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混沌を極める2学期
四十二話
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「親衛隊設立の件はその後どうなっていますか?」
数日後、文化祭の準備で慌ただしくしている姫川と牧瀬に立野がそう話しかけてきた。
文化祭の日が近づき、各会場が形になってきたここ数日は風紀委員も少人数に分かれて各催し会場の準備や設置、設営を手伝っていた。
生徒会が予算や当日の段取りで忙しい分、風紀は各催し場を回り会場作りを手伝ったり、危険な箇所がないか随時点検を行なっていた。この日、姫川は牧瀬とバディを組み振り分けられた会場を手伝っていたところで立野に声をかけられたのだ。
そもそも親衛隊の設立に同意していない姫川は立野の言葉に冷たい声で返した。
「俺は柏木を信用していない。だからそんなに簡単に親衛隊の設立の許可を出すつもりはない。あいつが何を考えているのかわからないがそう伝えろ。」
「そんな厳しいことを言わないでください。柏木はお節介で、子供っぽいところもありますが色々な人から慕われている魅力的な人ですよ。」
姫川の厳しい口調をものともせず立野は白々しいセリフを吐く。
姫川はそんな立野に馬鹿らしいと鼻で笑って見せ、また口を開いた。
「表向きはそうだろうな。でもあいつの本当の顔をお前も知ってるんじゃないのか?」
「さぁ、何を仰りたいのか俺にはさっぱりわかりませんね。」
わざと困った顔をし、しかし口元は微かに笑みを浮かべるその顔に、立野も柏木の仲間であることを姫川は確信する。
「はぁ、困りましたね。正木先輩は柏木の親衛隊発足に賛成なのに。」
正木が迷わず柏木の親衛隊発足に賛成したことに姫川の胸がチクリと痛んだ。
「最近では柏木も人気が出てきて、近くにいる俺たちを妬む輩も出てきてるんですよ。このまま先輩がOKを出してくれないと俺ら親衛隊のメンバーに危害を加えようとする奴らが出てくるかもしれませんよ。そうしたら姫川先輩には責任が取れるんですか?どうしても許可してくださらないなら、正木先輩に説得をお願いすることもできるんですよ?」
安に脅しとも取れるその言葉に姫川が苦々しげな顔を向ける。
「お前、俺を脅しているのか?」
2人の剣呑な雰囲気に先程から隣にいる牧瀬が視線を忙しなく動かしながらオロオロしていた。
しかし、何を考えているのかわからない顔で姫川を見つめていた立野が突然ニコッと笑顔を作る。
「まさか!俺が先輩を脅すなんてそんな真似する訳ないじゃないですか!只僕は、親衛隊のメンバーや柏木のことが心配なだけですよ。」
「・・・。」
立野のその言葉を全く信用できない姫川は厳しい形相で立野を睨み続けた。
すると諦めたように立野がため息を漏らした。そして、
「はぁぁ、まあ何か間違いが起こってしまう前によく考えてみてくださいよ。」
と小さくこぼして去っていった。
柏木の親衛隊設立なんて冗談じゃないと姫川は思う。しかし、姫川の考えとは裏腹に正木があっさりと了承したことにショックを覚えずにはいられなかった。
どこまでいっても柏木を信用し、心配する正木に言葉では言い表せないほどの苦しさを感じた。
そんな感情が顔に出てしまっていたのか、横にいた牧瀬が心配そうに姫川を覗き込んだ。
「姫川くん大丈夫?」
声をかけられて初めて姫川はハッと我に返った。そして
「あぁ、大丈夫だ。」
と慌てて返し、すぐに作業に戻った。そんな姫川の言葉を到底信用できない牧瀬はいつまでも心配そうに姫川を見ていた。
「ちっ!」
牧瀬の気遣った視線を感じながら姫川は自分に舌打ちをする。
正木を好きだと自覚してから急激に心が蝕まれている気がしてならなかった。
