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第4章 「木星」
プロポーズ
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さらに6週間が過ぎて、船が木星の方向を向いた。
レーダーにも、木星が確認できる。
「惑星」とはよく言ったもので、レーダー上の木星は右から左へと動き、レーダーの左端あたりに行ったところから、今度は左から右へと動き始めた。
木星を示す光点がレーダーの中央に止まったところで、ぴったり遭遇できる……はずだった。
『2番スラスター、エンプティ。チャージしてください』
コンピュータのアナウンスに、俺たちは息をのんだ。
そういえば、ガキはオートパイロットのトレースに、俺の「操船」だけを入力した。
つまり、スラスターを噴く出力と時間だけ。
が、実際にはスラスター剤の片減りを防ぐため、スラスター噴射のあとにはスラスターリングをローテーションする。
その入力を完全に失念していたようだ。
ペーパー航海士のバージンフリートの限界が、ここで露呈した。
俺にしても、スラスターリングのローテーションは食後に歯磨きガムを噛むようなもので、身体が覚えてしまっている。
特別なこと、言わなければ忘れることなどとの意識すらしていない。
ガキが蒼白になった顔を、はじめて見た。
俺と目が合うと、はっ! と我に返ったように、ライトスーツに手を伸ばした。
「私、スラスター剤の交換してくる!」
「バカヤロウ! スラスター剤の予備なんて積んでないだろう!」
「やから……スラスター剤のカートリッジを1番か3番から抜いて、2番に詰め直す!」
俺は思わず苦笑が漏れた。
「落ち着け。真空無重力でスラスターカートリッジの交換なんて、やったこともないだろう」
「けど……私のせいやし……私が行かんかったらおっちゃんが行くつもりやろ!」
「ははははは」
俺の上げた笑い声に、ガキは信じられないものを見るような目で、俺を見た。
「2番が死んだだけだろう。ローテーションで位置をずらしたら、4番が使える。
1周にスラスターカートリッジ3つなら、残り半周くらいはどうとでもなる」
言われてガキは安堵の溜息をついて、小さく呟いた。
「……ごめん」
とは言っても。
確認しておく必要がある。
木星と遭遇して……遭遇自体は、今となっては間違いないが、そのあとの細かいプランを俺は聞かされていない。
「まず、後ろから木星を追いかける軌道をとって、相対速度40snくらいで木星の重力圏に入るやろ?
んで、スイングバイの応用で、かすめるように木星に近づいて、できるだけ中心から直角に出るねん」
なるほど。
通常のスイングバイでは、重力の影響を最大限得られるように中心を目指して飛び、そこから外周をなでるように、重力の影響を最小にして、さらに遠心力ももらって加速を得るが、その逆をやろうって言う算段か。
「航路の誤差とかもあるけど、それで15snから25snくらいに落とせる……と思う。
あとは、木星の衛星は69もあるから、どれかで同じ事したら10sn以下には確実に落とせる。
木星の重力圏はアホほど広いから、衛星で何度かやったらほとんど止まれるし……確実なんは、木星のリングに突っ込んだら確実に止まれる」
「オーケイ、最後以外は納得した。
木星のリングは磁気嵐の中にあって、そこで止まれても船から出たとたん、電子レンジの中のチキンと友達になっちまう」
俺がそう言うと、またガキは顔を青ざめさせた。
スラスター剤の失敗で、完全に自信を失ってしまっている。
「要は、リングに突っ込む前に止めればいい……というか、多少の無理はするが止められる!」
ガキはようやく安堵の表情を浮かべた。
……とは言っても。
俺の計画では、最悪というか、かなり高い確率でミサイルが飛んでくる。
ただ、今それをガキに言うと、たぶん精神が保たない。
詳細は時期を見てだな。
「おっちゃん、黙ってどうしたん?」
…………っち。
「あー。ちょっとな」
「やっぱりヤバいん? ……ホンマ、ごめん」
俺は大げさにかぶりを振った。
