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8.きょうだい会議④
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「フィーネ?」
「だって、おかしくない? いや、文書偽造してる時点でどこの家だろうとおかしいけど、エドゥーラ伯爵家のやったことって、露見したらうちに喧嘩売ったってことになるじゃない。うちってそこそこ歴史も権力もあるし、ようやく三代目の伯爵家がわざわざ怒りを買うような真似するかなって」
「まぁ、それはそうだな」
キースがふぅむ、と親指で顎を撫でる。
確かに、偽造婚姻届を提出したことも謎だが、何故アルトゥニス侯爵家、何故シェーラなのかも分からない。
そもそも原因はエドゥーラ側にあるのだろうが、ヘンドリック自身もシェーラと結婚したという話を誰かから聞かされた様子だった。
アルトゥニス侯爵家は貴族の中でも力のある家だ。そんな相手に新興貴族が喧嘩を売るような真似をするだろうか?
「考えられるのは、アルトゥニス侯爵家の縁者であると装い、何らかの取引を進めやすくするためとか? いや、流石にそんな真似されてたら父上たちの耳に入っているだろうし、俺は何も聞かされてないし」
キースは真っ先に思いついた予想を話した。
時期侯爵であるキースは、父であるアルトゥニス侯爵と侯爵家に関することは共有している。もし、キースが今話したようなことがあれば、自分が聞かされていないのはおかしいと、キースを腕を組み唸った。
「他の動機はともかく、シェーラに目をつけたのはバレにくいとでも思ったのかね?」
「そうじゃないかしら? そもそもの問題として、シェーラはまだ結婚出来ないし」
「うっ!」
マリーヌに横目で視線を向けられたフィーネは、言葉を詰まらせた。
姉妹の結婚は年功序列。よっぽどの事情がない限り、妹が姉より先に結婚することはない。
マリーヌが嫁いだ以上、次はフィーネの番なのだが、フィーネもシェーラに負けず劣らずの結婚願望のなさを持ち合わせていたため、いまだ実家暮らしをしている。
元々邸に籠りがちで、なおかつすぐに婚姻する予定のない理由からシェーラを選んだというのは、悪くない予想だろう。
何故、婚姻届が出されたのか。
何故、エドゥーラ伯爵家とアルトゥニス侯爵家なのか。
とにかく、今気になる大きな問題はこの二つであった。
「考えれば考える程、訳が分からなすぎて気味が悪いな」
動機らしい動機が分からない。
関わりの全くないエドゥーラ伯爵家に、荒唐無稽な偽造婚姻届。
犯人も真相も闇の中で、得体が知れない。少なくとも、いい気分になれる状況ではなかった。
「何で、よりによって父上たちが不在の時にこんなことが起こるかなぁ・・・・・・」
「シェーラもお兄様も、ほんとご愁傷さま」
頭を抱えるキースにぽんっと手を置き、フィーネは言った。
「キース様」
退室していたカイが戻ってきて、キースに呼び掛ける。
「そろそろお時間ですので、準備を。シェーラ様も」
「ああ、分かった」
カイに言われて、シェーラが時計を見ると、役所へ行く時間が迫っていた。
ちくたくと正常に進む秒針を見て、シェーラの心は重石をつけられたように重くなる。
「リサ、準備を手伝ってちょうだい」
「かしこまりました」
どうしたって行かなくてはいけないのだ。
シェーラはリサにそう言うと、心と同じくらい重い腰を上げ、立ち上がった。
「表に馬車を用意してあります」
「ああ。わかった。シェーラ、準備が終わったら、そのまま門までおいで」
「わかりました」
自分と同時に立ち上がったキースに言われ、シェーラは頷いた。
「じゃあフィーネ、留守は任せたぞ。マリーヌはどうする?」
「はぁい」
「お兄様、今日は泊まっていってもいいかしら?」
「それは構わないが」
嫁いだ後も、マリーヌの私室はそのままになっている。しかし、度々遊びに来ることはあっても、マリーヌがアルトゥニス侯爵家に泊まることはほとんどない。
キースが何故だと表情でマリーヌに訊ねる。
「わたくしも気になるし──それに、夕方にはリオールも帰ってくるのでしょう? 止める者は多いに越したことはないわ。主人には連れてきた公爵家の者に言伝てさせますわ」
「確かに。それは助かる。分かった。カイ、出掛ける前に侍女たちにマリーヌの部屋を掃除するよう命じておいてくれ」
「了解しました」
夕方に帰って来る弟は、話を聞けばヘンドリックの頬を陥没させに飛び出して行きかねないなと、その姿がありありと想起され、キースは納得してカイに頼んだ。
「はぁ」
そんなやり取りの端で、憂鬱からシェーラが密やかにため息を吐いた。
目敏くそれに気づいたマリーヌは、シェーラの気持ちを慮り、優しく頭を撫でる。
「久しぶりの外出がこんなことになったのは残念だけれど、どうせならいい機会だと思って、少し外で羽を伸ばしてらっしゃい」
「・・・・・・はい」
マリーヌにそう言われて頷いたものの、やはり気分は沈んだままだった。
「だって、おかしくない? いや、文書偽造してる時点でどこの家だろうとおかしいけど、エドゥーラ伯爵家のやったことって、露見したらうちに喧嘩売ったってことになるじゃない。うちってそこそこ歴史も権力もあるし、ようやく三代目の伯爵家がわざわざ怒りを買うような真似するかなって」
「まぁ、それはそうだな」
キースがふぅむ、と親指で顎を撫でる。
確かに、偽造婚姻届を提出したことも謎だが、何故アルトゥニス侯爵家、何故シェーラなのかも分からない。
そもそも原因はエドゥーラ側にあるのだろうが、ヘンドリック自身もシェーラと結婚したという話を誰かから聞かされた様子だった。
アルトゥニス侯爵家は貴族の中でも力のある家だ。そんな相手に新興貴族が喧嘩を売るような真似をするだろうか?
