4 / 11
難航する宿題
しおりを挟む
放課後。
私とフォルテはスケッチブックを手に中庭に出ていました。
ユイナも誘ったのですが、絵よりも文章を纏めるのが苦手な彼女は「今から発表用の資料作り始めないとヤバい!」と言って図書館へ駆けて行きました。
なので、フォルテと二人きりです。
学園の中庭には、緑化委員会と園芸部が共同で育てている花壇がいくつもあって、多種多様な草花が植えられています。まさに絶好のスケッチ場所でしょう。
「フォルテはどんな植物をスケッチしたいですか?」
「草」
尋ねると簡潔な答えが返ってきます。草って・・・・・・。
「草ならいける気がする。最悪、緑のじぐざぐでも大丈夫だろうし」
「理科の授業の発表で緑のじぐざくは流石に怒られると思いますよ・・・・・・」
例え本人がどんなに真面目で、先生に事前にあの毛糸──いえ、猫さんの出来映えを見せていたとしても成績に響きそうです。
「フォルテ、はっきりと言います。ここは要点を絞って、他は諦めましょう。先生的にはその植物だと分かる特徴さえ描かれていればいいのですから、バランスとかは無視して、とにかく特徴を押さえることに注力するのです!」
「特徴かぁ。うん、そうだよね! わかったよ! なら、そもそもが特徴的な植物を選んだ方がいいよね! ラフレシアとか!」
「フォルテ! 流石に学内にラフレシアはありませんよ!?」
気候の穏やかなこの国に熱帯密林で咲く凄まじい香りを放つ巨大花があるとは思えません。というか、あったら大騒ぎです。
そんなことは冷静に考えれば分かる筈なのに、どうやらフォルテは苦手分野に直面して、かなり脳が混乱している様でした。
「あのパンジーなんてどうですか? 花弁の形も変わってますし、色の種類も豊富ですから、分かりやすいかと」
「うん、描いてみるよ。公正な目線が必要だから、辛口評価よろしく」
フォルテはパンジーの花壇の前へ座り込むと、真剣な面持ちで鉛筆と色鉛筆を紙の上に滑らせました。迷いのない動きです。これなら──
「出来た! どう?」
「・・・・・・禍々しい夏の大三角ですか?」
完成した絵を見せられて、つい思わず正直な感想を述べてしまいました。
「・・・・・・」
ああ! フォルテが腕に顔を伏せてずーんと落ち込んでしまいました! けれど、そもそも花弁の部分? がばらばらでパンジーの形に見えないんです! 三つの球体の集まりなんです! 猫さんといい、ひょっとしてフォルテは球体しか描けないのでは・・・・・・?
「つ、次! 次はあの鈴蘭を描いてみましょう!」
「うん!」
パンジーが駄目なら他の花です! 鈴蘭なら元々花が丸いですし、これなら!
「出来た!」
「白骨化した鞘えんどう! つ、次! 水仙!」
「どうだ!」
「表皮がでろでろに溶けたレモン! なら、ええい! 薔薇!」
「薔薇は難易度高くない!? 描いてみるけど!」
結果、犬さんが食い漁ったようなハムの残飯の如き絵が生産されました。
「・・・・・・・・・・・・」
私とフォルテはスケッチブックを挟んで、互いに引きつった笑みで見つめ合いました。
全敗です。
フォルテはこのあんまりな結果に膝を地面に着きました。
「俺には絵の才能が、ない・・・・・・!」
どうしましょう。否定出来ません・・・・・・。
そんなことありませんと言いたいところですが、散々な評価を下した私が何を言ったところで気休めにもなりません。むしろ嫌味です。
おかしい。フォルテだって、最初の案のように特徴は掴んでいるんです。パンジーの花弁の色合いはぴったりですし、鈴蘭の特徴はあの丸い花ですし、薔薇だって複雑に折り重なった花弁を描いて──んん、描いてはいるのですが、それが実物像に全く繋がらないのが問題で!!!