「ああ。オマエのことを考えたら頭が痛い」
「……ホンマのホンマにゴメン!」
涙さえ浮かべるガキに、俺は思わず吹きだした。
「俺が頭を悩ませているのは航路の話じゃない。オマエだ」
「え?」
きょとんとするガキに、俺は噛んで含めるように言った。
「オマエが『リンドバーグ』なんて名乗ってるから……パラスでさえグラント達がああだったんだぞ」
そう。パラスにとってリンドバーグ家とは仮想敵の筆頭で、グラント軍曹達は名前だけで身構えた。
「木星でそんな名前名乗ったら、不敬罪で八つ裂きにされるか、勘違いで祭り上げられたあとでバレて……やっぱり八つ裂きだな。
まあ、勘違いされている間は美味い物も食えるだろうから、結果が同じならあとの方がマシか……」
「最後の晩餐ゆーやつ?」
「それで、だ。しばらくは俺の『クワジマ』を名乗らせようかとな」
俺がそういうと、ガキは左手をこちらに伸ばし、指も伸ばして手の甲を見せた。
「なんだ?」
「プロポーズやろ? 『俺の姓に入ってくれ』って。緊急事態やし、特別に妥協してあげる」
「バッ、バカヤロウ! 20年早い! それとも『ケイ=ポチ』とか『ケイ=タマ』にしてやろうか!」
俺が怒鳴ると、ガキはようやく声を上げて笑い出した。
…………だがな。
俺だって全くの朴念仁じゃない。
維持には失敗したが、一応結婚の経験もある。
ガキの冗談が……あの手の冗談は、決して好意を持たない相手に使われないことくらいはわかる。
むしろ、わかっていないのはガキの方だ。
異性として俺を見ているのか、父親代わりとして俺を見ているのかの区別ができていない。
だからこそ、区別のつく俺がけじめをつけなければならない。
「ま。どこかのバカがそんなリスキーな名前で登録してしまってるんで、船の照会をされたら一発だがな。
もっとも、俺がつけいるチャンスも、そこがキモなんだが」
「え?」
戸惑うガキに、今度は俺が笑いを浴びせた。
「問答無用でミサイルが来たらそれまでだ。
切り抜けられたら、その時に種明かしをしてやる」
そう言って煙に巻いた。
◇ ◇ ◇ ◇
それから3週間。
木星はレーダーの中央にあり、大赤斑も目視できる距離となった。
相対速度差は39snほどで、カージマーは木星の公転を斜め後方から追いかける軌道を取っている。
そろそろか。
俺はガキに強く言った。
「俺が必要なデータを求めたら5分以内に応えられるように覚悟しとけ。
それで俺のやろうとしていることがわかったら、カウントダウンを始めろ!」
ガキがゴクンと生唾を飲む。
と……言葉の共有が必要だ。
「中央コンソールから見て俺が『0時』、正面が『6時』。オマエの側に90度が『3時方向』で反対側が『9時』。間違えるなよ!」
カージマーというかDD51型そのものは弾丸型というか、船首から見ると円形だ。
そして、スラスターを支える支柱は船体を一巡りするリングから伸びていて、リングごとリボルバーの弾倉のように回転する。
特定のスラスターを「1番」とか「2番」とすると、リングを回したときに誤認が起きかねない。
通常航海時は問題にもならないというか、ディスプレイに表示されているナンバーを見れば間違えようがないが、これから曲芸じみたルートをとるつもりだ。
それも、惑星間航行の4倍という速度で、つまり時間の余裕は4分の1になる。
とっさの誤認、あるいは誤認防止のために視線を動かしただけで脇見事故につながりかねない。
木星に69個ある衛星とそれに貼りつくように回るコロニー、さらに木星のリングや船を勘案するなら、いくら木星の重力圏が大きいといっても高密度だ。
ましてこちらは、ただでさえ小回りのきかないトレインで、しかもスイングバイのため、わざわざ衛星をかすめる軌道をとろうとしている。
コロニーへの衝突軌道と見なされれば、問答無用で自衛のためのミサイルが来る。
そんな事態を避けるための方法は、航海士教本の一番最初に書いてある。
『早め早めの判断と操作』しかない。
もちろん、カーゴはパージする。
が、「今」ではない。
たとえ生き残れたとしても、コロニーを狙ったテロではなく「事故」だと証明できなければ、俺たちはテロリストとして拷問を受け、その後は「世代間宇宙船」で銀河の果てに飛ばされる。