「考えられるのは、アルトゥニス侯爵家の縁者であると装い、何らかの取引を進めやすくするためとか? いや、流石にそんな真似されてたら父上たちの耳に入っているだろうし、俺は何も聞かされてないし」
キースは真っ先に思いついた予想を話した。
時期侯爵であるキースは、父であるアルトゥニス侯爵と侯爵家に関することは共有している。もし、キースが今話したようなことがあれば、自分が聞かされていないのはおかしいと、キースを腕を組み唸った。
「他の動機はともかく、シェーラに目をつけたのはバレにくいとでも思ったのかね?」
「そうじゃないかしら? そもそもの問題として、シェーラはまだ結婚出来ないし」
「うっ!」
マリーヌに横目で視線を向けられたフィーネは、言葉を詰まらせた。
姉妹の結婚は年功序列。よっぽどの事情がない限り、妹が姉より先に結婚することはない。
マリーヌが嫁いだ以上、次はフィーネの番なのだが、フィーネもシェーラに負けず劣らずの結婚願望のなさを持ち合わせていたため、いまだ実家暮らしをしている。
元々邸に籠りがちで、なおかつすぐに婚姻する予定のない理由からシェーラを選んだというのは、悪くない予想だろう。
何故、婚姻届が出されたのか。
何故、エドゥーラ伯爵家とアルトゥニス侯爵家なのか。
とにかく、今気になる大きな問題はこの二つであった。
「考えれば考える程、訳が分からなすぎて気味が悪いな」
動機らしい動機が分からない。
関わりの全くないエドゥーラ伯爵家に、荒唐無稽な偽造婚姻届。
犯人も真相も闇の中で、得体が知れない。少なくとも、いい気分になれる状況ではなかった。
「何で、よりによって父上たちが不在の時にこんなことが起こるかなぁ・・・・・・」
「シェーラもお兄様も、ほんとご愁傷さま」
頭を抱えるキースにぽんっと手を置き、フィーネは言った。
「キース様」
退室していたカイが戻ってきて、キースに呼び掛ける。
「そろそろお時間ですので、準備を。シェーラ様も」
「ああ、分かった」
カイに言われて、シェーラが時計を見ると、役所へ行く時間が迫っていた。
ちくたくと正常に進む秒針を見て、シェーラの心は重石をつけられたように重くなる。
「リサ、準備を手伝ってちょうだい」
「かしこまりました」
どうしたって行かなくてはいけないのだ。
シェーラはリサにそう言うと、心と同じくらい重い腰を上げ、立ち上がった。
「表に馬車を用意してあります」
「ああ。わかった。シェーラ、準備が終わったら、そのまま門までおいで」
「わかりました」
自分と同時に立ち上がったキースに言われ、シェーラは頷いた。
「じゃあフィーネ、留守は任せたぞ。マリーヌはどうする?」
「はぁい」
「お兄様、今日は泊まっていってもいいかしら?」
「それは構わないが」
嫁いだ後も、マリーヌの私室はそのままになっている。しかし、度々遊びに来ることはあっても、マリーヌがアルトゥニス侯爵家に泊まることはほとんどない。
キースが何故だと表情でマリーヌに訊ねる。
「わたくしも気になるし──それに、夕方にはリオールも帰ってくるのでしょう? 止める者は多いに越したことはないわ。主人には連れてきた公爵家の者に言伝てさせますわ」
「確かに。それは助かる。分かった。カイ、出掛ける前に侍女たちにマリーヌの部屋を掃除するよう命じておいてくれ」
「了解しました」
夕方に帰って来る弟は、話を聞けばヘンドリックの頬を陥没させに飛び出して行きかねないなと、その姿がありありと想起され、キースは納得してカイに頼んだ。
「はぁ」
そんなやり取りの端で、憂鬱からシェーラが密やかにため息を吐いた。
目敏くそれに気づいたマリーヌは、シェーラの気持ちを慮り、優しく頭を撫でる。
「久しぶりの外出がこんなことになったのは残念だけれど、どうせならいい機会だと思って、少し外で羽を伸ばしてらっしゃい」
「・・・・・・はい」
マリーヌにそう言われて頷いたものの、やはり気分は沈んだままだった。
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