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第三十六話 容疑者

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「なななな何のことでしょう!? わわわわた私は何も知りませんっ!」

 わぁ、こんなお手本みたいな嘘つけないタイプっているのねぇ。
 思いっきり焦ってる。それに全く目を合わせようとしない。ふぅむ。

「それは本当ですか?」

「はい! ほ、本当の本当です!」

 何かから身を守るように、両手をぎゅっと握ったマクベール嬢が答える。
 私は、そんなマクベール嬢を逃がさないように、両肩に手を置いて、私の方へ顔を向かせた。

「ひっ! あ、あの・・・・・・」

 マクベール嬢の肩に力が入る。石みたいに硬い。

「ねぇ、マクベール嬢? もう一度訊きますから、今度は私の目を見て答えて下さいね? 本当に、天に誓って、何も知らないんですね?」

「あ・・・・・・あ・・・・・・」

 足が小鹿のように震えている。ここまで怯えられると、申し訳ないような気持ちになってくる。
 それでも、訊くのを止めることは出来ない。
 毒殺未遂と放火の犯人が同一犯かはわからないけれど、そんな危険な真似をする人物を野放しにしておく訳にはいかないし、私だってまた犯人にされては堪らない。

「大丈夫です。犯人が怖いなら、私がとっちめてやりますから、正直に話してみて下さい」

 なるべく安心して貰える台詞を言ってみると、マクベール嬢は何度か視線を世話しなく動かしてから、大きく深呼吸をした。
 すーっと息を吸って、はぁーっと吐く。
 それでも本人の性格のせいか、肩からは力が抜けてない。
 マクベール嬢は覚悟を決めたのか、戸惑いがちに私を見上げ、とある人物の名前を口にした。

「ふ・・・・・・フランシエル様、です・・・・・・」

「えっ?」

 私は思わず振り返った。
 視線の先には、優雅な所作でティーカップを持って、お茶を飲んでいる令嬢の姿。
 この場にいる全員、多かれ少なかれシャルニィ嬢への不満や鬱憤を持っているのは間違いない。
 それでも、その中ではこの人ではないだろうな、と思っていた名前が出てきたから驚いてしまった。

 え!? ロードレス嬢が?
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