それを回避するための「言い訳」には、相手に見える場所でカーゴをパージし、「事故を防ごうとした」というアピールが求められる。
幸か不幸か、拿捕さえしてもらえればセンサーやジャイロがおかしくなっていることも、スラスターが1器使い物にならないことも立証できる。
そう。俺の目論見は「船を止める」ことではなく、軍か警察に拿捕してもらい、相手の船に乗り移ることだ。
最低限、それができれば生き延びられるし、証拠としてこの船も拿捕した側が止めてくれるだろう。
「だろう」とは楽観的に過ぎるかもしれないが、希望の1つや2つくらい持っていい……というか、持たないとメンタルが耐えられない。
「木星の北極方向から垂直に突入する。180度回ったところでエスケープ。
270度方向に脱出して木星衛星の公転平面に乗せる」
俺の言葉にガキは3Dモニターを見ながら手元のキーボードを叩き、ルートを算出した。
「270度」とか「180度」というのは難しそうに聞こえるかもしれないが、実際にコンピュータに入力するときは、なまじ「右から」「上へ」なんて言われて数字に変換するより楽だし、間違いもない。
「X軸とY軸はわかったけど、Z軸はどうするん?」
問うガキに、俺はムリして笑顔を作って応えた。
「ガリレオ衛星はコロニーや船が多いから避けろ。
それさえ避けられたら……そうだな。適当な衛星をオマエが見繕ってカウントしろ。
4時から8時の間なら行ける。
そこでもう一度スイングバイをかけたらゴールは見える。
今度はガリレオ衛星に近づくコースで、木星からは十分な距離をとれ」
木星の巨大重力は岩でできた衛星、たとえばイオですら歪ませる。
その重力を利用して減速を試みるが、突入時に引っ張られすぎると、速度を失ったこの船が脱出できる保証はない。
木星圏でもっとも危険な天体は、木星そのものだ。
レーダーにも、木星が確認できる。
「惑星」とはよく言ったもので、レーダー上の木星は右から左へと動き、レーダーの左端あたりに行ったところから、今度は左から右へと動き始めた。
木星を示す光点がレーダーの中央に止まったところで、ぴったり遭遇できる……はずだった。
『2番スラスター、エンプティ。チャージしてください』
コンピュータのアナウンスに、俺たちは息をのんだ。
そういえば、ガキはオートパイロットのトレースに、俺の「操船」だけを入力した。
つまり、スラスターを噴く出力と時間だけ。
が、実際にはスラスター剤の片減りを防ぐため、スラスター噴射のあとにはスラスターリングをローテーションする。
その入力を完全に失念していたようだ。
ペーパー航海士のバージンフリートの限界が、ここで露呈した。
俺にしても、スラスターリングのローテーションは食後に歯磨きガムを噛むようなもので、身体が覚えてしまっている。
特別なこと、言わなければ忘れることなどとの意識すらしていない。
ガキが蒼白になった顔を、はじめて見た。
俺と目が合うと、はっ! と我に返ったように、ライトスーツに手を伸ばした。
「私、スラスター剤の交換してくる!」
「バカヤロウ! スラスター剤の予備なんて積んでないだろう!」
「やから……スラスター剤のカートリッジを1番か3番から抜いて、2番に詰め直す!」
俺は思わず苦笑が漏れた。
「落ち着け。真空無重力でスラスターカートリッジの交換なんて、やったこともないだろう」
「けど……私のせいやし……私が行かんかったらおっちゃんが行くつもりやろ!」
「ははははは」
俺の上げた笑い声に、ガキは信じられないものを見るような目で、俺を見た。
「2番が死んだだけだろう。ローテーションで位置をずらしたら、4番が使える。
1周にスラスターカートリッジ3つなら、残り半周くらいはどうとでもなる」
言われてガキは安堵の溜息をついて、小さく呟いた。
「……ごめん」
とは言っても。
確認しておく必要がある。
木星と遭遇して……遭遇自体は、今となっては間違いないが、そのあとの細かいプランを俺は聞かされていない。
「まず、後ろから木星を追いかける軌道をとって、相対速度40snくらいで木星の重力圏に入るやろ?
