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誓います!

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 とりあえず、押しきった。
 招待客の中には、当然何故、カインが花婿なのかという疑問を声に出す者もいた。
 これはもう、正直に話すしかなかった。
 なので、イーバーが逃げたことを出来るだけ婉曲な表現でお知らせし、カインと結婚することを報告した。
 とにかく、勢い。勢いだけで乗り切った。
 招待客も招待客で、言いたいことはあったが、励精に考えて、ユーナとカインも被害者であると理解し、口を噤んだ。

 その後、式は滞りなく進められた。

 そして、誓いの言葉の時。

「貴方たちは病める時も、健やかなる時も、貧しい時も、富める時も、悲しみの時も、喜びの時も、互いを助け、愛することを誓いますか?」

「誓います」
「誓います」

 この時の、この言葉に、どれ程の重みがあったのだろうか。
 本来は義姉弟になる筈だった二人。
 それが何の因果か、夫婦となることになった。たった一日で。
 実感なんて何もなくて、とにかく無事にこの結婚式を終わらせることだけを考えていた。
 だから、忘れていたのだ。
 誓いの言葉、ケーキ入刀、指輪の交換、ブーケトス。
 結婚式にはいくつものイベントがあるが、これも定番中の定番。

「では、誓いの口づけを」

「え?」
「は?」
「はい?」

 ユーナとカインと神父がそれぞれ、きょとりとする。

「くち、づけ・・・・・・ですか?」

「はい」

「キス、ですよね」

「はい」

 神父は二人の新たな門出を祝い、笑顔で祝福している。
 その目の前で、ユーナとカインは全身の毛穴から汗が吹き出すのを感じていた。

((わ、忘れてた──────!!!))

 ユーナとカイン。
 似た者同士の真面目な二人は、ただただ式をちゃんとしようと事務的になるあまり、結婚式における一大イベント『誓いのキッス』を忘れていたのである。
 刹那、二人は目と目で会話した。

(どうする・・・・・・!?)

(どうするって、するしかないだろ。結婚式なんだから・・・・・・)

(出来るの? ねぇ、貴方、私にキスとか出来るの!?)

(出来る出来ないじゃないだろ! 式をつつがなく終わらせるためには、やるしかないんだよ!)

(いいの? いいのね!? 後で返品とか出来ないからね! クレームも受け付けてないわよ!)

(どんだけ念押すんだよ。ちょっと、触れる程度にするだけだろ。そんなビビんなくたって──)

(びびびびビビってなんかないわぁ! やってやろーじゃないのよ! ばっちこいよ!!!)

(ユーナ姉、ちょっと落ち着いて)

 この間、約0,1秒。
 心の中がどれだけ大パニックになっても、顔には出さない。
 二人は笑顔で向き合った。
 壊れ物を触るように、カインの指が肩に触れる。
 ユーナの心臓がばっくんと跳ね上がった。
 近づく距離、目蓋に閉ざされてゆく瞳、肌で感じる自分のものじゃない呼気。

(ええい! なるようになれ────!!!)

 カインに合わせ、ユーナはぎゅっと目を瞑る。

 誰にも触れられたことのない唇に今、温もりが重なった。
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