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第6話 流行り物はチェックしよう

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 カタカタカタ、と事務所の中にタイピング音が2つ。今日の事務作業組は、土師と馬路だ。

 しばらくお互いに無言で作業していたが、集中力が切れたらしい土師が、
「……そういえば馬路さん、最近発売されたアクションRPG知ってます? あの有名なシリーズの最新作なんですけど」
 と、馬路に声をかけた。

「ああ、もちろん知ってますよ。話のネタになるかもしれないので」
「さすが馬路さん! 流行ってますよねぇ、あのゲーム。僕も気になって買ったんですけど、なかなかやる時間なくて…」
「買ったのであれば遊ばないと、もったいないですよ。それで話の膨らむお客さんもいるかもしれない」
「うーん、そうですねぇ…ちなみに馬路さんはどれくらいやったんです?クリアしました?」

 馬路はフッと笑って答えた。
「プレイ時間は、およそ200時間です」

「に…?」
「初見クリア、難易度別にクリア、RTA世界記録の塗り替え、やりこみ要素コンプリートまでやりました」
「せかいきろく…?」
「今は発見されてる面白いバグを順番に再現しています、そこまでいけば一旦あのゲームは遊びつくしたことにしようかと」
「いやいやいやいやいや! 遊びつくしすぎですよね!? 発売してまだ1か月たってないですよ!! あれ、馬路さんそこまでゲーマーでしたっけぇ!?」

 ええええええ、と叫ぶ土師に対して、馬路が首をかしげる。
「だって、あれだけ話題になっているゲームならいろいろなプレイスタイルがあるでしょう? 私はゲーマーではないので、ちゃんと勉強せねばと思いまして…」
「そんなところまで真面目なんですね、馬路さん…」
 知ってはいたが、あまりにも極端すぎる先輩に、思わず遠い目をしてしまう土師だった。

 ちなみにこの話を後日安保にしたところ、「ふーん。この前私のRTA世界記録塗り替えたの、馬路さんだったんですねー。流石、やべぇですねあの人」とさらっと言ったので、土師はとうとう宇宙を背負った猫の顔になった。

 世間は広いようで狭いものである。
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