婚約破棄された令嬢の慌ただしい一日

夢草 蝶

文字の大きさ
上 下
3 / 3

セオンの目的

しおりを挟む
「ところで、セオン様こそどうしてここに?」

 私は話題を変えるためにセオン様自身に関する質問をしました。

「僕かい? ああ、僕は人探しをしてるんだ」

「人探し、ですか?」

 待ち合わせの相手とはぐれてしまったのでしょうか?

「友人でね。もうずっと音信不通の相手なんだ。王都のどこかにいることは間違いないから、どうしても会いたくってね」

 そう仰るセオン様の横顔は遠くの人を想うように寂しげな表情を浮かべていました。
 王都にお住まいであれば、住所を調べる方法くらいいくらでもあると思うのですけれど。
 どうやら、込み入った事情があるようです。

「そうなのですか。あの、よろしかったらその方の特徴を教えていただけますか? 私ももうしばらくこの辺りをぶらつく予定なので、万が一お見かけしたらお教えしますよ」

「いいのかい? なら、頼もうか。彼はねぇ、黒髪に紅玉も欺く美しい瞳をした青年だよ。歳の頃は僕と同じ。身長は私より少し低かったけれど、もう何年も前だし、手足は僕より大きかったから今は僕より大きいかもしれない。何より、彼には会えばわかる。一度見たら忘れないとっても整った顔立ちをしているから」

 友人の事を語るセオン様はとても優しそうな顔をされていて、その方のことを深く思っているのが伝わってきました。

「大切な方なのですね」

「僕にとっては唯一無二の親友で幼なじみだからね。親同士が仲が良くて、ずっと一緒だったんだ。一緒に遊んだことも、剣を交えたのも数えきれないくらいだよ。もしも彼がこの広い王都で一人孤独に耐えているのなら、僕は友として傍にいたいんだ」

 セオン様のお話だと、もう数年はそのご友人に会っていない様ですけれど、親同士の繋がりなのに、音信不通? それに一人という言葉も気になりますね。
 やはり不思議に思うところはありましたが、事情は人それぞれだと納得しました。
 最後に確認をします。

「黒髪に赤い瞳のセオン様と同い年の男性、ですね。わかりました。もしも街でお見かけすることがあれば真っ先にセオン様にお教えします」

「ああ、ありがとう。本当に全然見つからないから、協力してくれる人が一人でもいるのは頼もしいよ」

 とは言え、広い王都で行き当たりばったりで特定の人物と出会う確率は低いでしょうね。ずっと探しているセオン様も会うどころかすれ違ってもないようですし。
 あ、いけない。
 セオン様のご友人の人物像を頭にしっかりと入れると、人を指す上で最も大切な記号を訊いていないことに気づきました。
 私はそういえばと付け足してセオン様に質問し、その方の名前を訊ねました。

「ご友人のお名前はなんと仰るのですか?」

 思い出を慈しむ優しい声音で、セオン様は友の名を教えてくれました。

「エンジュだよ」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

一族が揃ったら婚約者の不貞が発覚して新年早々、宴が家族会議になりました。

夢草 蝶
恋愛
 ティティアは新年の宴に参加するために、公爵邸を訪れていた。  宴会場へ向かう途中、従兄妹たちを見つけるが、ティティアは声を掛けることが出来なかった。  何故なら、恋人同士の距離感で向き合っている二人のうちの一方は、ティティアの婚約者であるパーゼスだったからだ。  ティティアはこれから新年の宴ということもあり、後で両親に相談しようとその場を去ろうとしたが、そこへとある人物がやって来て、事態は一族を巻き込んだ家族会議へと発展! 「う、宴は・・・・・・?」  楽しい宴が家族会議に潰され、愕然とするティティアの肩を従兄のレノルドがポンと叩く。 「諦めろ」

こうしてあなたたちが生まれたの♪

夢草 蝶
恋愛
 あの日、お母様は婚約破棄を破棄するって言われたの。  そしてお父様に出会ったのよ──。

さくっと婚約破棄! さくっと婚約!

夢草 蝶
恋愛
 婚約者から婚約破棄を告げられてる最中に求婚された話。  ショートショートの練習です。

二人まとめてさようなら!

夢草 蝶
恋愛
 妹とその婚約者が婚約破棄をすることになった。  慰謝料で揉めているらしく、その仲介に入ることになった姉は、二人と交わしたある約束について語り出す。

婚約破棄された令嬢は花を摘む

夢草 蝶
恋愛
「お前との婚約を破棄して、ルピィと婚約する!」 「えっ、それは止めた方が──」  その一週間後、彼女は元婚約者に花を贈った。  一話完結のお話の習作です。  自分の中でもう少し話が膨らめば、数話追加するかもしれません。

婚約破棄された翌日に、薔薇の花束と共にプロポーズされた令嬢の話

夢草 蝶
恋愛
 婚約破棄をされた翌日。  その令嬢の視界は、情熱的な赤で埋め尽くされていた。

【完結】泣き虫だったあなたへ

彩華(あやはな)
恋愛
小さい頃あなたは泣き虫だった。 わたしはあなたをよく泣かした。 綺麗だと思った。溶けるんじゃないかと思った。 あなたが泣かなくなったのはいつの頃だった・・・。

「ざまぁされる似非ヒロインだ」と姉に言われますが意味がわかりません。

音爽(ネソウ)
恋愛
「あんたは勉強せずに泣いて媚びてれば良いのよ!」 困りました、私は泣き虫ではないのですよ。 姉が私の教科書を破り捨てました。どうして邪魔をされるのでしょう? 学園入学前に予習をしておきたいのにほぼ毎日邪魔が入ります……。 両親も激甘く私を扱います、ドレスも装飾品も買い過ぎですよ!

処理中です...