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2学期までの1週間
九話
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明日は始業式という事もあり、今日は早めに解散した。姫川は他のメンバーからの昼飯の誘いをやんわり断り、1人で校庭裏に来ていた。
此処に来ると柏木との一件を思い出してしまうが、3年近く過ごしたお気に入りの場所でもあるので、やはり自然に足が向いてしまう。
昼食を片手に屋根付きのベンチに腰掛け、姫川は一息ついた。
まだ夏の日差しも厳しく、身が焼けるような暑さだが、それでも日陰では大分温度が下がり、風が吹き抜けると心地良かった。
スーパーで買ったサンドイッチを片手に瀬戸田が手入れをしている花壇に目をやって姫川は動きを止めた。
花が枯れてる・・・
姫川は今まで何度も此処で過ごしていたが、花壇の花が枯れているのを見るのは初めてだった。
瀬戸田の前に誰が世話をしていたのかは姫川も知らなかったが、少なくともこの2年近くは花壇の花はいつも見事に咲き誇っていた。
夏休みで帰省していたのか?
首を傾げながら、サンドイッチに齧り付く。
まぁ、夏休みまでそんなに頻繁に世話はできないよな。
そう自分で結論づけて2個目のサンドイッチを取ろうとした時、フラフラと歩きながらこちらに来る人物が見えた。
「瀬戸田?」
雰囲気がいつもと違うからか、少し別人のように見え、姫川は遠慮がちに声を掛けた。
瀬戸田は姫川の声にビクッと体を震わすと、一瞬だけ驚きの表情を見せ、直ぐに踵を返した。
まさか無視されるとは思っていなかった姫川は驚きながらも、いつもと余りにも違う瀬戸田の雰囲気に嫌な予感がした。
気がつくと、瀬戸田を追いかけその細い腕を掴んでいた。
「はっ離して!離してください!」
腕を掴んだだけなのに、まるでパニックに陥ったように瀬戸田は腕を振り回した。
姫川は瀬戸田と目を合わせると、ゆっくりと落ち着いた口調で話しかけた。
「瀬戸田、落ち着け。俺は何もしないから。大丈夫だから。」
そのまま暫く姫川が様子を見ていると、目を見開いて荒い呼吸を繰り返していた瀬戸田が段々と落ち着きを取り戻していくのがわかった。
「す、すみません。取り乱してしまって。」
冷静になった瀬戸田にホッとして姫川が口調を優しくする。
「いつもと雰囲気が違うから、びっくりしたぞ。何かあったのか?」
そうすると、一瞬顔を歪めて瀬戸田が姫川を見た。しかし、直ぐに顔を逸らすと
「いえ、別に大丈夫です。」
と素っ気ない返事を返した。
「少し1人になりたいなと思って此処に来たんですが、先輩が居たので帰ろうとしただけです。」
こんな事を言う奴だっただろうか?
瀬戸田の言葉に姫川は驚いた。いつも柔らかい笑顔で、優しい瀬戸田の言葉とは到底思えなかった。
「おい、本当にどうしたんだ?」
そのまま去っていこうとする瀬戸田を引き止めるように、姫川が肩に手を置くと、
「い“っ!」
途端に肩を押さえて顔を歪ませ、その場にしゃがみ込む。
そんなに強く掴んだ覚えは無かったのに、瀬戸田の痛がり方が尋常じゃなく、何かを悟った姫川の顔が一気に険しくなる。そして蹲った瀬戸田の長袖のシャツの背中を勢いよく姫川が捲った。
「っ!?」
姫川は言葉にならない衝撃を受けた。
顔には特に目立った傷など無かったのに、一枚服を捲ればそこには赤黒く変色した肌が途端に顔を出した。
切り傷や擦り傷もあり、所々血が滲んでいる。
「お、お前これどうしたんだ?」
余りの事に姫川も言葉に詰まる。
「勝手に見ないでもらえますか?先輩には関係ないです。」
今までの瀬戸田なら考えられないような冷たい言葉に一瞬姫川は言葉を失う。
その隙に、服装を正した瀬戸田は姫川の元を去っていった。
此処に来ると柏木との一件を思い出してしまうが、3年近く過ごしたお気に入りの場所でもあるので、やはり自然に足が向いてしまう。
昼食を片手に屋根付きのベンチに腰掛け、姫川は一息ついた。
まだ夏の日差しも厳しく、身が焼けるような暑さだが、それでも日陰では大分温度が下がり、風が吹き抜けると心地良かった。
スーパーで買ったサンドイッチを片手に瀬戸田が手入れをしている花壇に目をやって姫川は動きを止めた。
花が枯れてる・・・
姫川は今まで何度も此処で過ごしていたが、花壇の花が枯れているのを見るのは初めてだった。
瀬戸田の前に誰が世話をしていたのかは姫川も知らなかったが、少なくともこの2年近くは花壇の花はいつも見事に咲き誇っていた。
夏休みで帰省していたのか?
