと、同じくスナキツネ顔のカイルが短く返事をして頷いた。
 カリンは年上で兄貴肌なカイルのことを「カイルにぃ」と呼んでいる。
 そんなカイルにぃにカリンは単刀直入に質問──というより、命令をした。

「説明」

「知らん」

 お手上げのポーズでこれまた最短かつ、なんの解決にもならない返答をされた。

「そう・・・・・・」

 カリンはがっくりと項垂れ、頭上に雨雲が出来そうなほどの暗いオーラを纏っていたが、次の瞬間カッと目をかっ開いて立ち上がった。

「なら! 本人に事情を訊きに行くしかないでしょ! だいたい、話があるって言ってきといて、一方的に言いたいことだけ言って去る奴があるか!」

「お嬢様、足!」

「相変わらず元気ね、お前」

 拳を突き上げ、片足をテーブルに乗っけて立ち上がった貴族のお嬢様に対して、侍女は慌て、王子の付き人な苦笑いをした。

 カリンは物凄い勢いでケーキスタンドのスイーツを頬張り、ハムスターのように咀嚼して、それを紅茶で一気に胃へ流し込むとソファとテーブルの間から抜け出して、階段を下りる。

「で? どこへ行くんだ?」

 後ろからは当然リーナとカイルも着いて来ており、カリンは横目でカイルを見遣り答える。

「決まってるでしょ。休憩時間にあの探求バカが行く場所なんて、一つしかないんだから」

 カリンはティールームから出ると、西の方へと目をやった。
 そこには小さな古城と時計台を混ぜ合わせたような築年数は百年は下らないだろうと思われる荘厳で古びた建造物が堂々と建っていた。

(婚約破棄なんてしたら、お父様が面倒くさいじゃない! ただでさえ、姉様の件もあるっていうのに! 今、婚約破棄されるなんて冗談じゃないわ!)

 心の中で愚痴りながら、カリンは足早にジャンペール貴族学院の図書館へと向かった。
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