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前編 ふざけた提案は受けつけません。
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「セラ、すまない。僕はアイリと愛し合ってしまったんだ。この気持ちを誤魔化すことは出来ない。だから、君には第二夫人になって欲しい」
「…………………………は?」
突然呼び止められたと思ったら、何を言い出すのだ。この婚約者殿は。
他の生徒もいる学園の中庭で堂々と不貞を告白したと思ったら、第二夫人になれ?
──それは新手の冗談ですか?
「頭沸いてんですか?」
おっといけない。あまりの出来事につい、本音と建前が真逆に。
「酷い! そんなこと言わないでください! ダル様も私も一生懸命考えて決めたことなんですよ!?」
婚約者──ダルの隣にいた女子生徒が、ダルの腕にしがみつきながら勇気を振り絞ったような声でこちらを非難してくる。
いかにも健気です! って雰囲気を出してるけれど、不貞は不貞なんだよなぁ……。
「一生懸命も何も、何故私の進退を貴方たちに決められないといけないんです? そもそも、私とダルの婚約は両家の当主が決めたことであって、私たちにどうこうする権利はありませんよ」
悲しき哉。貴族に生まれた以上は特権階級の恩恵と引き換えに多くの責任と義務が課せられる。結婚もそのひとつだ。
多くの貴族の子女は父親が決めた相手と結婚するのが当たり前。それは愛の力でどうこう出来るものじゃない。
まぁ、それでも貴族も人間だから恋だってするし、そのせいで社交界では浮気・不倫が横行しているのが実情だけれど。
そこら辺に関しては私も明日は我が身と考えて、ある程度譲歩する心構えでいたけれど、流石にダルの話は論外だ。
家同士の話を勝手に反故にするだけでも大事なのに、こうもあからさまに君には二番目の女になって欲しいなんて要求してくるとは。
私の顔どころか、うちの家名にまで泥を塗る侮辱だ。玄関先に生ごみをぶちまけられて怒らない人間はいない。私もだんだんと腹の底から熱が上がってくる感覚がする。
「だからこうして頼んでいるんだ。君との結婚を拒むことを父上は許さないだろうが、君を第二夫人に迎えるのならば問題ないだろう」
「大アリですが」
本当に何を言っているんだ。どうやらダルは過程や事実がどうあれ、私を妻に迎えるという事実があれば何とかなると思っているようだった。そんなわけあるか。
よしんば、ダルの父親がそれを良しとしてもうちの父親が納得しないだろう。
「事実や過程に拘らないなら、そのそちらの──アイリさん? でしたっけ? 彼女を第二夫人に迎えるという話でよかったのでは?」
「愛する者を正妻に迎えるのは当然だろう! 何を言ってるんだ君は!?」
「こちらの台詞ですが」
敢えて過去形で言ったことにすら気づいていないダルに、これはもう何を言っても駄目だと諦観の念を抱く。
そもそも、二人きりの時ならまだしも、多くの貴族の子女がいる前でこんな真似をされた以上結末は最初から決まっているけれど。
「セラ様、そんな意地を張らないでください。私ごときがダル様のお心を射止めてしまった故にプライドを傷つけてしまったことは謝罪いたします。けれどこれが一番平和的な解決方法なのです──貴女だって、女として傷つきたくないでしょう?」
「そうだ。僕は愛は与えてあげられないけれど、君を妻として丁重に扱うつもりだよ。だから意固地にならないで受け入れて欲しい」
「…………」
腹の奥底がカッと熱くなった途端、するすると冷えていった。これはあれだ。怒りが過ぎると冷静になるやつ。
──そういうこと。
どうやら、この二人は私がそれを選ばないと思っているらしい。
特にアイリさん。わざわざそんな言い方をする以上、見掛け通りの健気なお嬢さんのようではないようだ。まぁ、こうして恋人の婚約者の前に現れる人間なんて、よっぽどの頭お花畑かか弱い乙女に化けた女狐のどちらかだろうしね。
けれど、お生憎様。私はそれを選べる側の人間だ。
だから私は仕返しに完璧な笑顔を浮かべて言ってやった。
「そうですか。そういうことでしたら、婚約は破棄しましょう」
「…………………………は?」
突然呼び止められたと思ったら、何を言い出すのだ。この婚約者殿は。
他の生徒もいる学園の中庭で堂々と不貞を告白したと思ったら、第二夫人になれ?
