風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

文字の大きさ
上 下
137 / 177
混沌を極める2学期

三十五話

しおりを挟む
姫川はあれから気持ちが落ち着くのを待って寮に戻った。自分で思っている以上に傷が深かったのか、いくらでも流れてくる涙を止めるのに時間がかかってしまった。久々に泣いて頭も体も重かった。しかし頭と目だけが冴え、今すぐベッドに飛び込んで寝てしまいたいのに、きっと眠ることもできないだろうと思ってしまう。
重たい足取りで寮の入り口を通り、自室を目指す。取り敢えず今は誰にも邪魔をされない場所で1人になりたかった。
しかし、そんな姫川の思いは簡単に打ち砕かれた。
姫川の自室の前に正木が立っていたのだ。
姫川は表情には出さないが内心物凄く動揺をしていた。あんな場面を見られただけでも最悪なのに、この状態で正木と顔を合わせて話すなど今の姫川には出来なかった。
恋愛経験の乏しい姫川は勿論こんな修羅場に遭遇した事はない。そんな姫川があの正木を相手に上手く誤解を解くなど到底無理な話だった。
本当は今すぐにでも逃げたいが、逃げ込む場所の前に正木が通せんぼをするような形で立っている。その表情は少し遠くから見ても分かるくらいに険しい。
どうしようか・・・
いつになく弱気になった姫川はこの状況をどうやって回避するかを只管考えていた。

その時、今まで正面を向いていた正木がパッと姫川の方を向いた。
「・・・。」
「・・・。」
暫しの間、2人は無言で見つめ合う。正木の強い視線に当てられて、姫川がスッと目線を外した。その途端、正木が物凄い形相で近づいて来たかと思うと、姫川の腕を掴み歩き始めた。
「ちょっと来い!」
正木の有無を言わさぬ強い口調に姫川が狼狽する。
「何っ?ちょっと離せ!」
姫川の思考は先程の出来事で完全に混乱しており、とてもまともな話が出来るとは思えなかった。
必死に足を踏ん張ってそこに留まろうとするが、正木もそれ以上の力で姫川を引っ張っていった。
姫川の部屋を通り過ぎ、正木の部屋の方まで連れて行かれる。
そして乱暴にドアを開けると、姫川をその中に突き飛ばした。
「っ!」
バランスを崩した姫川がそのまま床に転がる。そんな姫川の様子を正木が上から見下ろしていた。
「・・・。」
姫川を突き飛ばしたまま、なかなか言葉を発さない正木に得体の知れない恐ろしさを感じる。
正木はゆっくり姫川はに近づくと転がった体に覆い被さるように四つん這いになった。
「お前俺の気持ち知ってるよな?」
聞いた事もない低い声で正木がそう言った。その声を聞いただけで、姫川の心臓が一度ドクンと跳ねる。しかしその正木の暗い目からどうしても目を逸らすことが出来ない。
「俺の気持ちを知ってて、お前は他の男とああいうことをするのか?」
その目には侮蔑も含まれている気がして悔しさに唇を噛む。
「違う・・・。」
姫川が小さな声で辛うじてそれだけ言うと、
「何が違うんだよ!」
と大声で正木が吠えた。
「俺にはお前からあいつにキスしてるように見えたぞ。純粋ぶっているのは俺の前でだけか?本当はああやって色々な男を誑かしてるんだろ!」
正木も本当はそんな事が言いたいんじゃないのに、姫川を前にすると、自分の感情を抑えることが出来ず、只々、姫川を責めてしまう。そんな正木の言葉に姫川が傷ついた顔を見せた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

天使様はいつも不機嫌です

白鳩 唯斗
BL
 兎に角口が悪い主人公。

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

全寮制男子高校生活~生徒会長の恋~

雨雪
BL
行方不明になってた族の総長が王道学園に入学してみた、の生徒会長、紫賀 庵の話。 スピンオフのようなもの。 今のところR15。 *こちらも改稿しながら投稿していきます。

こんな異世界望んでません!

アオネコさん
BL
突然異世界に飛ばされてしまった高校生の黒石勇人(くろいしゆうと) ハーレムでキャッキャウフフを目指す勇人だったがこの世界はそんな世界では無かった…(ホラーではありません) 現在不定期更新になっています。(new) 主人公総受けです 色んな攻め要員います 人外いますし人の形してない攻め要員もいます 変態注意報が発令されてます BLですがファンタジー色強めです 女性は少ないですが出てくると思います 注)性描写などのある話には☆マークを付けます 無理矢理などの描写あり 男性の妊娠表現などあるかも グロ表記あり 奴隷表記あり 四肢切断表現あり 内容変更有り 作者は文才をどこかに置いてきてしまったのであしからず…現在捜索中です 誤字脱字など見かけましたら作者にお伝えくださいませ…お願いします 2023.色々修正中

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

処理中です...