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混沌を極める2学期
三十五話
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姫川はあれから気持ちが落ち着くのを待って寮に戻った。自分で思っている以上に傷が深かったのか、いくらでも流れてくる涙を止めるのに時間がかかってしまった。久々に泣いて頭も体も重かった。しかし頭と目だけが冴え、今すぐベッドに飛び込んで寝てしまいたいのに、きっと眠ることもできないだろうと思ってしまう。
重たい足取りで寮の入り口を通り、自室を目指す。取り敢えず今は誰にも邪魔をされない場所で1人になりたかった。
しかし、そんな姫川の思いは簡単に打ち砕かれた。
姫川の自室の前に正木が立っていたのだ。
姫川は表情には出さないが内心物凄く動揺をしていた。あんな場面を見られただけでも最悪なのに、この状態で正木と顔を合わせて話すなど今の姫川には出来なかった。
恋愛経験の乏しい姫川は勿論こんな修羅場に遭遇した事はない。そんな姫川があの正木を相手に上手く誤解を解くなど到底無理な話だった。
本当は今すぐにでも逃げたいが、逃げ込む場所の前に正木が通せんぼをするような形で立っている。その表情は少し遠くから見ても分かるくらいに険しい。
どうしようか・・・
いつになく弱気になった姫川はこの状況をどうやって回避するかを只管考えていた。
その時、今まで正面を向いていた正木がパッと姫川の方を向いた。
「・・・。」
「・・・。」
暫しの間、2人は無言で見つめ合う。正木の強い視線に当てられて、姫川がスッと目線を外した。その途端、正木が物凄い形相で近づいて来たかと思うと、姫川の腕を掴み歩き始めた。
「ちょっと来い!」
正木の有無を言わさぬ強い口調に姫川が狼狽する。
「何っ?ちょっと離せ!」
姫川の思考は先程の出来事で完全に混乱しており、とてもまともな話が出来るとは思えなかった。
必死に足を踏ん張ってそこに留まろうとするが、正木もそれ以上の力で姫川を引っ張っていった。
姫川の部屋を通り過ぎ、正木の部屋の方まで連れて行かれる。
そして乱暴にドアを開けると、姫川をその中に突き飛ばした。
「っ!」
バランスを崩した姫川がそのまま床に転がる。そんな姫川の様子を正木が上から見下ろしていた。
「・・・。」
姫川を突き飛ばしたまま、なかなか言葉を発さない正木に得体の知れない恐ろしさを感じる。
正木はゆっくり姫川はに近づくと転がった体に覆い被さるように四つん這いになった。
「お前俺の気持ち知ってるよな?」
聞いた事もない低い声で正木がそう言った。その声を聞いただけで、姫川の心臓が一度ドクンと跳ねる。しかしその正木の暗い目からどうしても目を逸らすことが出来ない。
「俺の気持ちを知ってて、お前は他の男とああいうことをするのか?」
その目には侮蔑も含まれている気がして悔しさに唇を噛む。
「違う・・・。」
姫川が小さな声で辛うじてそれだけ言うと、
「何が違うんだよ!」
と大声で正木が吠えた。
「俺にはお前からあいつにキスしてるように見えたぞ。純粋ぶっているのは俺の前でだけか?本当はああやって色々な男を誑かしてるんだろ!」
正木も本当はそんな事が言いたいんじゃないのに、姫川を前にすると、自分の感情を抑えることが出来ず、只々、姫川を責めてしまう。そんな正木の言葉に姫川が傷ついた顔を見せた。
重たい足取りで寮の入り口を通り、自室を目指す。取り敢えず今は誰にも邪魔をされない場所で1人になりたかった。
しかし、そんな姫川の思いは簡単に打ち砕かれた。
姫川の自室の前に正木が立っていたのだ。
姫川は表情には出さないが内心物凄く動揺をしていた。あんな場面を見られただけでも最悪なのに、この状態で正木と顔を合わせて話すなど今の姫川には出来なかった。
恋愛経験の乏しい姫川は勿論こんな修羅場に遭遇した事はない。そんな姫川があの正木を相手に上手く誤解を解くなど到底無理な話だった。
本当は今すぐにでも逃げたいが、逃げ込む場所の前に正木が通せんぼをするような形で立っている。その表情は少し遠くから見ても分かるくらいに険しい。
どうしようか・・・
いつになく弱気になった姫川はこの状況をどうやって回避するかを只管考えていた。
その時、今まで正面を向いていた正木がパッと姫川の方を向いた。
「・・・。」
「・・・。」
暫しの間、2人は無言で見つめ合う。正木の強い視線に当てられて、姫川がスッと目線を外した。その途端、正木が物凄い形相で近づいて来たかと思うと、姫川の腕を掴み歩き始めた。
「ちょっと来い!」
正木の有無を言わさぬ強い口調に姫川が狼狽する。
「何っ?ちょっと離せ!」
姫川の思考は先程の出来事で完全に混乱しており、とてもまともな話が出来るとは思えなかった。
必死に足を踏ん張ってそこに留まろうとするが、正木もそれ以上の力で姫川を引っ張っていった。
姫川の部屋を通り過ぎ、正木の部屋の方まで連れて行かれる。
そして乱暴にドアを開けると、姫川をその中に突き飛ばした。
「っ!」
バランスを崩した姫川がそのまま床に転がる。そんな姫川の様子を正木が上から見下ろしていた。
「・・・。」
姫川を突き飛ばしたまま、なかなか言葉を発さない正木に得体の知れない恐ろしさを感じる。
正木はゆっくり姫川はに近づくと転がった体に覆い被さるように四つん這いになった。
「お前俺の気持ち知ってるよな?」
聞いた事もない低い声で正木がそう言った。その声を聞いただけで、姫川の心臓が一度ドクンと跳ねる。しかしその正木の暗い目からどうしても目を逸らすことが出来ない。
「俺の気持ちを知ってて、お前は他の男とああいうことをするのか?」
その目には侮蔑も含まれている気がして悔しさに唇を噛む。
「違う・・・。」
姫川が小さな声で辛うじてそれだけ言うと、
「何が違うんだよ!」
と大声で正木が吠えた。
「俺にはお前からあいつにキスしてるように見えたぞ。純粋ぶっているのは俺の前でだけか?本当はああやって色々な男を誑かしてるんだろ!」
正木も本当はそんな事が言いたいんじゃないのに、姫川を前にすると、自分の感情を抑えることが出来ず、只々、姫川を責めてしまう。そんな正木の言葉に姫川が傷ついた顔を見せた。
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