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第5話 小口精算をするよ

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 毎月25日は、「(株)SUGUTORE 資格学校」営業部の小口精算の締め切り日だ。

「小口精算」とは、社員の少額立替経費を社内の小口現金で精算する、ということで、ざっくり言ってしまえば、個人で払ったお金を申請して会社に出してもらう制度である。

 例えば出先でコンビニコピー機を使って資料を追加印刷したり、お客さんとカフェで打ち合わせをしたときの代金等を、「これ経費で落としてください!」と申請して会社から支給してもらうといった感じだ。

 ただ、何でもかんでも経費で落ちるわけではないし、レシートや領収書などがないと申請もできない。

 今月も25日が近付き、澤山が部下たちに小口申請書の作成状況や内容を確認する頃合いとなってきた。 

 澤山がぐるりと事務所を見渡すと、自席にいるのは土師だけだった。残りの部下2名は、どうやらそれぞれ外回りをしているようで、今日はもう戻って来なさそうだった。

 とりあえず回収できる奴から集めていこう、と思った澤山は、土師へデスク越しに声をかけた。
「おーい、土師。お前、今月の小口まだ出てないけど大丈夫か?」
「あっ! すいません今レシートつけて提出しま――っいだぁ!! あ!」

 レシートを片手に勢いよく立ち上がった土師は、その勢いのまま足が滑り頭をデスクに打ち付け、レシートは手から離れ宙を舞い、

「「あ」」

 シュレッダーにホールインワン。
 ガガガガ、という音を立て土師のレシートは千切りになった。

「あああぁぁ…またやってしまった…」
 哀れ紙くずと化したレシートを見送り、土師は半泣きになってしゃがみ込む。

 いつもの事とはいえども、今回に関しては少し罪悪感を覚え、澤山は己のこめかみを抑えた。
「……あー、土師。あのレシートの内訳は覚えてるか」
「うぇ、えっーと、はい、お客さんとカフェに入ったのでそのレシートです。金額と内容は申請書に転記してます」
「わかった、じゃあとりあえず申請書だけでいいから出せ。経理には俺が言っておく」
 経理もお前の奇跡のドジっぷりは知ってるしな、と苦笑いした。

「澤山さん゛ん゛~~! あ゛りがと゛うございますうう゛う゛!」
 レシートを失った悲しみから一転、上司の頼もしい言葉に、土師はダバダバと涙を流して澤山にセミのごとく抱き着いた。
「いでででで! 土師離れなさい! 俺の腰が死ぬ!!」
「一生ついていきまずうううぅう゛う゛!!」

 ちなみに安保は『水族館観光費(本人曰く、追加提案の参考のため)』という小口を『社外研修費』で出そうとして澤山に頭を叩かれ、馬路はしっかり完璧な申請書を提出していた。
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