風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

文字の大きさ
上 下
176 / 178
混沌を極める2学期

七十三話

しおりを挟む
その光景を見て、先程まで顔を青くして泣いていた瀬戸田が堪らず声を上げた。
「葵くん!やめてっ!話をするだけって言ったじゃないか!これじゃあ約束と違う!」
「うるせぇよ。」
瀬戸田の意を決した抗議を、驚くほど低く冷めた声音で柏木が一掃する。
その余りの迫力に瀬戸田はビクッと体を震わせ、姫川も驚きで目を見開いた。
「史人。とぼけるなよ。お前だって本当はわかっていたはずだろう。俺と姫ちゃんが話し合いだけで終わる訳ないって。でもお前はこれ以上自分が傷つきたくなくて、知らないフリをしたんだ。自分にいいように解釈して。」
「ちっ、違う!僕は葵くんが話し合いをするだけだって言ったから先輩をここに呼んだんだ!」
「自分が犯られたくなかったからだろ?」
瀬戸田は必死に否定するが、容赦ない柏木の言葉にまた涙が溢れ出す。
「僕は・・・僕は・・・うぅ」
柏木にそう言われると、話し合いだけで終わるはずがないと自分でも頭の片隅でわかっていたような気になってきた。そうでなければわざわざ姫川が怪我をしている時を狙って呼び出したりしないはずだと。
でもあの時の柏木の雰囲気や自分に対して放った言葉が恐ろしすぎて、これ以上酷い目に遭いたくなくて、柏木の言葉を鵜呑みにするしかなかった。
あの時の思いを瀬戸田はそう結論づけた。
「結局史人は姫ちゃんを俺に売ったんだ。助けてもらった恩も忘れて自分可愛さに裏切った。お前もこっち側の人間。所詮俺たちの仲間なんだよ!」
「やめろっ!」
わざと瀬戸田を傷つけようとする柏木に姫川が口を挟むが、柏木は尚も止まらない。
「あの時だってそうだよ。史人が親衛隊に入ってすぐの頃、姫ちゃんが史人と話したいと校庭の裏庭で約束した日。お前は俺に言われるがまま、姫ちゃんとの約束を破った。あの後、姫ちゃんがどんな目に遭ったのか知ってるのか?」
そこまで言うと、柏木は姫川の耳元に口を寄せ、姫川にだけ聞こえる声で囁いた。
「好きでもない男とキスして、それを恭治に目撃されたから、せっかくの関係が壊れちゃったんだよね。」
「黙れ!」
カッと目を見開いて過剰に反応する姫川に満足したのか、柏木は口元に薄く笑みを浮かべると再び瀬戸田に向き合った。
「そうやって、何回も姫ちゃんを傷つけているくせに今更心配面してんじゃねぇよ。」
柏木の言葉の刃が瀬戸田の胸を抉る。はらはらと涙をこぼしながら、瀬戸田はショックで茫然自失となっていた。
「やめろ!元はと言えば全部お前が仕組んだ事だろ。それをさも瀬戸田が悪いかのように吹聴するな。瀬戸田も流も津田や戸田も、正木もお前が全員欺いたんだ!心からお前のことを思っている奴にどうやったらそんな酷い真似がっ!?ふぐっ!」
そう反論するのを遮って、柏木が手の平で姫川の口を覆った。
「姫ちゃんもうるさいよ。いかにも優等生で正義のヒーロー気取りの説教なんていらないんだよ。」
柏木は姫川のお腹に跨がり、口を強く押さえつける。
姫川は圭介に殴られた腹が痛むのに加え、くちも塞がれ息苦しさを感じた。
苦しそうに眉根を寄せる姫川を柏木が見下ろす。ボサボサのカツラに瓶底眼鏡という滑稽な格好なのに、その表情は底が知れず、不気味な雰囲気を纏っていた。
そんな柏木から姫川が目を離せずにいると、口元がわずかに歪んだ。
「姫ちゃんはさぁ、史人の心配をするより自分の心配をした方がいいよ。これから自分が何をされるのかちゃんと理解できてるのかな?」
柏木の言葉に言いしれぬ恐怖を感じて、姫川は無意識にゴクっと唾を飲み込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神様ぁ(泣)こんなんやだよ

ヨモギ丸
BL
突然、上から瓦礫が倒れ込んだ。雪羽は友達が自分の名前を呼ぶ声を最期に真っ白な空間へ飛ばされた。 『やぁ。殺してしまってごめんね。僕はアダム、突然だけど......エバの子孫を助けて』 「??あっ!獣人の世界ですか?!」 『あぁ。何でも願いを叶えてあげるよ』 「じゃ!可愛い猫耳」 『うん、それじゃぁ神の御加護があらんことを』 白い光に包まれ雪羽はあるあるの森ではなく滝の中に落とされた 「さ、、((クシュ))っむい」 『誰だ』 俺はふと思った。え、ほもほもワールド系なのか? ん?エバ(イブ)って女じゃねーの? その場で自分の体をよーく見ると猫耳と尻尾 え?ん?ぴ、ピエん? 修正 (2020/08/20)11ページ(ミス) 、17ページ(方弁)

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

ある意味王道ですが何か?

ひまり
BL
どこかにある王道学園にやってきたこれまた王道的な転校生に気に入られてしまった、庶民クラスの少年。 さまざまな敵意を向けられるのだが、彼は動じなかった。 だって庶民は逞しいので。

残業リーマンの異世界休暇

はちのす
BL
【完結】 残業疲れが祟り、不慮の事故(ドジともいう)に遭ってしまった幸薄主人公。 彼の細やかな願いが叶い、15歳まで若返り異世界トリップ?! そこは誰もが一度は憧れる魔法の世界。 しかし主人公は魔力0、魔法にも掛からない体質だった。 ◯普通の人間の主人公(鈍感)が、魔法学校で奇人変人個性強めな登場人物を無自覚にたらしこみます。 【attention】 ・Tueee系ではないです ・主人公総攻め(?) ・勘違い要素多分にあり ・R15保険で入れてます。ただ動物をモフッてるだけです。 ★初投稿作品

天使様はいつも不機嫌です

白鳩 唯斗
BL
 兎に角口が悪い主人公。

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

お迎えから世界は変わった

不知火
BL
「お迎えに上がりました」 その一言から180度変わった僕の世界。 こんなに幸せでいいのだろうか ※誤字脱字等あると思いますがその時は指摘をお願い致します🙇‍♂️ タグでこれぴったりだよ!ってのがあったら教えて頂きたいです!

処理中です...