上 下
8 / 16

8.きょうだい会議④

しおりを挟む
「フィーネ?」

「だって、おかしくない? いや、文書偽造してる時点でどこの家だろうとおかしいけど、エドゥーラ伯爵家のやったことって、露見したらうちに喧嘩売ったってことになるじゃない。うちってそこそこ歴史も権力もあるし、ようやく三代目の伯爵家がわざわざ怒りを買うような真似するかなって」

「まぁ、それはそうだな」

 キースがふぅむ、と親指で顎を撫でる。
 確かに、偽造婚姻届を提出したことも謎だが、何故アルトゥニス侯爵家、何故シェーラなのかも分からない。
 そもそも原因はエドゥーラ側にあるのだろうが、ヘンドリック自身もシェーラと結婚したという話を誰かから聞かされた様子だった。
 アルトゥニス侯爵家は貴族の中でも力のある家だ。そんな相手に新興貴族が喧嘩を売るような真似をするだろうか?

「考えられるのは、アルトゥニス侯爵家の縁者であると装い、何らかの取引を進めやすくするためとか? いや、流石にそんな真似されてたら父上たちの耳に入っているだろうし、俺は何も聞かされてないし」

 キースは真っ先に思いついた予想を話した。
 時期侯爵であるキースは、父であるアルトゥニス侯爵と侯爵家に関することは共有している。もし、キースが今話したようなことがあれば、自分が聞かされていないのはおかしいと、キースを腕を組み唸った。

「他の動機はともかく、シェーラに目をつけたのはバレにくいとでも思ったのかね?」

「そうじゃないかしら? そもそもの問題として、シェーラはまだ結婚出来ないし」

「うっ!」

 マリーヌに横目で視線を向けられたフィーネは、言葉を詰まらせた。
 姉妹の結婚は年功序列。よっぽどの事情がない限り、妹が姉より先に結婚することはない。
 マリーヌが嫁いだ以上、次はフィーネの番なのだが、フィーネもシェーラに負けず劣らずの結婚願望のなさを持ち合わせていたため、いまだ実家暮らしをしている。
 元々邸に籠りがちで、なおかつすぐに婚姻する予定のない理由からシェーラを選んだというのは、悪くない予想だろう。

 何故、婚姻届が出されたのか。
 何故、エドゥーラ伯爵家とアルトゥニス侯爵家なのか。

 とにかく、今気になる大きな問題はこの二つであった。

「考えれば考える程、訳が分からなすぎて気味が悪いな」

 動機らしい動機が分からない。
 関わりの全くないエドゥーラ伯爵家に、荒唐無稽な偽造婚姻届。
 犯人も真相も闇の中で、得体が知れない。少なくとも、いい気分になれる状況ではなかった。

「何で、よりによって父上たちが不在の時にこんなことが起こるかなぁ・・・・・・」

「シェーラもお兄様も、ほんとご愁傷さま」

 頭を抱えるキースにぽんっと手を置き、フィーネは言った。

「キース様」

 退室していたカイが戻ってきて、キースに呼び掛ける。

「そろそろお時間ですので、準備を。シェーラ様も」

「ああ、分かった」

 カイに言われて、シェーラが時計を見ると、役所へ行く時間が迫っていた。
 ちくたくと正常に進む秒針を見て、シェーラの心は重石をつけられたように重くなる。

「リサ、準備を手伝ってちょうだい」

「かしこまりました」

 どうしたって行かなくてはいけないのだ。
 シェーラはリサにそう言うと、心と同じくらい重い腰を上げ、立ち上がった。

「表に馬車を用意してあります」

「ああ。わかった。シェーラ、準備が終わったら、そのまま門までおいで」

「わかりました」

 自分と同時に立ち上がったキースに言われ、シェーラは頷いた。

「じゃあフィーネ、留守は任せたぞ。マリーヌはどうする?」

「はぁい」

「お兄様、今日は泊まっていってもいいかしら?」

「それは構わないが」

 嫁いだ後も、マリーヌの私室はそのままになっている。しかし、度々遊びに来ることはあっても、マリーヌがアルトゥニス侯爵家に泊まることはほとんどない。
 キースが何故だと表情でマリーヌに訊ねる。

「わたくしも気になるし──それに、夕方にはリオールも帰ってくるのでしょう? 止める者は多いに越したことはないわ。主人には連れてきた公爵家の者に言伝てさせますわ」

「確かに。それは助かる。分かった。カイ、出掛ける前に侍女たちにマリーヌの部屋を掃除するよう命じておいてくれ」

「了解しました」

 夕方に帰って来る弟は、話を聞けばヘンドリックの頬を陥没させに飛び出して行きかねないなと、その姿がありありと想起され、キースは納得してカイに頼んだ。

「はぁ」

 そんなやり取りの端で、憂鬱からシェーラが密やかにため息を吐いた。
 目敏くそれに気づいたマリーヌは、シェーラの気持ちを慮り、優しく頭を撫でる。

「久しぶりの外出がこんなことになったのは残念だけれど、どうせならいい機会だと思って、少し外で羽を伸ばしてらっしゃい」

「・・・・・・はい」

 マリーヌにそう言われて頷いたものの、やはり気分は沈んだままだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 ――わたしは、家族に尽くすために生まれてきた存在――。  子爵家の次女ベネディクトは幼い頃から家族にそう思い込まされていて、父と母と姉の幸せのために身を削る日々を送っていました。  ですがひょんなことからベネディクトは『思い込まれている』と気付き、こんな場所に居てはいけないとコッソリお屋敷を去りました。  それによって、ベネディクトは幸せな人生を歩み始めることになり――反対に3人は、不幸に満ちた人生を歩み始めることとなるのでした。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...