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第三話 回想、そして危機

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 乙女ゲーム。乙女向けのゲーム──つまり、恋愛シミュレーションゲームのことだ。

 乙女ゲームが好きだったのは妹の方だったけど、あたしたち姉妹は互いに布教活動をしていたから、妹がハマっていたゲームを何度かプレイしたことがある。

 この世界そっくりのシナリオの『花冠の祈り』もその一つだった。

 攻略対象は隠しキャラを合わせて計六人。
 最初のプレイで攻略出来るのは三人までで、三人を攻略し終えると残り二人のルートが解放され、それもコンプしたら隠しキャラのルートへ入れるという作りのゲームだった。

 ただ、あたしは『花冠の祈り』をプレイしたことはあるものの、あまりあたしには合わなくて一人目を攻略しただけで止めてしまった。
 その後は、どハマりしていた妹の感想やらネタバレを他のゲームをやりながら聞き流していただけ。

 つまり、あまり詳しくはない。

 そしてあたしは『花冠の祈り』で最初に攻略出来る三人のうちの一人、第一王子ルキア・アイゼンベルンルートに登場するクローザ・ティアライズに生まれ変わってしまったようだ。

 クローザの役割は、ルキアルートの中盤で殺される悪役令嬢。
 序盤でヒロインとルキアの微笑ましいエピソードをやって、そのまま恋愛要素の濃くなってくる分岐ルートに入ると婚約者のいるルキアが浮気をする最低男になってしまうため、クローザは中盤で死なせるしかないのだ。
 元より、王子の婚約者という地位に固執していたクローザは、突然現れてルキアと意気投合したヒロインを快く思わず、何とかして排除しようとあらゆる策を講じた。それは『千呪印』の件でも分かるように、時には命を脅かすものもあった。

 そして、さっきのがクローザ退場の断罪劇。

 ヒロインに行っていたギリギリどころかフツーにアウトな嫌がらせが露見し、取り調べのために呼び出されたフールラウンド(まだ公になっていない貴族絡みの事件の取り調べを行う円形の建物)で、クローザは最後の悪あがきと服にナイフを仕込ませ、体には『千呪印』をかけて事に及んだ。
 そして、取り調べを受ける前にヒロインを殺そうとしてルキアの返り討ちに合い、命を落とす──はずなんだよなぁ。

「ばっちり生きてるし。しかも、多分それがきっかけで前世思い出したし──むおぉぉぉ! めっちゃ詰んでるじゃん! 何で!? 普通、こういう死亡ルート有りキャラクターへの転生って生まれた時からすでにとか、子供の時に何かショックを受けてとか、最低でもシナリオ開始時に前世を思い出すものじゃん!? 何でよりにもよって死んで生き返ってから思い出すのぉっ!? 死亡フラグ回避どころか回収してからスタートとかバグってんでしょ!!? パッチはないのパッチは! どーしろってのよ!!?」

 断罪されてあの世に退場の筈が、余罪増やして復活とかどうしろって言うの!?
 今日は帰っていいって言われても、どうせ後日また呼び出されて取り調べ受けて罰を受けるんだよな・・・・・・。
『千呪印』とか使ったら一発アウトものだし、普通に極刑じゃない? 二度死ねっての!?

「うぁあああっ・・・・・・何でこんなことにぃ。あたし生まれ変わって二回死ぬような目に合うようなことした覚えないのにっ! いや、初出勤前に死んだりとか方々に迷惑かけたけどっ!?」

 どうしようもない八方塞がり状況に頭を抱えて唸っていると、いつの間にか時間が経っていたらしく、医官が帰りの準備が整ったと知らせに来た。

 あたしはどんよりお通夜モードでふらふらと立ち上がり、あることに気づいた。

「あ、しまった・・・・・・」

 血塗れのまま寝っ転がったから、ベッドのシーツが真っ赤になってしまったのだ。

 医官に素直に話して謝ると、「お気になさらず」と言われた。

 最後まで気まずいまま、あたしは馬車に乗り込み、帰路へとついたのだった。
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