んで、スイングバイの応用で、かすめるように木星に近づいて、できるだけ中心から直角に出るねん」
なるほど。
通常のスイングバイでは、重力の影響を最大限得られるように中心を目指して飛び、そこから外周をなでるように、重力の影響を最小にして、さらに遠心力ももらって加速を得るが、その逆をやろうって言う算段か。
「航路の誤差とかもあるけど、それで15snから25snくらいに落とせる……と思う。
あとは、木星の衛星は69もあるから、どれかで同じ事したら10sn以下には確実に落とせる。
木星の重力圏はアホほど広いから、衛星で何度かやったらほとんど止まれるし……確実なんは、木星のリングに突っ込んだら確実に止まれる」
「オーケイ、最後以外は納得した。
木星のリングは磁気嵐の中にあって、そこで止まれても船から出たとたん、電子レンジの中のチキンと友達になっちまう」
俺がそう言うと、またガキは顔を青ざめさせた。
スラスター剤の失敗で、完全に自信を失ってしまっている。
「要は、リングに突っ込む前に止めればいい……というか、多少の無理はするが止められる!」
ガキはようやく安堵の表情を浮かべた。
……とは言っても。
俺の計画では、最悪というか、かなり高い確率でミサイルが飛んでくる。
ただ、今それをガキに言うと、たぶん精神が保たない。
詳細は時期を見てだな。
「おっちゃん、黙ってどうしたん?」
…………っち。
「あー。ちょっとな」
「やっぱりヤバいん? ……ホンマ、ごめん」
俺は大げさにかぶりを振った。
「ああ。オマエのことを考えたら頭が痛い」
「……ホンマのホンマにゴメン!」
涙さえ浮かべるガキに、俺は思わず吹きだした。
「俺が頭を悩ませているのは航路の話じゃない。オマエだ」
「え?」
きょとんとするガキに、俺は噛んで含めるように言った。
「オマエが『リンドバーグ』なんて名乗ってるから……パラスでさえグラント達がああだったんだぞ」
そう。パラスにとってリンドバーグ家とは仮想敵の筆頭で、グラント軍曹達は名前だけで身構えた。
「木星でそんな名前名乗ったら、不敬罪で八つ裂きにされるか、勘違いで祭り上げられたあとでバレて……やっぱり八つ裂きだな。
まあ、勘違いされている間は美味い物も食えるだろうから、結果が同じならあとの方がマシか……」
「最後の晩餐ゆーやつ?」
「それで、だ。しばらくは俺の『クワジマ』を名乗らせようかとな」
俺がそういうと、ガキは左手をこちらに伸ばし、指も伸ばして手の甲を見せた。
「なんだ?」
「プロポーズやろ? 『俺の姓に入ってくれ』って。緊急事態やし、特別に妥協してあげる」
「バッ、バカヤロウ! 20年早い! それとも『ケイ=ポチ』とか『ケイ=タマ』にしてやろうか!」
俺が怒鳴ると、ガキはようやく声を上げて笑い出した。
…………だがな。
俺だって全くの朴念仁じゃない。
維持には失敗したが、一応結婚の経験もある。
ガキの冗談が……あの手の冗談は、決して好意を持たない相手に使われないことくらいはわかる。
むしろ、わかっていないのはガキの方だ。
異性として俺を見ているのか、父親代わりとして俺を見ているのかの区別ができていない。
だからこそ、区別のつく俺がけじめをつけなければならない。
「ま。どこかのバカがそんなリスキーな名前で登録してしまってるんで、船の照会をされたら一発だがな。
もっとも、俺がつけいるチャンスも、そこがキモなんだが」
「え?」
戸惑うガキに、今度は俺が笑いを浴びせた。
「問答無用でミサイルが来たらそれまでだ。
切り抜けられたら、その時に種明かしをしてやる」
そう言って煙に巻いた。
◇ ◇ ◇ ◇
それから3週間。
木星はレーダーの中央にあり、大赤斑も目視できる距離となった。
相対速度差は39snほどで、カージマーは木星の公転を斜め後方から追いかける軌道を取っている。
そろそろか。
俺はガキに強く言った。
