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混沌を極める2学期
二十二話
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なんで?どうして?葵くんには僕から伝えるって言ったのに?
柏木の冷たい視線を受けパニックになった瀬戸田の頭はそんな考えがぐるぐると回っていた。
「姫ちゃんから言われたんだ。お前の所為で瀬戸田が酷い目に遭ってるって。同室なのにそんなことも知らないのかって。すごい勢いで罵倒されて・・・それを聞いて直ぐにでも史人を助けてやりたかったけど、史人は俺に何も言ってくれないし。頑張って普通に接してたけど、史人は俺の事信用してないんだと思うと凄く辛かった。」
ギュッと拳を握りしめる柏木を只々瀬戸田が呆然と見つめる。
まさか姫川が自分の意見を無視して柏木にこの事を伝えているなんて瀬戸田は夢にも思っていなかった。
「史人は知らないかもしれないけど、俺って姫ちゃんに嫌われてるんだ。俺は仲良くしたかっただけなのに、姫ちゃんはいつでも俺を否定する。史人の前では姫ちゃんは優しいかもしれないけど、俺にはそうじゃないから。だからできれば姫ちゃんに相談する前に俺に話して欲しかった。」
苦しそうに眉根を寄せる柏木に瀬戸田はどうしていいか分からなくなった。そしていつだったか、姫川が瀬戸田の事を苦手だと言っていたのを思い出した。
瀬戸田は姫川に対して沸々と怒りが湧いてくるのが分かった。
いくら先輩が葵くんの事を嫌いだとしても、僕が真剣に悩んで、耐えてきたこの行為を勝手に葵くんに話してしまうなんて。しかも葵くんを責めるのに利用しようだなんて・・・
姫川のあの優しい顔が途端に瀬戸田には嘘くさく感じられた。それくらい瀬戸田にとって柏木は大切な存在だった。
「葵くん・・・ごめんなさい。僕、そんなつもりじゃ・・・僕の痣に気づいた先輩が色々調べてたみたいで声をかけて来たんだ。あの・・・信じてもらえないかもしれないけど僕から先輩に相談したわけじゃー」
必死に謝ろうとする瀬戸田を遮って、柏木は瀬戸田の肩に優しく手を置いた。
「いや、いいんだよ。辛かったのは史人の方だろ?本当は勇気を振り絞ってこうやって伝えてくれただけでも嬉しいんだ。ごめんね。史人を混乱させるような事を言って。でも、俺姫ちゃんのやり方はやっぱり許せないよ。傷ついてる史人を利用して俺を追い詰める材料にするなんて。」
柏木の言葉を聞いて、瀬戸田は奥歯を噛み締めた。そして少しでも姫川を信頼してしまった自分を恥じた。
やっぱり1、2回話しただけの僕に親身になってくれるなんて可笑しいと思ったんだ。
段々と瀬戸田の心を黒い闇が覆い尽くしていく。
「大丈夫だよ!」
その時、柏木の声が一際大きく瀬戸田の耳に響いた。
ハッとして瀬戸田が柏木に目を向けると、真剣な眼差しとぶつかった。
「俺が史人を守るから。今度こそ史人に辛い思いなんてさせないから。」
瀬戸田の不安と怒りで押しつぶされそうだった心がフッと軽くなるのを感じた。
姫川に利用されたショックや、柏木に嫌われなかった安堵や色々な感情が混ざって、瀬戸田は堪らず涙を流す。
「うぅっ・・・葵くんありがとう・・・」
柏木は瀬戸田の背中を撫でながら優しい声音で話しかけた。
「俺に打ち明けるのにも凄く勇気がいって今日は疲れただろう。何か食べ物でも買ってくるから、史人はゆっくりしとくといいよ。」
その言葉に瀬戸田は柔らかく微笑んだ。
柏木は自室を後にすると、晩御飯を買うためスーパーに向かっていた。
瀬戸田が自分に暴力を受けていることを打ち明けた時にはビックリした柏木だったが逆にそれを上手く利用できたことに密かにほくそ笑む。
姫川が佐々木を使って瀬戸田の事を調べさせているのは、立木からの情報で柏木も知っていた。
しかし、意外にも早く姫川が瀬戸田と接触しており、こんなに早く瀬戸田が苛めの事を自分に打ち明けてくるとは考えていなかった。
その為口先だけの薄っぺらい嘘になってしまったが、意外にも瀬戸田はそれを信じ込んでいた。最後の方は姫川に対する苛立ちを隠そうともしなかった。そんな瀬戸田の様子が柏木には面白くて堪らなかった。
「あいつ、誰が痛めつけるよう仕向けたのか全く分かってないんだから、本当にバカだよねぇ。」
鼻歌でも歌うような調子でそう呟きながら、軽い足取りで柏木は外の闇へと消えていった。
少しずつ姫川を取り巻く環境が柏木の手によって不穏な闇に覆われていく。
