風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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混沌を極める2学期

五話

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「でも、夏祭りで襲ってきた人たちを僕は見た事なかったよ。もし柏木くんの指示だっていうんなら、どうやって僕達が夏祭りに来るって知ったんだろう。」
牧瀬が何気に口にした言葉に姫川が苦い顔をする。それと同時に三田が震えた声を出した。
「あっ・・・もしかして俺が色んな奴らにその情報を話したから柏木に伝わったのか?俺、皆と一緒に祭りに行けるのが嬉しくてつい誰彼構わず自慢しちゃったんだ・・・」
とんでもないことをしてしまったと言うように三田が呆然としていた。自分の所為で牧瀬が傷ついていたかもしれないと言う事実に思い至ってしまったようだった。
「ごめん!俺そんなつもりじゃあー」
「当たり前だ!」
焦って必死に謝ろうとする三田の言葉に被せるように姫川が大きな声を出す。それに驚いた三田が思わず言葉をとめた。
「お前にそんなつもりがなかったことなんて皆が知ってる。嬉しいことを友達にいう事だって至極普通のことなんだ。だから絶対にお前が悪いなんてことはない。それを利用しようとした柏木が全て悪いんだ。」
三田に言い聞かせるように言う姫川の言葉に三田が思わず涙ぐむ。そんな様子を他のメンバーも見て、皆拳を強く握った。人の良い三田を利用した柏木を許せない気持ちは全員一緒だった。
その後、三田が落ち着くのを待って、柏木の親衛隊が発足するかも知れない話も皆に話した。その間も三田の顔色は優れなかった。全て話し終えた姫川は三田のことが気になりつつもその後はいつも通りの業務についた。
30分ほどで清木が戻ってきたが、部屋の重苦しい雰囲気と、疲れ切った顔で風紀委員室にいる姫川たちを見て、一瞬動きを止めていた。
しかし、特に何を言うわけでもなく、そのまま佐々木達の方で一緒に作業を始めた。

「ふう、疲れた。」
誰に聞こえるともなく、寮の廊下で姫川はそう呟いた。今日は柏木のことを皆に話したせいか、いつもより体が重く感じた。これを話したことで皆がどう思うか心配で知らず知らずのうちに緊張していたようだった。
姫川はどっと疲れた体を引きずって自室に戻ると、疲れた体をサッパリさせるため直ぐに浴室に向かった。
今日が始業式だったと言うのに1日に色々あり過ぎて門の前に立っていたのが遠い昔のように感じられた。
髪や体をさっさと洗い、風呂から上がる。
髪を拭きながらソファの方に行こうとした時、扉が控えめにノックされた。
この部屋に頻繁に訪れるのは1人しかいないと、姫川がドアを開けると、想像していた人物が目の前に立っていた。
「よぉ、お疲れ。入ってもいいか?」
部屋着に着替えていた正木も風呂に入ったのか、髪がしっとりとしていた。濡れるといつもよりパーマが強く出て、それはそれでよく似合って見えた。
「なんだよ。俺に見惚れてる?」
当然のように部屋に上がりながら、正木はそんな軽口を叩いた。
手には袋を下げている。
「そんな軽口ばかり叩いていると、追い出すぞ。」
姫川は正木から目を逸らしながら、そう言った。
以前は部屋にあがらすことも躊躇っていた姫川だが今は自然に正木を受け入れている。
「まぁまぁ、そう言うなって。姫川、飯食った?」
そう言って下げていた袋を掲げて見せた。
「飯買ってきたんだ。一緒に食おうと思って。」
そう言ってにっと笑う正木に姫川も笑みを漏らした。
姫川自身、今日はとても疲れていたので正木の申し出が素直に嬉しかった。
「ありがとう。今、飲み物でも取ってくるから。」
素直に喜ぶ姫川を見て、正木が顔を綻ばせた。
2人でソファに座り正木が買ってきた弁当を摘む。
その間、他愛のない話をする。そうやって話しているうちに姫川はふと柏木の事を打ち明けたい衝動に駆られた。
いつも自分の事を考えてくれて、優しい顔を自分に向けてくれる正木に柏木の事を打ち明けられたら、どれだけ心が楽になるだろうと。
「なぁ、正木・・・」
姫川が硬い声で正木に声を掛ける。
その声音に正木が直ぐに反応した。
「どうした?」
姫川をジッと見て話しだすのを待つ正木の姿は、本当に真剣で真摯だった。
自分に向ける正木の視線が3年になったばかりの頃とは明らかに違うと姫川にも分かる。
こういう関係になるまでは、自分を見る正木の目は限りなく冷たかった。軽蔑や侮蔑も含まれていたかも知れない。
そう考えているうちに、姫川は急に柏木の事を打ち明けるのが怖くなり、言葉に詰まる
生徒会に柏木が顔を出すようになってから、以前より正木と柏木の距離は近い。
自分の友達のことを悪く言われて、嫌な気分にならない奴はおそらくいないだろう。
姫川はそんな感情に囚われて、その先の言葉を紡ぐことが出来なかった。
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