「どうしたらいいのでしょう・・・・・・」
とりあえず、今のままではお手上げです。新しい案を考えなくては・・・・・・。
そう悩みながらも、フォルテのスケッチブックを拾い上げようとすると、先にそれを誰かに拾い上げられてしまいました。
「あ、それ・・・・・・」
落とし物と勘違いされたと思い、違うんですと言おうとした声が詰まります。
「何この下手な絵。お前が描いたの?」
「・・・・・・ライ」
まさか、よりにもよってライに拾われるなんて・・・・・・。
私とフォルテはスケッチブックを手に中庭に出ていました。
ユイナも誘ったのですが、絵よりも文章を纏めるのが苦手な彼女は「今から発表用の資料作り始めないとヤバい!」と言って図書館へ駆けて行きました。
なので、フォルテと二人きりです。
学園の中庭には、緑化委員会と園芸部が共同で育てている花壇がいくつもあって、多種多様な草花が植えられています。まさに絶好のスケッチ場所でしょう。
「フォルテはどんな植物をスケッチしたいですか?」
「草」
尋ねると簡潔な答えが返ってきます。草って・・・・・・。
「草ならいける気がする。最悪、緑のじぐざぐでも大丈夫だろうし」
「理科の授業の発表で緑のじぐざくは流石に怒られると思いますよ・・・・・・」
例え本人がどんなに真面目で、先生に事前にあの毛糸──いえ、猫さんの出来映えを見せていたとしても成績に響きそうです。
「フォルテ、はっきりと言います。ここは要点を絞って、他は諦めましょう。先生的にはその植物だと分かる特徴さえ描かれていればいいのですから、バランスとかは無視して、とにかく特徴を押さえることに注力するのです!」
「特徴かぁ。うん、そうだよね! わかったよ! なら、そもそもが特徴的な植物を選んだ方がいいよね! ラフレシアとか!」
「フォルテ! 流石に学内にラフレシアはありませんよ!?」
気候の穏やかなこの国に熱帯密林で咲く凄まじい香りを放つ巨大花があるとは思えません。というか、あったら大騒ぎです。
そんなことは冷静に考えれば分かる筈なのに、どうやらフォルテは苦手分野に直面して、かなり脳が混乱している様でした。
「あのパンジーなんてどうですか? 花弁の形も変わってますし、色の種類も豊富ですから、分かりやすいかと」
「うん、描いてみるよ。公正な目線が必要だから、辛口評価よろしく」
フォルテはパンジーの花壇の前へ座り込むと、真剣な面持ちで鉛筆と色鉛筆を紙の上に滑らせました。迷いのない動きです。これなら──
「出来た! どう?」
「・・・・・・禍々しい夏の大三角ですか?」
完成した絵を見せられて、つい思わず正直な感想を述べてしまいました。
「・・・・・・」
ああ! フォルテが腕に顔を伏せてずーんと落ち込んでしまいました! けれど、そもそも花弁の部分? がばらばらでパンジーの形に見えないんです! 三つの球体の集まりなんです! 猫さんといい、ひょっとしてフォルテは球体しか描けないのでは・・・・・・?
「つ、次! 次はあの鈴蘭を描いてみましょう!」
「うん!」
パンジーが駄目なら他の花です! 鈴蘭なら元々花が丸いですし、これなら!
「出来た!」
「白骨化した鞘えんどう! つ、次! 水仙!」
「どうだ!」
「表皮がでろでろに溶けたレモン! なら、ええい! 薔薇!」
「薔薇は難易度高くない!? 描いてみるけど!」
結果、犬さんが食い漁ったようなハムの残飯の如き絵が生産されました。
「・・・・・・・・・・・・」
私とフォルテはスケッチブックを挟んで、互いに引きつった笑みで見つめ合いました。
全敗です。
フォルテはこのあんまりな結果に膝を地面に着きました。
「俺には絵の才能が、ない・・・・・・!」
どうしましょう。否定出来ません・・・・・・。
そんなことありませんと言いたいところですが、散々な評価を下した私が何を言ったところで気休めにもなりません。むしろ嫌味です。
おかしい。フォルテだって、最初の案のように特徴は掴んでいるんです。パンジーの花弁の色合いはぴったりですし、鈴蘭の特徴はあの丸い花ですし、薔薇だって複雑に折り重なった花弁を描いて──んん、描いてはいるのですが、それが実物像に全く繋がらないのが問題で!!!
