風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

文字の大きさ
上 下
102 / 200
2学期までの1週間

夏休み番外編2 戸田と佐々木

しおりを挟む
「入学した時の津田ってどんなだったか覚えてる?」
戸田の問いかけに佐々木は首を傾げる。
佐々木が津田を認識した時には既に、戸田がいつも隣に居たからだ。
「うーん、そういえばあんまり印象にないかも•••」
戸田にそう返せば、当然と言うようにコクっと首を縦に振った。
「そうだよね。津田は入学当初は本当に地味で目立たなかった。それこそ、今の葵を地でいくようなそんな容姿だった。葵はあの性格だから目立ってるけど、津田の場合当初は性格も引っ込み思案であまり人と関わる事もなかったな。」
戸田の告白に佐々木は驚いた。今の津田からはまるで想像がつかなかった。
「でも、あいつはすごく優秀だった。皆はその見た目に捕らわれて殆ど津田と関わろうとしなかったけど、俺は津田が優秀な事を知ってたから、積極的に話しかけるようになった。今思えば、自分だけが津田の優秀な一面を知っている事で優越感を感じてしまっていたのかも。」
佐々木は戸田が話す事に、たまに相槌をうちながら黙って聞いていた。
「その内津田は俺を崇拝するようになっていった。見た目も、仕草も、話し方も真似するようになって。俺と見た目が似てきたことで少しずつ自信も出てきて、人と関わるのを嫌がらなくなった。そして、俺も今まで家族に放任されて育ったからか、そんな津田の執着が心地よかったんだ。」
初めて聞く話の連続に、佐々木は驚くばかりだった。互いに依存し合った歪な関係ではあるが、そんな2人には2人だけの確固たる絆がある気がした。
「学校でも寮でもいつも一緒で、頭の良さも、運動能力もほぼ変わらない。見た目も似ていて、いつしか皆に戸田と津田はコンビだと言われるようになった。俺はそれが嬉しかったし、津田もそれを嬉しいと思ってくれてると信じてた。でも葵が転校してきて•••」
そこまで話すと戸田は一度言葉を詰まらせた。そして少しの間を置いてまた、話し始める。
「実は俺は津田ほど葵の事を好きじゃないって知ってた?」
戸田の突然の告白に佐々木は驚き目を丸くした。はたから見た戸田は柏木を凄く好いているように見えたからだ。
「嫌いではないよ。寧ろ最初は昔の津田を見たようで嬉しかったし可愛かった。でも色々な意味で葵は津田とは違った。似ているのは地味なあの髪とメガネだけだ。やたらとコミュニケーション能力は高いし、自信もある。物怖じしない性格なのか生徒会や風紀とも対等に渡り合う葵に俺は違和感を覚えた。でも津田は違った。以前の自分と同じ容姿でありながら自信を持って堂々と生きる葵の姿に憧れを抱いたのかもしれない。」
あぁこれかと佐々木は思った。今日ここで戸田が寂しそうにしていた原因が見えた気がした。
「今までは俺の真似をする事で、あいつは自分を変えたいんだろうって思ってたけど、本当は別に俺の真似なんかしたくなかったのかもしれないって、葵と出会った津田を見てると思ってしまうんだ。」
「まさか戸田がそんな悩みを持っているとは思わなかったな。でも、津田のことはお前が強制して真似をさせた訳じゃないだろ?お前の真似をしたのも側にいたのもそれは津田の意思なんじゃないの?」
「そう思えたらいいけどね。単に津田には俺しかいなかったって言う考え方も出来るよね。たまたま仲良くしようとしたのが俺だっただけ。」
余りに寂しそうな戸田の横顔に佐々木は言葉を詰まらせた。
そんな事はないと思うが、結局は2人の問題だ。津田の気持ちは津田にしか分からない。どう声を掛けようかと佐々木が悩んでいた時、
「ちょっとー、やっと見つけた!どうして俺を置いていくかな。」
と、戸田を探していたらしい津田がこちらに向かって歩いてきた。そして俯いて元気のなさそうな戸田と横にいる佐々木を見て目を見開く。
「おい、佐々木が何で戸田と居るの?まさか戸田に何かしたんじゃないだろうな。」
戸田を虐めたとでも思っているのか、津田が怒気を孕んで歩いてくるのが見えた。
佐々木はそんな津田の様子を見て、隣の戸田に小声で話しかけた。
「見てみろよ。お前が俺に虐められていると思って津田が怒ってるぞ。あれこそお前の事が大事だっていう証拠じゃないのか?わざわざ戸田を探しにここまで来たんだろうしな。」
「さぁ、そうだといいけどね。はぁ、まさか俺も佐々木に慰められる日が来るとはな。」
口ではそう言いながらも、戸田は満更でもなさそうに津田を見ていた。
「大丈夫?佐々木に何か変な事されてない?」
駆け寄ってきた津田が戸田の顔を覗き込みながら心配そうな声を出す。
「あぁ、大丈夫だよ。少し話していただけだから。一緒に寮に戻ろう。」
そう言って戸田は立ち上がると、津田と共に歩き出す。しかし、直ぐに立ち止まるとクルッと佐々木の方を振り返って言った。
「風紀の人間に話を聞いてもらう事なんて一生ないと思ってたけど、話して少し気持ちが軽くなったよ。ありがとう。」
初めて受けた戸田からのお礼に佐々木は素直に驚いた。そして、
「どういたしまして。」
と返すのが精一杯だった。
戸田はまた踵を返すと今度こそ津田と共に佐々木のもとを去った。2人の会話がいまいち分からない津田だけが戸惑うように戸田の後を追いかけていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
と言うわけで、やっと夏休み編完全完結です。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
次からは2学期編が始まります。楽しみに更新を待ってもらえると嬉しいです!
書き溜め期間のため少しお休みします。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

風紀委員長様は今日もお仕事

白光猫(しろみつにゃん)
BL
無自覚で男前受け気質な風紀委員長が、俺様生徒会長や先生などに度々ちょっかいをかけられる話。 ※「ムーンライトノベルズ」サイトにも転載。

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

処理中です...