そんな、闇に取り込まれようとしていることにこの時の姫川はまだ気づいていなかった。
柏木の冷たい視線を受けパニックになった瀬戸田の頭はそんな考えがぐるぐると回っていた。
「姫ちゃんから言われたんだ。お前の所為で瀬戸田が酷い目に遭ってるって。同室なのにそんなことも知らないのかって。すごい勢いで罵倒されて・・・それを聞いて直ぐにでも史人を助けてやりたかったけど、史人は俺に何も言ってくれないし。頑張って普通に接してたけど、史人は俺の事信用してないんだと思うと凄く辛かった。」
ギュッと拳を握りしめる柏木を只々瀬戸田が呆然と見つめる。
まさか姫川が自分の意見を無視して柏木にこの事を伝えているなんて瀬戸田は夢にも思っていなかった。
「史人は知らないかもしれないけど、俺って姫ちゃんに嫌われてるんだ。俺は仲良くしたかっただけなのに、姫ちゃんはいつでも俺を否定する。史人の前では姫ちゃんは優しいかもしれないけど、俺にはそうじゃないから。だからできれば姫ちゃんに相談する前に俺に話して欲しかった。」
苦しそうに眉根を寄せる柏木に瀬戸田はどうしていいか分からなくなった。そしていつだったか、姫川が瀬戸田の事を苦手だと言っていたのを思い出した。
瀬戸田は姫川に対して沸々と怒りが湧いてくるのが分かった。
いくら先輩が葵くんの事を嫌いだとしても、僕が真剣に悩んで、耐えてきたこの行為を勝手に葵くんに話してしまうなんて。しかも葵くんを責めるのに利用しようだなんて・・・
姫川のあの優しい顔が途端に瀬戸田には嘘くさく感じられた。それくらい瀬戸田にとって柏木は大切な存在だった。
「葵くん・・・ごめんなさい。僕、そんなつもりじゃ・・・僕の痣に気づいた先輩が色々調べてたみたいで声をかけて来たんだ。あの・・・信じてもらえないかもしれないけど僕から先輩に相談したわけじゃー」
必死に謝ろうとする瀬戸田を遮って、柏木は瀬戸田の肩に優しく手を置いた。
「いや、いいんだよ。辛かったのは史人の方だろ?本当は勇気を振り絞ってこうやって伝えてくれただけでも嬉しいんだ。ごめんね。史人を混乱させるような事を言って。でも、俺姫ちゃんのやり方はやっぱり許せないよ。傷ついてる史人を利用して俺を追い詰める材料にするなんて。」
柏木の言葉を聞いて、瀬戸田は奥歯を噛み締めた。そして少しでも姫川を信頼してしまった自分を恥じた。
やっぱり1、2回話しただけの僕に親身になってくれるなんて可笑しいと思ったんだ。
段々と瀬戸田の心を黒い闇が覆い尽くしていく。
「大丈夫だよ!」
その時、柏木の声が一際大きく瀬戸田の耳に響いた。
ハッとして瀬戸田が柏木に目を向けると、真剣な眼差しとぶつかった。
「俺が史人を守るから。今度こそ史人に辛い思いなんてさせないから。」
瀬戸田の不安と怒りで押しつぶされそうだった心がフッと軽くなるのを感じた。
姫川に利用されたショックや、柏木に嫌われなかった安堵や色々な感情が混ざって、瀬戸田は堪らず涙を流す。
「うぅっ・・・葵くんありがとう・・・」
柏木は瀬戸田の背中を撫でながら優しい声音で話しかけた。
「俺に打ち明けるのにも凄く勇気がいって今日は疲れただろう。何か食べ物でも買ってくるから、史人はゆっくりしとくといいよ。」
その言葉に瀬戸田は柔らかく微笑んだ。
柏木は自室を後にすると、晩御飯を買うためスーパーに向かっていた。
瀬戸田が自分に暴力を受けていることを打ち明けた時にはビックリした柏木だったが逆にそれを上手く利用できたことに密かにほくそ笑む。
姫川が佐々木を使って瀬戸田の事を調べさせているのは、立木からの情報で柏木も知っていた。
しかし、意外にも早く姫川が瀬戸田と接触しており、こんなに早く瀬戸田が苛めの事を自分に打ち明けてくるとは考えていなかった。
その為口先だけの薄っぺらい嘘になってしまったが、意外にも瀬戸田はそれを信じ込んでいた。最後の方は姫川に対する苛立ちを隠そうともしなかった。そんな瀬戸田の様子が柏木には面白くて堪らなかった。
「あいつ、誰が痛めつけるよう仕向けたのか全く分かってないんだから、本当にバカだよねぇ。」
鼻歌でも歌うような調子でそう呟きながら、軽い足取りで柏木は外の闇へと消えていった。
少しずつ姫川を取り巻く環境が柏木の手によって不穏な闇に覆われていく。
そんな、闇に取り込まれようとしていることにこの時の姫川はまだ気づいていなかった。
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