──それは新手の冗談ですか?
「頭沸いてんですか?」
おっといけない。あまりの出来事につい、本音と建前が真逆に。
「酷い! そんなこと言わないでください! ダル様も私も一生懸命考えて決めたことなんですよ!?」
婚約者──ダルの隣にいた女子生徒が、ダルの腕にしがみつきながら勇気を振り絞ったような声でこちらを非難してくる。
いかにも健気です! って雰囲気を出してるけれど、不貞は不貞なんだよなぁ……。
「一生懸命も何も、何故私の進退を貴方たちに決められないといけないんです? そもそも、私とダルの婚約は両家の当主が決めたことであって、私たちにどうこうする権利はありませんよ」
悲しき哉。貴族に生まれた以上は特権階級の恩恵と引き換えに多くの責任と義務が課せられる。結婚もそのひとつだ。
多くの貴族の子女は父親が決めた相手と結婚するのが当たり前。それは愛の力でどうこう出来るものじゃない。
まぁ、それでも貴族も人間だから恋だってするし、そのせいで社交界では浮気・不倫が横行しているのが実情だけれど。
そこら辺に関しては私も明日は我が身と考えて、ある程度譲歩する心構えでいたけれど、流石にダルの話は論外だ。
家同士の話を勝手に反故にするだけでも大事なのに、こうもあからさまに君には二番目の女になって欲しいなんて要求してくるとは。
私の顔どころか、うちの家名にまで泥を塗る侮辱だ。玄関先に生ごみをぶちまけられて怒らない人間はいない。私もだんだんと腹の底から熱が上がってくる感覚がする。
「だからこうして頼んでいるんだ。君との結婚を拒むことを父上は許さないだろうが、君を第二夫人に迎えるのならば問題ないだろう」
「大アリですが」
本当に何を言っているんだ。どうやらダルは過程や事実がどうあれ、私を妻に迎えるという事実があれば何とかなると思っているようだった。そんなわけあるか。
よしんば、ダルの父親がそれを良しとしてもうちの父親が納得しないだろう。
「事実や過程に拘らないなら、そのそちらの──アイリさん? でしたっけ? 彼女を第二夫人に迎えるという話でよかったのでは?」
「愛する者を正妻に迎えるのは当然だろう! 何を言ってるんだ君は!?」
「こちらの台詞ですが」
敢えて過去形で言ったことにすら気づいていないダルに、これはもう何を言っても駄目だと諦観の念を抱く。
そもそも、二人きりの時ならまだしも、多くの貴族の子女がいる前でこんな真似をされた以上結末は最初から決まっているけれど。
「セラ様、そんな意地を張らないでください。私ごときがダル様のお心を射止めてしまった故にプライドを傷つけてしまったことは謝罪いたします。けれどこれが一番平和的な解決方法なのです──貴女だって、女として傷つきたくないでしょう?」
「そうだ。僕は愛は与えてあげられないけれど、君を妻として丁重に扱うつもりだよ。だから意固地にならないで受け入れて欲しい」
「…………」
腹の奥底がカッと熱くなった途端、するすると冷えていった。これはあれだ。怒りが過ぎると冷静になるやつ。
──そういうこと。
どうやら、この二人は私がそれを選ばないと思っているらしい。
特にアイリさん。わざわざそんな言い方をする以上、見掛け通りの健気なお嬢さんのようではないようだ。まぁ、こうして恋人の婚約者の前に現れる人間なんて、よっぽどの頭お花畑かか弱い乙女に化けた女狐のどちらかだろうしね。
けれど、お生憎様。私はそれを選べる側の人間だ。
だから私は仕返しに完璧な笑顔を浮かべて言ってやった。
「そうですか。そういうことでしたら、婚約は破棄しましょう」
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