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混沌を極める2学期
五十六話
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姫川が倉庫に向かって走り出す30分と少し前、瀬戸田は立野と寮と学園を結ぶ人気のない道を2人で歩いていた。
道の左側には植木や茂みがあり、所々に街灯や古ぼけたベンチが置かれていた。
少し前まで柏木の親衛隊のメンバーと店を回っていたのだが、どういう訳か立野に誘われて瀬戸田はこの場所まで来ていた。
「立野くん。どうしてこんなところに来たの?ここ、特にお店とかもないし・・・。」
若干の不安を覚えつつ、瀬戸田がそう口にすれば立野は困ったように笑いながら、
「いや、実は少し人酔いをしてしまってね。あまりにもたくさんの人でごった返していたから、静かな場所で休憩したくて・・・ごめんね。俺の勝手に付き合わせてしまって。」
と言った。その言葉に先程まで不安を抱えていた瀬戸田が安心したように、
「なるほどね。実は僕も少し人が多くて疲れてきてたんだ。立野くんに誘ってもらってよかったよ。」と言ってニコッと笑った。
立野は瀬戸田に笑顔を返すと、
「どう?親衛隊の活動にもだいぶ慣れたかな?」
と唐突に聞いた。
「うん。おかげさまで。まだ正式な親衛隊ではないけど、葵くんのために何かできると思うと、とてもやりがいがあるよ。僕を仲間に誘ってくれて、副隊長にまでしてくれるなんて。葵くんや立野くんには感謝してもしきれないくらいだよ。」
「はははっ、その言葉を聞いて安心したよ。史人にそう言ってもらえると俺も嬉しいよ。君には俺もすごく期待をしているんだ。」
立野の笑顔を受けて、瀬戸田が恥ずかしそうに顔を逸らした。
「うん・・・ありがとう。」
その姿を見て立野が口の端を歪めて笑う。
「本当に期待しているよ。」
含み笑いと共にそう呟いた立野の言葉は瀬戸田には届いていなかった。
その後、他愛のない会話を続けていると、ふと立野が足を止めた。
「どうしたの?」
突然動かなくなった立野に瀬戸田がそう声を掛けると
「しっ!」
と口元に人差し指を置く。そして瀬戸田を引っ張って近くの茂みに隠れた。
立野の急な行動に只々戸惑う瀬戸田の耳元に囁くような声が聞こえてきた。
「ねぇ、見て。あの3人・・・少しおかしくないかな。」
立野の近さにドキドキしながら言われた通り視線を上げると、先程2人がいた場所よりかなり離れた所から歩いてくる3人の男の姿が見えた。
柄が悪そうな男達がこんな人気のないところを歩いていることに瀬戸田は確かに違和感を感じたが、それ以外の判断はできそうになかった。
困ったように立野と男達を交互に見る瀬戸田だったが、立野に言われた言葉の意味を深く追求する勇気が持てず思わず同調する。
「確かに少し怖そうな雰囲気の男達だし、どうしてこんなところにいるんだろうね。」
瀬戸田の同意に満足そうな立野は
「やっぱり史人くんもそう思うよね!よかった、俺と同じ考えで。」
と嬉しそうにしている。
その反応を見て瀬戸田は心の内でホッとした。
こうして2人で行動することもあるが瀬戸田はいまいちこの立野という男が何を考えているのか分からなかった。
直情型の柏木とは違いいつも冷静で時に怖い表情を見せる立野に瀬戸田は気を遣わずにはいられなかった。
「俺はこれからあの男達の事を生徒会の人たちに報告してくるよ。史人には悪いけどあの男達が逃げないように少しここで見張っていてくれないかな?」
少し考え込んでいた瀬戸田が意識を浮上させると、立野がそんな提案を口にしていた。
「うん・・・でも・・・」
思わず頷いた後、不安になり訂正しようとしたが、
「本当⁉︎ありがとう。なるべく早く帰ってくるから、じゃあ少しだけお願いね。」
と言ってさっさと本部の方へ行ってしまった。
