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2学期までの1週間
一話
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姫川は寮に着くと、自室に荷物を置いた。
ふぅと溜息を吐くと、一度ソファに座り込む。
帰ってきてしまった。
あんなに待ち遠しかった夏休みは姫川にとってあっという間だった。
これからまた気の抜けない苦しい生活が始まるのかと思うと途端に気分が沈んだ。
暫くそうやって休んでいた姫川だが、少し小腹が空いたので、寮のスーパーに出かけることにした。
明日からは風紀に顔を出すつもりだった。
だから、今日ぐらいはご飯を食べて自室でゆっくりしようと考えたのだ。
スーパーについた姫川が自炊も面倒くさくて、惣菜や弁当に目を通していると、
「姫川?」
と後ろから名前を呼ばれた。
それは姫川がよく知った声で、直ぐに振り返った。すると嬉しそうに姫川を見る正木が立っていた。
「いつ帰ってきてたんだよ。」
久しぶりに見る正木の顔に姫川も自然と顔が弛んだ。
「さっきこっちに着いた。」
「これから飯か?じゃあ俺たちと一緒に食わないか?」
直ぐに肯定しようとしたが、正木の俺たちと言う言い方に姫川は引っ掛かりを覚える。
「俺たちって他にー」
そう言おうとした時、
「恭治、まだ悩んでたのに何で先に行くんだよ。」
と正木の背後から柏木が顔を出した。思ってもない登場に姫川の表情が一気に強張る。
「あれっ?姫ちゃんじゃん!いつ帰ってきたの?」
しかし、柏木はそんな姫川の様子も気に留めず、いつもの強引な態度で正木を押し退け姫川の前に出た。
「おいっ、俺が姫川と話してたんだから。」
それを横から呆れたように正木が咎めた。
「悪いな。帰ったばかりで疲れてるから、俺は部屋で食べる。」
そう言うとさっさと姫川はその場から離れようとする。その腕を柏木がガシッと掴む。
「えー!いいじゃん。一緒に食べたら!折角久々に会ったんだから。」
もし、祭りの会場でのことが柏木の仕業だとしたら、こんな態度で自分と接してくる目の前の男が姫川には信じられなかった。
「離せっ!」
腕を振って柏木を引き剥がした姫川が柏木を睨んだ。
「別にそんなに怒らなくてもいいじゃん。俺は姫ちゃんと一緒にご飯を食べたかっただけなのに。」
声音は残念そうだが、正木から見えていないその顔は、真っ直ぐに姫川を捉え口元に薄い笑みを貼り付けていた。その顔を見ただけで姫川は簡単に理性を失いかける。そして、柏木の襟元に掴みかかりそうになった時、
「ストップ!どうしたんだよ姫川。帰ってきたばかりで疲れてイライラしてんのか?」
と戸惑うように正木が間に入ってきた。そこで姫川は正木の存在を思い出し、一旦落ち着くため、ゆっくりと息を吐いた。
「だから疲れてるって最初から言っただろ。」
何とかそれだけ言って姫川はまた惣菜の方へ目を戻す。しかし、今のやり取りで食欲はすっかり消え失せていた。
「怖っ!何だよ。俺何もしてないのに。」
「葵も挑発すんな。ほら、行くぞ。」
そんな姫川の態度に不満を漏らす柏木を宥めながら、正木は姫川から離れていった。
正木に柏木の事を相談したい。
姫川は何度もそう思っては、そのまま出来ずにいた。正木は柏木を信用している。
もし、柏木の話を正木にして信じてもらえなかったら・・・
もし、柏木の方を信用してしまったら・・・
姫川はその場で拳を強く握ったまま、暫く動く事ができなかった。
ふぅと溜息を吐くと、一度ソファに座り込む。
帰ってきてしまった。
あんなに待ち遠しかった夏休みは姫川にとってあっという間だった。
これからまた気の抜けない苦しい生活が始まるのかと思うと途端に気分が沈んだ。
暫くそうやって休んでいた姫川だが、少し小腹が空いたので、寮のスーパーに出かけることにした。
明日からは風紀に顔を出すつもりだった。
だから、今日ぐらいはご飯を食べて自室でゆっくりしようと考えたのだ。
スーパーについた姫川が自炊も面倒くさくて、惣菜や弁当に目を通していると、
「姫川?」
と後ろから名前を呼ばれた。
それは姫川がよく知った声で、直ぐに振り返った。すると嬉しそうに姫川を見る正木が立っていた。
「いつ帰ってきてたんだよ。」
久しぶりに見る正木の顔に姫川も自然と顔が弛んだ。
「さっきこっちに着いた。」
「これから飯か?じゃあ俺たちと一緒に食わないか?」
直ぐに肯定しようとしたが、正木の俺たちと言う言い方に姫川は引っ掛かりを覚える。
「俺たちって他にー」
そう言おうとした時、
「恭治、まだ悩んでたのに何で先に行くんだよ。」
と正木の背後から柏木が顔を出した。思ってもない登場に姫川の表情が一気に強張る。
「あれっ?姫ちゃんじゃん!いつ帰ってきたの?」
しかし、柏木はそんな姫川の様子も気に留めず、いつもの強引な態度で正木を押し退け姫川の前に出た。
「おいっ、俺が姫川と話してたんだから。」
それを横から呆れたように正木が咎めた。
「悪いな。帰ったばかりで疲れてるから、俺は部屋で食べる。」
そう言うとさっさと姫川はその場から離れようとする。その腕を柏木がガシッと掴む。
「えー!いいじゃん。一緒に食べたら!折角久々に会ったんだから。」
もし、祭りの会場でのことが柏木の仕業だとしたら、こんな態度で自分と接してくる目の前の男が姫川には信じられなかった。
「離せっ!」
腕を振って柏木を引き剥がした姫川が柏木を睨んだ。
「別にそんなに怒らなくてもいいじゃん。俺は姫ちゃんと一緒にご飯を食べたかっただけなのに。」
声音は残念そうだが、正木から見えていないその顔は、真っ直ぐに姫川を捉え口元に薄い笑みを貼り付けていた。その顔を見ただけで姫川は簡単に理性を失いかける。そして、柏木の襟元に掴みかかりそうになった時、
「ストップ!どうしたんだよ姫川。帰ってきたばかりで疲れてイライラしてんのか?」
と戸惑うように正木が間に入ってきた。そこで姫川は正木の存在を思い出し、一旦落ち着くため、ゆっくりと息を吐いた。
「だから疲れてるって最初から言っただろ。」
何とかそれだけ言って姫川はまた惣菜の方へ目を戻す。しかし、今のやり取りで食欲はすっかり消え失せていた。
「怖っ!何だよ。俺何もしてないのに。」
「葵も挑発すんな。ほら、行くぞ。」
そんな姫川の態度に不満を漏らす柏木を宥めながら、正木は姫川から離れていった。
正木に柏木の事を相談したい。
姫川は何度もそう思っては、そのまま出来ずにいた。正木は柏木を信用している。
もし、柏木の話を正木にして信じてもらえなかったら・・・
もし、柏木の方を信用してしまったら・・・
姫川はその場で拳を強く握ったまま、暫く動く事ができなかった。
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