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変装

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「おお、化けたねぇ」

「凄い! まるで別人ね」

 色々考えた結果、やっぱりライの周りの女の子を調べてみようと考え、そのままの姿では話を訊くどころではないので、変装道具を持参しました。
 金髪を覆い隠す赤髪の鬘に顔の半分を覆うくらいの大きな眼鏡。先入観を利用して怪しまれないように学年の違う色のネクタイ。年下の方が気を緩めてくれるかもと一年生の色にしました。
 変装はかなり上手くいったようで、フォルテとユイナも私には見えないと言ってくれます。

「お昼休みはこれで調査をしてみます!」

 一緒だとすぐに私だとバレてしまう恐れがあるので、フォルテとユイナとは別行動です。二人は今日も聞き込みをしてくれるようで、本当に優しい友達です。

 あ、いました。
 視線の先によくライと一緒にいる女子生徒たちを捉え、どのように声を掛けようか思案します。
 よし、行きますか。

「すみませーん」

「貴方、だぁれ?」

「一年のエレナと申します。先輩方、いつもヴェクオール先輩と一緒にいる方々ですよね? 実は私、ヴェクオール先輩のことが気になってて、よかったらお話聞きたいなぁって」

 会話は始めが肝心!
 ライの話題を振ればまず反応が返ってくる筈です。

「ライに興味があるの?」

「はい。先輩方はいつもヴェクオール先輩と一緒なので、ヴェクオール先輩のことたくさん知ってますよね? 教えて貰っていいですか?」

 そう尋ねると、彼女たちは得意げになって話したくて仕方なさそうに話してくれました。

「ふふ、いいわよ。何せライはいい男だわ。見目がいいから隣にいるだけで気分が高まるし、何より話をちゃんと聞いてくれるもの」

「そうそう。どんな些細な話でも長い話でも途中で席を外したりしないし、落ち込んでたら励ましてくれるの!」

「絶対に詮索して来ないところもいいのよねぇ。まぁ、私としてはライになら全部見せてもいいのだねれど。身も心も。なんてね」

「ちょっと、アンタ! そーゆーのにライを誘うのはなしってルールでしょーが!」

「わかってるわよ! 言ってみただけ! 第一ライが乗ってこないわ!」

「この間三年の先輩が保健室に連れ込もうとして切られたもんねー。あんな悲惨な目には合いたくないわぁ」

「存外硬派なところも魅力的よね」

 な、何でしょう。皆さんの話すライと私の知るライに大きな解離がある気がします。
 どんな話も聞いてくれる? 私との話をすぐに切り上げようとするライが?
 落ち込んでいたら励ましてくれる? いつでも冷たい言葉ばかりのライが?
 硬派? いつも女子生徒と一緒にいるライが?
 あと、三年の先輩は保健室に連れ込んで一体何をしようと・・・・・・?
 彼女たちもライに魅力を感じて側にいるのだとはわかっていましたが、これには驚きました。
 いえ、不思議でもないのでしょうか。単に私がライに嫌われているだけで、他の子たちに見せる顔が素のライであってもおかしくはありませんね。
 けれど、どうして私にはああなのかを考えると、胸がちくりと痛みました。
 ──ライが私を嫌ったのは、いつからなのでしょうか。
 はっ。いけません。つい感傷的になってしまいましたが、硝子の件の犯人の調査をしてたんでした。

「わぁ。素敵な人なんですねぇ、ヴェクオール先輩って」

「ええ、とても」

「けど。そういえばー、ヴェクオール先輩って婚約者がいましたよね? えーと、確かエレなんとかって人」

 如何にもうろ覚えです感を装って、私の存在をちらつかせた途端、皆さんの間の温度が急低下していきました。

「エレイン・カロミナのこと・・・・・・?」

「あ、そうそう。カロミナせんぱ──きゃっ!」

 怖い!
 私の名前が出た途端に、皆さんの顔が怒り一色になりました!

「貴女、エレナとか言ったかしら?」

「は、はい」

 頷くと両肩を捕まれ、ぐいっと迫られました。顔が近いです。

「いいこと? 貴女もライと一緒に過ごしたいと願うなら、あの女は敵だということを牢記なさい」

「て、敵・・・・・・!」

 それはまた穏やかじゃありませんね。

「婚約者なんて名ばかりの癖に、いっつも私たちの邪魔をして」

「あんなにライに嫌われてるんだもの。碌な女じゃないわ!」

「そうよ。なのにおうちの都合で婚約破棄することも出来なくて可哀想」

「本当に許せないわ!」

 うっ、焚き火に至近距離まで近づいたみたいな熱さです。
 いえ、まぁ知ってましたけどね。ライの周りの子たちからしたらそれは私は気に入らない存在でしょう。けれど、こう直に言葉を浴びると圧に飲まれそうといいますか──。駄目です! 私は犯人を探しに変装までしたんですから!
 この場合の正しい言動は──

「確かに先輩たちの仰る通りですね。私もあの人は好きじゃありません。いっそ酷い目に合っちゃえばいいのに」

 彼女たちに出来るだけ共感している風に装って、知りたい情報を話しやすい状況へ持ち込みます。
 この作戦は成功しました。
 私の言葉に彼女たちは意地悪そうな笑みを浮かべて、耳元で囁きます。

「なら、貴女がやればいいわ」

「やる、とは・・・・・・?」

「ライを苦しめるあの女に天罰を与えてやるのよ」

「天罰」

 それは天が人に与える裁きで、人が与えるもにではないと思うのですが。ここは話を合わせましょう。

「そんな、どうやって?」

「何でもいいのよ。あの女の困ることをして、苦悩の海に溺れさせてやりなさい。平気よ、バレやしないわ」

「・・・・・・先輩方もカロミナ先輩に天罰を与えたのですか?」

「ええ」

「例えばどんな?」

「そうねぇ。物を隠したり、逆にいらないものを置いたり」

「そういえば、私この間あの女の筆記具箱を隠してやったわ」

「私も私も。ぼけーっと歩いてるあいつの頭に木屑を落としてやったわ」

「私も授業変更をエレイン・カロミナだけに伝わらないようにしたわ。ほんといい気味」

 どれも心当たりありますねぇ。
 まぁ、自分に対する嫌がらせの話を聞かされるのは、当然ですが気分がいいものではありませんね。
 次から次へぽろぽろと証言は出てきますが、肝心の硝子の話がありません。よし、ここはもうひと押し。

「そうですねぇ。じゃあ、例えば怪我をさせるとか?」

 私がそういうと口々に私にした嫌がらせの内容を披露しあっていた彼女たちが固まりました。

「貴女、意外と過激なのね。けど、止めときなさい」

「流石に怪我までさせるのはねぇ」

「他は言い訳立つけどぉ、怪我させたら絶対停学だろうしぃ」

 どうやら皆さん、怪我をさせるほどの嫌がらせには抵抗があるみたいですね。
 少なくとも、硝子を仕込んだのはこの人たちではないみたいです。けれど、話を聞き出すに当たって、変装作戦が有効ということは証明出来ました。
 この調子なら、犯人に辿り着けるかもしれません!
 可能性に喜んでいる傍らで、一人の女子生徒の呟きが耳に届きました。

「まぁ、けど、ライに依存してる子も数人いるからねぇ。そういう子たちなら何をしでかすかわからない分、危ないこともするかもしれないわね」
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