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混沌を極める2学期
三十九話
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伊東とは直ぐに連絡がとれ、それから数日としないうちに会うことが決まった。
誰にも話を聞かれたくなかった姫川が会う場所をどうしようかと悩んでいると、伊東は寮の自室を提案した。正木以外の部屋に入った事のなかった姫川は一瞬躊躇ったが、そこなら話を聞かれる心配もないと最終的には了承した。
約束の時間、自室から然程離れていない伊東の部屋のドアを控えめにノックした。
すると数秒もかからぬうちにドアが開き、伊東が顔を出した。その顔つきはどこか嬉しそうに見え、姫川はどういう態度をとっていいか途端に分からなくなってしまった。
「どうぞ、入って入って。」
そう言って姫川を招き入れる伊東に
「すまないな。こんなに忙しい時期に無理を言って。」
と当たり障りのない事を言って部屋に足を踏み入れた。
伊東の部屋は正木や姫川のようなシンプルな部屋とは違い、綺麗にはしてあるものの年代物の洋風のポスターやブリキのおもちゃなどが飾ってあり、レトロな雰囲気だった。中でも棚の上にあるレコードプレーヤーがその雰囲気を一層際立たせていた。
「俺の部屋とは随分違っておしゃれな部屋だな。レコード好きなのか?」
率直な意見を姫川が言うと、伊東が照れたように頭を掻いた。
「うん。店に行ってね、掘り出し物とかを見つけるのが好きなんだ。この学校って特殊でストレスも凄く溜まるじゃん。だから自分が休む部屋くらいは好きな物に囲まれていたいんだ。」
いつも何処か飄々としている伊東がそんな事を思っていた事に姫川は驚いた。
「それより、姫川が俺に話があるって言うから驚いたよ。この前話しかけた時は、俺に相談なんかしてくれなさそうな雰囲気だったから密かに落ち込んでたんだよね。」
姫川は伊東の言葉を聞いて、何故自分を出迎えた時嬉しそうにしていたのかが分かった。
「で、何?柏木の裏の顔を正木に伝えるの?だったら全力で協力するよ。」
自分が巻き込まれる危険もあるのに、純粋にこう言ってくれる伊東に嬉しさを感じつつも姫川は首を横に振った。
「俺と正木の事はもういいんだ。」
姫川がそう口にした途端に伊東の顔から笑顔が消えた。
「正木との事はいいってどう言う事?」
「俺があいつの信頼を裏切ったんだ。」
そう俯いて言う姫川は気を抜けば歪みそうになる顔を必死に隠した。伊東は信じられないとでも言うように口を開いた。
「嘘だよ。姫川が正木を裏切るなんてある訳ないだろ!誤解してるんだろ?正木が勘違いでーっ」
「たとえ正木の誤解だとしても、そのことであいつを傷つけたことに変わりはないし、これ以上俺に関わって危険なことに巻き込みたくないんだ。」
「危険なことって何?姫川は何に巻き込まれているの?」
畳み掛けるように聞く伊東に、姫川は困ったような笑顔を浮かべて答えた。これ以上言うつもりはないと安に言われている気がして伊東は唇を噛み締めた。姫川が自分に相談してくれるかもしれないと浮かれていたさっきまでの自分が伊東には酷く滑稽に見えた。
誰にも話を聞かれたくなかった姫川が会う場所をどうしようかと悩んでいると、伊東は寮の自室を提案した。正木以外の部屋に入った事のなかった姫川は一瞬躊躇ったが、そこなら話を聞かれる心配もないと最終的には了承した。
約束の時間、自室から然程離れていない伊東の部屋のドアを控えめにノックした。
すると数秒もかからぬうちにドアが開き、伊東が顔を出した。その顔つきはどこか嬉しそうに見え、姫川はどういう態度をとっていいか途端に分からなくなってしまった。
「どうぞ、入って入って。」
そう言って姫川を招き入れる伊東に
「すまないな。こんなに忙しい時期に無理を言って。」
と当たり障りのない事を言って部屋に足を踏み入れた。
伊東の部屋は正木や姫川のようなシンプルな部屋とは違い、綺麗にはしてあるものの年代物の洋風のポスターやブリキのおもちゃなどが飾ってあり、レトロな雰囲気だった。中でも棚の上にあるレコードプレーヤーがその雰囲気を一層際立たせていた。
「俺の部屋とは随分違っておしゃれな部屋だな。レコード好きなのか?」
率直な意見を姫川が言うと、伊東が照れたように頭を掻いた。
「うん。店に行ってね、掘り出し物とかを見つけるのが好きなんだ。この学校って特殊でストレスも凄く溜まるじゃん。だから自分が休む部屋くらいは好きな物に囲まれていたいんだ。」
いつも何処か飄々としている伊東がそんな事を思っていた事に姫川は驚いた。
「それより、姫川が俺に話があるって言うから驚いたよ。この前話しかけた時は、俺に相談なんかしてくれなさそうな雰囲気だったから密かに落ち込んでたんだよね。」
姫川は伊東の言葉を聞いて、何故自分を出迎えた時嬉しそうにしていたのかが分かった。
「で、何?柏木の裏の顔を正木に伝えるの?だったら全力で協力するよ。」
自分が巻き込まれる危険もあるのに、純粋にこう言ってくれる伊東に嬉しさを感じつつも姫川は首を横に振った。
「俺と正木の事はもういいんだ。」
姫川がそう口にした途端に伊東の顔から笑顔が消えた。
「正木との事はいいってどう言う事?」
「俺があいつの信頼を裏切ったんだ。」
そう俯いて言う姫川は気を抜けば歪みそうになる顔を必死に隠した。伊東は信じられないとでも言うように口を開いた。
「嘘だよ。姫川が正木を裏切るなんてある訳ないだろ!誤解してるんだろ?正木が勘違いでーっ」
「たとえ正木の誤解だとしても、そのことであいつを傷つけたことに変わりはないし、これ以上俺に関わって危険なことに巻き込みたくないんだ。」
「危険なことって何?姫川は何に巻き込まれているの?」
畳み掛けるように聞く伊東に、姫川は困ったような笑顔を浮かべて答えた。これ以上言うつもりはないと安に言われている気がして伊東は唇を噛み締めた。姫川が自分に相談してくれるかもしれないと浮かれていたさっきまでの自分が伊東には酷く滑稽に見えた。
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