「どうしたらいいのでしょう・・・・・・」
とりあえず、今のままではお手上げです。新しい案を考えなくては・・・・・・。
そう悩みながらも、フォルテのスケッチブックを拾い上げようとすると、先にそれを誰かに拾い上げられてしまいました。
「あ、それ・・・・・・」
落とし物と勘違いされたと思い、違うんですと言おうとした声が詰まります。
「何この下手な絵。お前が描いたの?」
「・・・・・・ライ」
まさか、よりにもよってライに拾われるなんて・・・・・・。
20
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)
青空一夏
恋愛
従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。
だったら、婚約破棄はやめましょう。
ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!
悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!
妹と婚約者を交換したので、私は屋敷を出ていきます。後のこと? 知りません!
夢草 蝶
恋愛
伯爵令嬢・ジゼルは婚約者であるロウと共に伯爵家を守っていく筈だった。
しかし、周囲から溺愛されている妹・リーファの一言で婚約者を交換することに。
翌日、ジゼルは新たな婚約者・オウルの屋敷へ引っ越すことに。
元婚約者は戻らない
基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。
人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。
カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。
そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。
見目は良いが気の強いナユリーナ。
彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。
二話完結+余談
王女殿下を優先する婚約者に愛想が尽きました もう貴方に未練はありません!
灰銀猫
恋愛
6歳で幼馴染の侯爵家の次男と婚約したヴィオラ。
互いにいい関係を築いていると思っていたが、1年前に婚約者が王女の護衛に抜擢されてから雲行きが怪しくなった。儚げで可憐な王女殿下と、穏やかで見目麗しい近衛騎士が恋仲で、婚約者のヴィオラは二人の仲を邪魔するとの噂が流れていたのだ。
その噂を肯定するように、この一年、婚約者からの手紙は途絶え、この半年ほどは完全に絶縁状態だった。
それでも婚約者の両親とその兄はヴィオラの味方をしてくれ、いい関係を続けていた。
しかし17歳の誕生パーティーの日、婚約者は必ず出席するようにと言われていたパーティーを欠席し、王女の隣国訪問に護衛としてついて行ってしまった。
さすがに両親も婚約者の両親も激怒し、ヴィオラももう無理だと婚約解消を望み、程なくして婚約者有責での破棄となった。
そんな彼女に親友が、紹介したい男性がいると持ち掛けてきて…
3/23 HOTランキング女性向けで1位になれました。皆様のお陰です。ありがとうございます。
24.3.28 書籍化に伴い番外編をアップしました。
わたしを捨てた騎士様の末路
夜桜
恋愛
令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。
ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。
※連載
貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?
蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」
ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。
リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。
「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」
結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。
愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。
これからは自分の幸せのために生きると決意した。
そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。
「迎えに来たよ、リディス」
交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。
裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。
※完結まで書いた短編集消化のための投稿。
小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。
婚約者が義妹を優先するので私も義兄を優先した結果
京佳
恋愛
私の婚約者は私よりも可愛い義妹を大事にする。いつも約束はドタキャンされパーティーのエスコートも義妹を優先する。私はブチ切れお前がその気ならコッチにも考えがある!と義兄にベッタリする事にした。「ずっとお前を愛してた!」義兄は大喜びして私を溺愛し始める。そして私は夜会で婚約者に婚約破棄を告げられたのだけど何故か彼の義妹が顔真っ赤にして怒り出す。
ちんちくりん婚約者&義妹。美形長身モデル体型の義兄。ざまぁ。溺愛ハピエン。ゆるゆる設定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる