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1.未婚の令嬢に届いた離縁状

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 晴れた日の朝。
 シェーラ・アルトゥニスは侯爵邸の庭に出て、自身が育てている薔薇の花壇に水をやっていた。
 丹精込めて世話をした原色のように鮮やかな色とりどりの薔薇の花を見つめ、自然と顔を綻ばせる。

 シェーラはアルトゥニス侯爵家の五人きょうだいの末姫として生を受け、両親や兄姉、使用人たちにとても可愛がられて育った。
 自身を大切に慈しんでくれる家族がシェーラは大好きだったが、それとは逆に家の外の人間との付き合いがシェーラはあまり好きではなかった。
 それを伝えると、彼女の家族は無理をする必要はないと、彼女に社交や人付き合いを強要することはなかった。
 そのため、シェーラはこの数年、邸の敷地から一歩も外に出ることなく過ごしている。

 そんなシェーラに婚約者はおらず、また結婚する予定もない。
 だからといって、穀潰しになるつもりはなく、シェーラは邸の中で出来る仕事を手伝っていた。
 薔薇の栽培は趣味というのもあるが、植物園を複数経営しているアルトゥニス侯爵家のためというのもある。

 自身が侯爵令嬢としてズレている自覚はあったが、家族に受け入れられ、誰にも迷惑をかけていないのだから、責められる筋合いはないと、そこら辺は完全に開き直っている。

 そして今日も、いつも通りに過ごそうと考えていた時だった。

「シェーラお嬢様、お手紙が届いております」

 侍女であるリサが、何故か戸惑った表情でそう知らせてきた。

「手紙? 珍しいわね。おじいさまたちからかしら?」

 邸に籠りきりのシェーラに手紙を寄越す人はほとんどいない。強いて言えば、別宅で暮らしている祖父母くらいだ。
 だが、祖父母からの手紙であれば、リサはこんな顔はしないだろう。

 シェーラが疑問に思っていると、リサが続ける。

「差出人の名前に覚えがなかったので、先に中身を改めさせていただきました──なのですが・・・・・・」

 心当たりのない差出人からの手紙ならば、安全を考慮して主人より先に中身を改めるというのは当然だ。
 リサの反応からして、その手紙は普通の手紙ではないのだろう。

「とりあえず、手紙を見せてくれる?」

「はい。こちらです」

 差し出された手紙を受け取り、中身を確認する。
 封筒には二枚の紙が入っていた。
 一枚目は便箋。二枚目は──

「はい?」

 二枚目を見た瞬間、シェーラはすっとんきょうな声を上げて固まった。

 二枚目の紙には大きな字でこう書かれていた。

『離縁状』

 間違いない。これは役所が発行している正式な離縁状である。
 だが、何故シェーラに?

(私、結婚どころか、婚約すらしていないんですけど・・・・・・)

 訳が分からないシェーラは、とりあえず便箋の方も確認した。

 が、そこに書かれていたことは、更にシェーラを混乱させた。

『シェーラ・アルトゥニスへ
 本当に愛する人を見つけた。
 家に寄り付かない君より、私を愛しくれる素晴らしい女性だ。
 彼女と生きるために、私は君と別れる決意をした。
 今更縋るような真似はしてくれるな。
 最後の情けで慰謝料は請求しない。
 分かったら、速やかに同封した離縁状に署名をして送り返すように。』

「──はぁ?」

 何から何まで身に覚えのない内容に、シェーラの脳内は疑問符で埋め尽くされたのであった。
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