風紀委員長は××が苦手

2学期までの1週間

十話

あれは何だったのだろうか？
自室に戻った姫川は先程の瀬戸田の事を考えていた。
明らかに、転んだとか、ぶつけたとかいうレベルを超えた痣の数々に姫川の表情は自然と険しくなる。
無理矢理にでも聞き出すべきだったか。
心を閉ざし、姫川を拒否しているように見えた瀬戸田に問いただしたりする事はできなかったが、あのまま帰してもよかったのだろうかという思いが姫川の中に渦を巻いていた。
姫川は携帯を取り出すと電話を掛けた。
然程待たずに目当ての相手が電話に出た。
「もしもし。さっき別れたばっかなのにどうした？姫川が電話してくるなんて珍しいな。」
電話の相手は佐々木だった。
「いや、少し調べて欲しいことがあるんだが･･･」
『えっ？何？』
「2年の瀬戸田っていう生徒の事を調べてほしい。柏木と同室の男だから直ぐにわかると思う。」
『いいけど？その人は姫川の何なの？』
「スポーツ大会の後くらいから、話すようになった友人だが、少し雰囲気がおかしかったのと、後身体中に痣があって･･･」
『痣？』
姫川の話を聞いていた佐々木の声音が若干変わったのがわかった。
「あぁ、とても偶然出来たような規模の痣じゃなかった。柏木と同室なのも気になるし。何かトラブルに巻き込まれてないか心配でな。」
『へぇー、姫川って最近優しくなったよね。他人のトラブルに自分から首を突っ込むなんてね。』
佐々木の言葉を聞いて自分のことをどれだけ非道な人間だと思っているんだろうと思うと姫川は少し悲しくなった。
「何言ってんだ。何かトラブルがあるならそれを解決するのも風紀の仕事だろ。」
少しムッとして姫川が言えば、困ったような佐々木の声が返ってきた。
『悪い。怒るなって。褒めたつもりだったんだけどな。わかった。こっちで調べてみるよ。』
「あぁ、頼む。只調べるのは瀬戸田だけだ。もう柏木の事は取り敢えず無闇に調べたりしないでくれ。」
姫川がそう釘を刺すと、クスッと電話口で笑う声がした。
「何だ？」
なぜ笑っているのかわからないというように返せば、
『やっぱり姫川は前より優しくなってるよ。じゃあね。』
と言って佐々木は電話を切ってきた。
電話を終えた姫川は携帯をソファに投げると目を閉じた。
すると瀬戸田の優しそうな笑顔が浮かんでくる。
花の事を語る瀬戸田は目をキラキラさせていた。それがたった一ヶ月ちょっとであんな状態になるなんて。
姫川はまだ会ったことのない、瀬戸田を傷つけた奴らの顔を思い浮かべながらゆっくり目を開けると、拳を強く握りしめた。