「立野くん!待って!」
1人にされるのが不安で思わず大きな声でそう言ったが、立野がもう一度振り返ることはなかった。
道の左側には植木や茂みがあり、所々に街灯や古ぼけたベンチが置かれていた。
少し前まで柏木の親衛隊のメンバーと店を回っていたのだが、どういう訳か立野に誘われて瀬戸田はこの場所まで来ていた。
「立野くん。どうしてこんなところに来たの?ここ、特にお店とかもないし・・・。」
若干の不安を覚えつつ、瀬戸田がそう口にすれば立野は困ったように笑いながら、
「いや、実は少し人酔いをしてしまってね。あまりにもたくさんの人でごった返していたから、静かな場所で休憩したくて・・・ごめんね。俺の勝手に付き合わせてしまって。」
と言った。その言葉に先程まで不安を抱えていた瀬戸田が安心したように、
「なるほどね。実は僕も少し人が多くて疲れてきてたんだ。立野くんに誘ってもらってよかったよ。」と言ってニコッと笑った。
立野は瀬戸田に笑顔を返すと、
「どう?親衛隊の活動にもだいぶ慣れたかな?」
と唐突に聞いた。
「うん。おかげさまで。まだ正式な親衛隊ではないけど、葵くんのために何かできると思うと、とてもやりがいがあるよ。僕を仲間に誘ってくれて、副隊長にまでしてくれるなんて。葵くんや立野くんには感謝してもしきれないくらいだよ。」
「はははっ、その言葉を聞いて安心したよ。史人にそう言ってもらえると俺も嬉しいよ。君には俺もすごく期待をしているんだ。」
立野の笑顔を受けて、瀬戸田が恥ずかしそうに顔を逸らした。
「うん・・・ありがとう。」
その姿を見て立野が口の端を歪めて笑う。
「本当に期待しているよ。」
含み笑いと共にそう呟いた立野の言葉は瀬戸田には届いていなかった。
その後、他愛のない会話を続けていると、ふと立野が足を止めた。
「どうしたの?」
突然動かなくなった立野に瀬戸田がそう声を掛けると
「しっ!」
と口元に人差し指を置く。そして瀬戸田を引っ張って近くの茂みに隠れた。
立野の急な行動に只々戸惑う瀬戸田の耳元に囁くような声が聞こえてきた。
「ねぇ、見て。あの3人・・・少しおかしくないかな。」
立野の近さにドキドキしながら言われた通り視線を上げると、先程2人がいた場所よりかなり離れた所から歩いてくる3人の男の姿が見えた。
柄が悪そうな男達がこんな人気のないところを歩いていることに瀬戸田は確かに違和感を感じたが、それ以外の判断はできそうになかった。
困ったように立野と男達を交互に見る瀬戸田だったが、立野に言われた言葉の意味を深く追求する勇気が持てず思わず同調する。
「確かに少し怖そうな雰囲気の男達だし、どうしてこんなところにいるんだろうね。」
瀬戸田の同意に満足そうな立野は
「やっぱり史人くんもそう思うよね!よかった、俺と同じ考えで。」
と嬉しそうにしている。
その反応を見て瀬戸田は心の内でホッとした。
こうして2人で行動することもあるが瀬戸田はいまいちこの立野という男が何を考えているのか分からなかった。
直情型の柏木とは違いいつも冷静で時に怖い表情を見せる立野に瀬戸田は気を遣わずにはいられなかった。
「俺はこれからあの男達の事を生徒会の人たちに報告してくるよ。史人には悪いけどあの男達が逃げないように少しここで見張っていてくれないかな?」
少し考え込んでいた瀬戸田が意識を浮上させると、立野がそんな提案を口にしていた。
「うん・・・でも・・・」
思わず頷いた後、不安になり訂正しようとしたが、
「本当⁉︎ありがとう。なるべく早く帰ってくるから、じゃあ少しだけお願いね。」
と言ってさっさと本部の方へ行ってしまった。
「立野くん!待って!」
1人にされるのが不安で思わず大きな声でそう言ったが、立野がもう一度振り返ることはなかった。
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