首を傾げながら、サンドイッチに齧り付く。
まぁ、夏休みまでそんなに頻繁に世話はできないよな。
そう自分で結論づけて2個目のサンドイッチを取ろうとした時、フラフラと歩きながらこちらに来る人物が見えた。
「瀬戸田?」
雰囲気がいつもと違うからか、少し別人のように見え、姫川は遠慮がちに声を掛けた。
瀬戸田は姫川の声にビクッと体を震わすと、一瞬だけ驚きの表情を見せ、直ぐに踵を返した。
まさか無視されるとは思っていなかった姫川は驚きながらも、いつもと余りにも違う瀬戸田の雰囲気に嫌な予感がした。
気がつくと、瀬戸田を追いかけその細い腕を掴んでいた。
「はっ離して!離してください!」
腕を掴んだだけなのに、まるでパニックに陥ったように瀬戸田は腕を振り回した。
姫川は瀬戸田と目を合わせると、ゆっくりと落ち着いた口調で話しかけた。
「瀬戸田、落ち着け。俺は何もしないから。大丈夫だから。」
そのまま暫く姫川が様子を見ていると、目を見開いて荒い呼吸を繰り返していた瀬戸田が段々と落ち着きを取り戻していくのがわかった。
「す、すみません。取り乱してしまって。」
冷静になった瀬戸田にホッとして姫川が口調を優しくする。
「いつもと雰囲気が違うから、びっくりしたぞ。何かあったのか?」
そうすると、一瞬顔を歪めて瀬戸田が姫川を見た。しかし、直ぐに顔を逸らすと
「いえ、別に大丈夫です。」
と素っ気ない返事を返した。
「少し1人になりたいなと思って此処に来たんですが、先輩が居たので帰ろうとしただけです。」
こんな事を言う奴だっただろうか?
瀬戸田の言葉に姫川は驚いた。いつも柔らかい笑顔で、優しい瀬戸田の言葉とは到底思えなかった。
「おい、本当にどうしたんだ?」
そのまま去っていこうとする瀬戸田を引き止めるように、姫川が肩に手を置くと、
「い“っ!」
途端に肩を押さえて顔を歪ませ、その場にしゃがみ込む。
そんなに強く掴んだ覚えは無かったのに、瀬戸田の痛がり方が尋常じゃなく、何かを悟った姫川の顔が一気に険しくなる。そして蹲った瀬戸田の長袖のシャツの背中を勢いよく姫川が捲った。
「っ!?」
姫川は言葉にならない衝撃を受けた。
顔には特に目立った傷など無かったのに、一枚服を捲ればそこには赤黒く変色した肌が途端に顔を出した。
切り傷や擦り傷もあり、所々血が滲んでいる。
「お、お前これどうしたんだ?」
余りの事に姫川も言葉に詰まる。
「勝手に見ないでもらえますか?先輩には関係ないです。」
今までの瀬戸田なら考えられないような冷たい言葉に一瞬姫川は言葉を失う。
その隙に、服装を正した瀬戸田は姫川の元を去っていった。
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