婚約破棄は承るので、後はもう巻き込まないでください。

夢草 蝶

文字の大きさ
上 下
27 / 37

第二十六話 水瓶の鞘

しおりを挟む
「これは──!」

 コンラッド殿下の驚く声が聞こえたが、今は集中集中!
 この鞘、無尽蔵に水を出せるし、勢いの調整出来るのは便利だけれど、大量の水を勢いよく出すと反動でこっちが吹っ飛ばされかねないから、とにかく踏ん張らないといけないのだ。
 とにかく、蛇口を最大まで開くようにして水をかけて、かけて、かけまくる。
 すると、火は忽ち、小さく小さくなっていき、やがて完全に鎮火した。
 後にはびしょびしょで崩れ落ちた外壁と焦げた床や天井が残る。中の備品や調度品も黒焦げだったり、熱で変形してしまっている。

「これでよしっと!」

 再燃の可能性がないか確認してから、私は鞘から出していた水を止め、剣を鞘に戻した。

「火はこれで何とかなりましたから、後は怪我人などがいないかの確認をお願いします」

「あ、ああ。分かった。ソール、マルク」

「「了解致しました」」

 コンラッド殿下の指示に従って、クラウズム先輩とヴァルト先輩がまだ火災に動揺している生徒たちの方へと向かって行った。

「エルシカ嬢、その鞘はもしかして──」

 コンラッド殿下が剣を納めた鞘をまじまじと見つめてくる。
 おおよその察しはついているようだから、私は頷いた。

「はい、そうです。これは『水瓶の鞘』ですよ」

「驚いた・・・・・・王立美術館に保管してあったのが、暫く紛失したと思ったら、個人のものになったという話は聞いていたけれど、まさかそれがエルシカ嬢だったとは──」

 それはあれですね。紛失云々は私が借りパクしていた頃の話ですね。
 この水瓶の鞘は、超強力な水の精製魔法が使える最高峰の魔法具でもある。
 水とは生活の根幹にして、命の源。
 綺麗な水を際限なく出せるというのは、破格の力だ。
 そのため、この鞘は剣と共に長らく王立美術館に保管され、国内のどこかで水不足など、大量の水が必要な事態が発生した際に特別に使われるものだった。
 それが二年前。ガルルファング公爵家が王立美術館からこの剣と鞘を借り受けた際に、返還期日になっても返されなかった。主に私のせいで。
 二年前も四年前の魔族侵攻ほどじゃないけれど、厄介なことが起こって、何とかしようと屋敷にあった武器を片手に家を飛び出したのだ。
 ──それがたまたま、この剣だったわけで。
 いやぁ、これって国宝級の宝物ほうもつだから、お父様たち生きた心地しなかったろうなぁ。──うん、よくよく考えたら、誤魔化すために奔走していたお兄様には悪い気がしてきた。
 とは言え、最終的にこれをガルルファング公爵家──というより、私個人のものにしたがったのは、私以外の家族全員だけど。
 その後、お父様がめっちゃくちゃ頑張って、超特例としてこの剣と鞘は私の物になりましたとさ。
 大概、親ばかよねぇ。愛されてるのは嬉しいけどさ!

「何はともあれ、エルシカ嬢のおかげですぐに消火することが出来た。ありが──」

「エルシカ!」

「!?」

「──っ、レスド!」

 うわっ、びっくりした!

 怒気を放って現れたレスド殿下に、私はいきなり胸ぐらを掴み上げられた。
 ぎゅっ!? レスド殿下、私より身長高いから、襟が引っ張られる。後、コンラッド殿下と話してる最中に剣を背中に戻したから、持ち手が食い込んで痛い痛い痛い!

 なんなのよぉ・・・・・・。

 婚約破棄の手続きの際にも現れなかった元婚約者はかなりご立腹らしい。
 その肩越しには掛布を肩に掛けて、男子に囲まれて支えられているシャルニィ嬢の姿が見えた。

 そー言えば私、こいつら全員にシャルニィ嬢に毒を盛った犯人だと思われてるんだっけ?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~

柚木ゆず
恋愛
 今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。  お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?  ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。

梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。 王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。 第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。 常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。 ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。 みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。 そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。 しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*) 表紙絵は猫絵師さんより(⁠。⁠・⁠ω⁠・⁠。⁠)⁠ノ⁠♡

処理中です...