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第一話 宮廷の配達人
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「宰相様、こちら騎士団の備品補充の見積書と新人文官の名簿でございます。お届けに上がりました!」
そう言って私は、肩から下げた郵便屋さんが掛けているような大きな赤い鞄から、宰相様宛の書類が入った大きな茶封筒を二通取り出して手渡した。
「ああ。いつもありがとう」
「いえいえ。これがお仕事ですから。宰相様もお届け物はありませんか?」
「では、近衛長にこの手紙を届けてもらえるかな?」
「はい! かしこまりました!」
優しげなお顔に柔和な笑みを浮かべられた宰相様から、縦長な茶封筒を受け取ると、私はそれを鞄にしまってしっかりと鍵を掛けた。
内容について何も言われないってことは、かなりの重要書類! 気を引き締めなくては!
私の名前はロザリー・ガーネット。
ガーネット侯爵家の娘であり、宮廷で侍女のお仕事をしている。
侍女と言っても、王宮の方々の身の回りのお世話を焼くのとは少し違うお仕事だ。
私は配達侍女。
仕事内容は王宮で働く方々からお手紙や書類、小包や伝言などを預かって、指定された場所へ届けること。言うなれば、王宮内の郵便屋さんだ。
服装も、黒い踝丈のワンピースに白いエプロンとブリムという侍女服ではなく、深緑の上着に膝丈のスカート。頭には官帽。
今日も元気に宮中を歩き回ってお仕事中。
さて、と。新しい配達物も預かったし、近衛長様の所にいかなくちゃ。あ、ならその前に図書館へ寄って武器庫から預かった目録を届け先なくちゃ。
どこの通路を通るか、通り道に配達先があるかをすぐに弾き出すのは、配達侍女の基本スキルだ。
宰相様にご挨拶をして、退室しようとしたら私がドアノブに触れる前に蝶番が壊れそうな勢いで扉が開かれた。
「きゃあっ!?」
「わっ! びっくりした。って、君かぁ。どうしたんだい?」
ノックもなく乱暴に入っていらっしゃったのは、少し長めの黒髪に切れ長な深緑色の瞳をされた男性でした。葉の色を思わせる色なのに、今はその瞳が燃え盛っております。
上下紺色の礼服をきっちりと着こなされた男性は、第二王子殿下の護衛兼補佐官を務めていらっしゃるグリーフ・サインレン様でした。
グリーフ様は、私たちを両の目で捉えられると、青筋の立ったお顔で口元をひきつらせてこうお訊ねになりました。
「すみません。うちの王子を見ませんでしたか?」
どすんと地の底に届くような低い声。
壁に立てられた爪がガリッと音を立てる。
これは──かなりのお怒りモードのようです。
そう言って私は、肩から下げた郵便屋さんが掛けているような大きな赤い鞄から、宰相様宛の書類が入った大きな茶封筒を二通取り出して手渡した。
「ああ。いつもありがとう」
「いえいえ。これがお仕事ですから。宰相様もお届け物はありませんか?」
「では、近衛長にこの手紙を届けてもらえるかな?」
「はい! かしこまりました!」
優しげなお顔に柔和な笑みを浮かべられた宰相様から、縦長な茶封筒を受け取ると、私はそれを鞄にしまってしっかりと鍵を掛けた。
内容について何も言われないってことは、かなりの重要書類! 気を引き締めなくては!
私の名前はロザリー・ガーネット。
ガーネット侯爵家の娘であり、宮廷で侍女のお仕事をしている。
侍女と言っても、王宮の方々の身の回りのお世話を焼くのとは少し違うお仕事だ。
私は配達侍女。
仕事内容は王宮で働く方々からお手紙や書類、小包や伝言などを預かって、指定された場所へ届けること。言うなれば、王宮内の郵便屋さんだ。
服装も、黒い踝丈のワンピースに白いエプロンとブリムという侍女服ではなく、深緑の上着に膝丈のスカート。頭には官帽。
今日も元気に宮中を歩き回ってお仕事中。
さて、と。新しい配達物も預かったし、近衛長様の所にいかなくちゃ。あ、ならその前に図書館へ寄って武器庫から預かった目録を届け先なくちゃ。
どこの通路を通るか、通り道に配達先があるかをすぐに弾き出すのは、配達侍女の基本スキルだ。
宰相様にご挨拶をして、退室しようとしたら私がドアノブに触れる前に蝶番が壊れそうな勢いで扉が開かれた。
「きゃあっ!?」
「わっ! びっくりした。って、君かぁ。どうしたんだい?」
ノックもなく乱暴に入っていらっしゃったのは、少し長めの黒髪に切れ長な深緑色の瞳をされた男性でした。葉の色を思わせる色なのに、今はその瞳が燃え盛っております。
上下紺色の礼服をきっちりと着こなされた男性は、第二王子殿下の護衛兼補佐官を務めていらっしゃるグリーフ・サインレン様でした。
グリーフ様は、私たちを両の目で捉えられると、青筋の立ったお顔で口元をひきつらせてこうお訊ねになりました。
「すみません。うちの王子を見ませんでしたか?」
どすんと地の底に届くような低い声。
壁に立てられた爪がガリッと音を立てる。
これは──かなりのお怒りモードのようです。
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