自分から離れると決めておいて、柏木の事を優先させる正木には一丁前に腹を立てている自分の今まで知らなかった醜い心に、コントロールできない感情に、姫川は奥歯をギリっと噛み締めるのだった。
数日後、文化祭の準備で慌ただしくしている姫川と牧瀬に立野がそう話しかけてきた。
文化祭の日が近づき、各会場が形になってきたここ数日は風紀委員も少人数に分かれて各催し会場の準備や設置、設営を手伝っていた。
生徒会が予算や当日の段取りで忙しい分、風紀は各催し場を回り会場作りを手伝ったり、危険な箇所がないか随時点検を行なっていた。この日、姫川は牧瀬とバディを組み振り分けられた会場を手伝っていたところで立野に声をかけられたのだ。
そもそも親衛隊の設立に同意していない姫川は立野の言葉に冷たい声で返した。
「俺は柏木を信用していない。だからそんなに簡単に親衛隊の設立の許可を出すつもりはない。あいつが何を考えているのかわからないがそう伝えろ。」
「そんな厳しいことを言わないでください。柏木はお節介で、子供っぽいところもありますが色々な人から慕われている魅力的な人ですよ。」
姫川の厳しい口調をものともせず立野は白々しいセリフを吐く。
姫川はそんな立野に馬鹿らしいと鼻で笑って見せ、また口を開いた。
「表向きはそうだろうな。でもあいつの本当の顔をお前も知ってるんじゃないのか?」
「さぁ、何を仰りたいのか俺にはさっぱりわかりませんね。」
わざと困った顔をし、しかし口元は微かに笑みを浮かべるその顔に、立野も柏木の仲間であることを姫川は確信する。
「はぁ、困りましたね。正木先輩は柏木の親衛隊発足に賛成なのに。」
正木が迷わず柏木の親衛隊発足に賛成したことに姫川の胸がチクリと痛んだ。
「最近では柏木も人気が出てきて、近くにいる俺たちを妬む輩も出てきてるんですよ。このまま先輩がOKを出してくれないと俺ら親衛隊のメンバーに危害を加えようとする奴らが出てくるかもしれませんよ。そうしたら姫川先輩には責任が取れるんですか?どうしても許可してくださらないなら、正木先輩に説得をお願いすることもできるんですよ?」
安に脅しとも取れるその言葉に姫川が苦々しげな顔を向ける。
「お前、俺を脅しているのか?」
2人の剣呑な雰囲気に先程から隣にいる牧瀬が視線を忙しなく動かしながらオロオロしていた。
しかし、何を考えているのかわからない顔で姫川を見つめていた立野が突然ニコッと笑顔を作る。
「まさか!俺が先輩を脅すなんてそんな真似する訳ないじゃないですか!只僕は、親衛隊のメンバーや柏木のことが心配なだけですよ。」
「・・・。」
立野のその言葉を全く信用できない姫川は厳しい形相で立野を睨み続けた。
すると諦めたように立野がため息を漏らした。そして、
「はぁぁ、まあ何か間違いが起こってしまう前によく考えてみてくださいよ。」
と小さくこぼして去っていった。
柏木の親衛隊設立なんて冗談じゃないと姫川は思う。しかし、姫川の考えとは裏腹に正木があっさりと了承したことにショックを覚えずにはいられなかった。
どこまでいっても柏木を信用し、心配する正木に言葉では言い表せないほどの苦しさを感じた。
そんな感情が顔に出てしまっていたのか、横にいた牧瀬が心配そうに姫川を覗き込んだ。
「姫川くん大丈夫?」
声をかけられて初めて姫川はハッと我に返った。そして
「あぁ、大丈夫だ。」
と慌てて返し、すぐに作業に戻った。そんな姫川の言葉を到底信用できない牧瀬はいつまでも心配そうに姫川を見ていた。
「ちっ!」
牧瀬の気遣った視線を感じながら姫川は自分に舌打ちをする。
正木を好きだと自覚してから急激に心が蝕まれている気がしてならなかった。
自分から離れると決めておいて、柏木の事を優先させる正木には一丁前に腹を立てている自分の今まで知らなかった醜い心に、コントロールできない感情に、姫川は奥歯をギリっと噛み締めるのだった。
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