風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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混沌を極める2学期

三十六話

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「どうして・・・。」
姫川は両目を手で覆うとそう言った。しかしその次の言葉を紡ぐことが出来ない。
「何でお前が傷ついた顔をするんだよ。何か理由があるなら、きちんと俺にも分かるように話してくれ。」
正木が静かにそう言った。その声は今までのように怒りに任せた声ではなく、姫川の態度を見て、幾分か動揺している様にも見えた。
「柏木が・・・」
姫川から思いもよらぬ人物の名が出たことに、正木は眉根を寄せた。しかし、敢えて口は挟まずその次の言葉を待つ。
「柏木が関係してるって言ったら正木は信じるか?」
それは姫川にしてはとても弱々しい声だった。
「柏木が?あいつが何に関係してるって言うだよ。」冗談だろ?とでも言うように姫川の言葉をあっさりと切り捨てると正木は続けた。
「あいつは思っている事がすぐ口に出るし、考えて行動するタイプじゃないからトラブルに巻き込まれる事はあるけど、自分から他人を傷つけたりする奴じゃないだろ?姫川はあいつが苦手だから何か勘違いしてるんじゃないのか?それか、あの山田とか言う男に変なことを吹き込まれたんだろ。」
山田との事を思い出したのか、正木がまたしても鋭い視線を姫川に向けた。そんな正木の言葉を聞いて姫川は全てを諦めたように溜息を漏らす。胸が締め付けられるように痛い。
分かっていた事だった。正木が柏木を大切な友達だと思っていることも知っていたし、だからこそ今までのことも相談できずにいた。それでも心のどこかで自分の事を正木が信じてくれるんじゃないかと願ってしまっていたのかもしれない。
しかし、姫川のそんな小さな希望すら今の正木の言葉に簡単に打ち砕かれた。
「退けろ・・・」
姫川は小さく呟いて、自分の上に跨っている正木の体を押し退けた。
「まだ話は終わってないだろ!」
正木が姫川を責めるように声を上げる。
「俺はこれ以上お前と話す事はない。」
突き放すような姫川の物言いに正木の目が鋭く光る。
「ふざけるなよ!お前俺の気持ち知ってんだろ!それなのに他の奴とあんな事しといて、話すことがないだと!」
「山田とは何もない。別に好きでもないし、仲がいいわけでもない。」
正木の怒りも何処か他人事のように今の姫川には感じられ、どこか投げやりに事実のみを淡々と告げる。
勿論これで正木が納得するなどとは姫川も考えていなかった。
「じゃあ、あのキスは何だよ?お前は何とも思ってない奴とあんな事をするのか!?」
案の定正木は畳み掛けるように強い口調で言葉を投げかけた。そんな事勿論ありえない。今までの事は確かに最初は嫌だったし恥ずかしかったが、正木だから受け入れる事が出来ていたのだ。でもそれを今の正木に伝えても信じてもらえるとは思えなかった。どうやっても信じてもらえないのなら、離れるしかない。そう決意して姫川は正木の顔を真正面から見据えた。
怒っていても尚、正木の顔は精悍でその瞳には姫川だけが映っていた。その瞳を見た事で一瞬苦しくなる胸を落ち着かせるように、姫川は一度目を瞑るとゆっくりと開け正木を見る。
そして
「そうだ。」
と短く返した。
姫川の返事が理解できなかった正木は呆然と姫川を見つめ返す。
「別に自分からああいうことをしたいとは思わないが、迫られれば流される。それはお前が1番知ってるんじゃないのか?」
正木は姫川にそう言われて、限界まで目を見開いた。今まで正木は自分の思うままに姫川に迫り、その都度姫川は拒否しながら少しずつ受け入れてくれた。
いや、受け入れてくれたと思っていた。
しかし、本当は姫川は俺のことを何とも思ってなかったのか?ただ流されていただけだったのか?
自分の恐ろしい考えに、そして目の前の冷たい顔の男に正木の心が激しく揺さぶられる。
「お前にとって俺は何とも思っていない人間の1人か?少なくとも友だちくらいにはなれていると思っていた・・・」
低く、苦しそうな声が正木の口から漏れる。その痛々しい声に姫川は唇を強く強く結んだ。少しでも口を開けると、正木に縋り付いてしまいそうだった。
「・・・」
「・・・」
互いに何も言葉を発することなく、重苦しいまでの静寂が正木の部屋を包んでいった。
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