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第一話 魔王は勇者に討たれて異世界へ

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魔王城 玉座の間

甲高い剣戟が鳴り響く魔王城では二人の男が剣を交えていた。

片方は白銀の髪に金色の瞳を持つ青年、もう片方は金の髪に碧眼の少年だ。

少年は青年に向かって叫んだ。

「魔王!何故!何故!罪の無い民を殺した!お前に人情と言うものはないのか!」

「……………人は皆愚かで、罪深き生き物だ、だから、殺した。」

「っ!それは違う!みんながみんな罪を犯しているわけじゃない!子供は何も知らない!だから殺す必要なんてなかっただろ!」

「はっ!何も知らずに辛苦を味わわずにのうのうと生きている奴がいると俺は虫酸が走るだよ!」

「そうじゃないだろ!こんな苦しくて辛いことをみんなが味わう必要なんかないんだ!その為に俺たち大人がいるんだろ!」

「…………………勇者よ、お前は真っ直ぐだな、かつての俺とは大違いだよ。あの無力感に苛まれ、復讐の鬼と化した俺とは違ってな。」

「は?何を言って、」

勇者は困惑していた。

魔王は勇者の剣を弾くと後ろに一足飛びに下がった。

「勇者よ、少し、昔話をしようか。」

魔王は剣を下げた。

「俺は、かつては人間だった。」

「っ!!」

「お?その様子だと薄々勘付いていたか?まあよい。」

魔王はポツポツと喋りだした。



「昔、ある街にクオンと言う青年がいた。」

「クオンは家族や婚約者と幸せな日々を過ごしていた。」

「だが、その日々が突然終わりを告げた。」

「隣国が領地を求めて自国に攻めて来たのだ。」

「国境線に一番近かった俺の街は、蹂躙された。」

「子供や老人、大人の男は殺され、大人の女性は兵士たちの慰み者に、酷い奴はまだ子供の少女にすら手を出した。」

「そして、魔の手は俺の家族にも迫った。」

「まずは、父が殺された、家族を守って死んでいったよ、立派な最後だった。」

「次は兄さん、その次は母さん、そして俺の婚約者にすら手を出し始めた。」

「俺の婚約者は街一番の美人で俺の幼なじみでもあった。」

「俺は必死に抵抗したよ、でも、守れなかった。」

「俺は背中から剣を刺され地面に縫い付けられた。」

「奴らは俺に止めを刺さなかった、俺の婚約者を俺の目の前で犯そうとしたのだ。」

「俺たちの尊厳を陥れようとしていたのだ。」

「彼女は必死に抵抗していたよ、もちろん俺も諦めずに敵を殺そうとした、だが、間に合わなかったよ、血を流しすぎて意識が薄れていくなかで最後に見たのは、婚約者が敵の剣を奪って自害するとこだった。」