「俺が必要なデータを求めたら5分以内に応えられるように覚悟しとけ。
それで俺のやろうとしていることがわかったら、カウントダウンを始めろ!」
ガキがゴクンと生唾を飲む。
と……言葉の共有が必要だ。
「中央コンソールから見て俺が『0時』、正面が『6時』。オマエの側に90度が『3時方向』で反対側が『9時』。間違えるなよ!」
カージマーというかDD51型そのものは弾丸型というか、船首から見ると円形だ。
そして、スラスターを支える支柱は船体を一巡りするリングから伸びていて、リングごとリボルバーの弾倉のように回転する。
特定のスラスターを「1番」とか「2番」とすると、リングを回したときに誤認が起きかねない。
通常航海時は問題にもならないというか、ディスプレイに表示されているナンバーを見れば間違えようがないが、これから曲芸じみたルートをとるつもりだ。
それも、惑星間航行の4倍という速度で、つまり時間の余裕は4分の1になる。
とっさの誤認、あるいは誤認防止のために視線を動かしただけで脇見事故につながりかねない。
木星に69個ある衛星とそれに貼りつくように回るコロニー、さらに木星のリングや船を勘案するなら、いくら木星の重力圏が大きいといっても高密度だ。
ましてこちらは、ただでさえ小回りのきかないトレインで、しかもスイングバイのため、わざわざ衛星をかすめる軌道をとろうとしている。
コロニーへの衝突軌道と見なされれば、問答無用で自衛のためのミサイルが来る。
そんな事態を避けるための方法は、航海士教本の一番最初に書いてある。
『早め早めの判断と操作』しかない。
もちろん、カーゴはパージする。
が、「今」ではない。
たとえ生き残れたとしても、コロニーを狙ったテロではなく「事故」だと証明できなければ、俺たちはテロリストとして拷問を受け、その後は「世代間宇宙船」で銀河の果てに飛ばされる。
それを回避するための「言い訳」には、相手に見える場所でカーゴをパージし、「事故を防ごうとした」というアピールが求められる。
幸か不幸か、拿捕さえしてもらえればセンサーやジャイロがおかしくなっていることも、スラスターが1器使い物にならないことも立証できる。
そう。俺の目論見は「船を止める」ことではなく、軍か警察に拿捕してもらい、相手の船に乗り移ることだ。
最低限、それができれば生き延びられるし、証拠としてこの船も拿捕した側が止めてくれるだろう。
「だろう」とは楽観的に過ぎるかもしれないが、希望の1つや2つくらい持っていい……というか、持たないとメンタルが耐えられない。
「木星の北極方向から垂直に突入する。180度回ったところでエスケープ。
270度方向に脱出して木星衛星の公転平面に乗せる」
俺の言葉にガキは3Dモニターを見ながら手元のキーボードを叩き、ルートを算出した。
「270度」とか「180度」というのは難しそうに聞こえるかもしれないが、実際にコンピュータに入力するときは、なまじ「右から」「上へ」なんて言われて数字に変換するより楽だし、間違いもない。
「X軸とY軸はわかったけど、Z軸はどうするん?」
問うガキに、俺はムリして笑顔を作って応えた。
「ガリレオ衛星はコロニーや船が多いから避けろ。
それさえ避けられたら……そうだな。適当な衛星をオマエが見繕ってカウントしろ。
4時から8時の間なら行ける。
そこでもう一度スイングバイをかけたらゴールは見える。
今度はガリレオ衛星に近づくコースで、木星からは十分な距離をとれ」
木星の巨大重力は岩でできた衛星、たとえばイオですら歪ませる。
その重力を利用して減速を試みるが、突入時に引っ張られすぎると、速度を失ったこの船が脱出できる保証はない。
木星圏でもっとも危険な天体は、木星そのものだ。
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