「彼女はずっと前から話していたよ、『あなたに操を捧げる、あなた意外を受け入れるくらいなら私は自害する』ってさ。」

「俺は冗談だと受け流していたけど、今ならわかるよ、彼女は俺を心の底から愛してくれていたから、自害を躊躇なく出来たんだと。」

「最後に彼女はこう言って死んだよ、『ごめんなさい、クオン。』って。」

「俺は、守れなかったんだよ!父も母も兄も婚約者さえも、守れなかったんだ!」

「そして無力感に苛まれると同時に俺にドス黒い感情が溢れ出した。」

『殺す』『許さない』『皆殺しにしてやる』『殺戮だ』『殺す』『殺す』『殺す』『殺す』『殺す』『殺す』『殺す』『殺してやる』

「その時だった、俺に向かって黒いもやが吸い込まれていった。」

「あれはおそらく、その場に溢れていた怨念だったんだろうな。」

「際限なく溢れ出ていた街中の怨念はすべて俺の体に収まった。」

「すると変化が起きた、腹の傷は塞がり、俺の短かった髪は腰まで伸びて白銀の輝きを帯び、目は金色になった。」

「俺はその力を得た瞬間に理解したよ、この力は復讐の為の力だとね。俺の家族と婚約者の仇討ちの為のね。」

「そして、俺は兵士たちを皆殺しにした、兵士たちが命乞いをしても聞く耳を持たずに残酷に凄惨に一人残らず、殺戮した。」

「俺はその時に更に兵士たちの分の怨念も吸収して、魔王となった。」

「俺は、家族や婚約者の仇である兵士たちを皆殺しにしても、殺戮の衝動はおさまらなかった。」

「だから今度は、

「そして、俺は魔王、白銀の殺戮王となった。」

勇者は魔王の話をずっと黙ったまま聞いていた。

「俺は、もう戻れないところまで来てしまっているんだよ、勇者。」

「……………………」

「俺は罪無き民も罪深き畜生も全て、分け隔て無く、殺した。」

「……………………」

「おっと、話が長すぎたな、すまない勇者よ。」

すると、ずっと黙っていた勇者は口を開いた。

「魔王、お前は、?」

魔王はその勇者の言葉に眉を潜めた。

「勇者よ、お前は何を言って、」

「貴方の!」

「っ!?」

「貴方の!婚約者だった女性は!こんなことを貴方に望んでいたと!本気で!本気で!そう思っているのか!?」

「…それは、」

「俺は、そうは思わない!貴方のことを心の底から愛していた彼女は!貴方がそんな悲しいことをやり続けることを望む筈がないだろう!」

「…………………」

「決めたよ、俺は貴方と貴方の婚約者の為に、」

勇者は剣先を魔王に向けて、

「この、悲しみの連鎖を断ち切ってみせる!」

宣言をした。

「………………そうか、勇者よ、お前はやっぱり優しいんだな。」

魔王は俯いていた顔を上げると、勇者と同様に剣を構え直した。

「来るがよい勇者よ、その言葉に偽り無ければ、俺も全力で相手をしよう!」

そして、勇者と魔王は再び、

「ハァァァァァァァァァ!」

「ウォォォォォォォォォ!」

激突した。






「…………………」

「…………………ゴフッ!」

カランカラン、ドサッ

倒れ伏したのは、魔王だった。

勇者は剣を納めると、魔王に近づいていった。

「魔王、俺の、勝ちだ。」

「ゴホッ、そうだ、な、負けたよ、俺の、負けだ。」

勇者は悟っていた、もうすぐ魔王の命が尽きることを。

「魔王、言い残すことはあるか?」

「…………そうだなぁ、言い残すは、ない、が、最後に、あそこに座らせて、欲しい。」

魔王が指差した先には、玉座の間なのに玉座の代わりに置いてあるただのソファーだった。

「……………あれは?」

「ふふっ、不釣り合い、だろう?だがな、大切な、もの、なんだよ。」

勇者はそれ以上聞かずに魔王抱えて、ソファーに座らせた。

「………………さらばだ、魔王、次の人生は良きものになることを祈っている。」

「…………ふふ、やっぱり、お前は、優しい奴、だな。」

「…………………」

勇者は魔王に返事をせずに玉座の間を出ていった。

「……………さてと、そろそろ、俺の旅路も終わり、かな。」

魔王はそういいながら、アイテムボックスからペンダントを取り出した。

そこには婚約者とかつての魔王が笑顔を浮かべて写っていた。

「……アリア、俺は、間違えて、いたのかな?」

その問いに答えてくれる者はもういない。

「俺は、きっと、地獄に落ちるだろう。」

何千万もの人々を殺した魔王は天国に行くことはできないだろう。

「でも、きっと、罪を償って、君に、会いにいくよ、だから、待っててくれる、かい?」

視界がだんだんとぼやけて来た、昔一度だけ味わったのと同じ感覚だ、死期が近づいているのだろう。

(アリア、愛して、る。)

そうして、魔王は目を閉じた。

その時に、魔王の足元に魔法陣が浮かび上がった。

魔法陣が強く光り輝くとそこには、魔王の姿は無かった。







魔王はゆらりゆらりと揺れている感覚を感じていると突然意識がはっきりしだした。

そして、足元に感触を感じて目を開けるとそこには、二人の抱き合っている少女がいた。

二人の少女は薄汚れており、所々怪我をしていた。

魔王は二人のうちの片方を見ると驚きつぶやいた。

「あ、りあ?」と。






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