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高校最後の夏休み
三十一話
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姫川が家に帰ってくる頃には23時近くなっていた。祖母はもう寝ていて、家の中は暗くひっそりとしていた。静かに2階に登ると、直ぐに自室に入る。すると気が抜けたのか、今日1日の疲れがどっとのしかかってくるように感じた。
姫川は布団を敷くのも億劫でそのまま床に寝そべった。
目を閉じると柏木の顔が自然に浮かんできた。いつもはヘラヘラしているくせに、たまに自分に見せる無表情の顔が姫川には恐ろしく感じた。あの奇抜な髪と瓶底眼鏡の下で不気味にこちらを見る柏木・・・そこまで考えて姫川はバッと体を起こした。
それはほぼ無意識だった。気がつけば、姫川は電話を握りしめていた。
『もしもし?こんな遅い時間にどうした?お前から連絡してくるなんて珍しいな。』
何回かのコール音の後、電話口から正木の声がした。
「えっ?正木?」
『はっ?何言ってんだよ。お前から連絡してきたんだろ。』
驚いたような姫川の声に正木がそう返す。
「そうか。俺は正木に連絡してたのか・・・」
『おいおい、それも分かってないのかよ。お前がこんな風になるなんて珍しいな。何かあったのか?』
自分を心配するような正木の声に心がジワッと温かくなるのを感じる。
蒸し暑い夜なのに何故か先程まで冷えていた体が、少しずつ体温を取り戻すのを感じた。
「いや、大丈夫だ。」
姫川が短く返すと、
『まさか俺の声が聞きたかったとか?』
と揶揄うような正木の声が聞こえてきた。
「そんな訳っー」
そこまで言いかけて、姫川は言葉を呑んだ。そして、
「いや、正木の言うとおりだな。」
と言い直した。
『えっ?お前どうしたの?本当に大丈夫か?』
姫川の素直な言葉に慌てたように正木が返す。その反応が可笑しくて姫川がクスッと笑った。
「あぁ、大丈夫だよ。いつもしつこいくらい会ってたのに、ここ最近会ってなかったからかな。」
いつになく素直な姫川に正木も段々と姫川の事が本当に心配になってくる。その間も姫川は言葉を続けた。
「お前は、もう学校に戻るのか?」
『そうだな。そろそろ2学期も近くなってきたしな。月曜には帰ろうと思ってるよ。」
そうかと言って、少し寂しそうな声をだす姫川に正木は後ろ髪を引かれる。
『なぁ、何かあったなら話を聞くぞ。1人で抱え込むなよ。』
いつもと違う姫川の態度に正木がそう声を掛けると
「いや、お前の能天気な声を聞いてたら悩みも忘れたよ。」
と茶化すように姫川が言った。
『なんだよ。人が折角心配してんのに。』
正木がムスッとすると、
「ははっ、それは悪かったな。」
不貞腐れたような正木の声に姫川が笑い声を漏らす。
「いや、でも心配してくれてありがとう。」
正木と話していて、気分が浮上してきたのは本当だった。そのことに姫川は礼を言うと、静かに電話を切った。
正木の声を聞いただけで先程まで感じていた恐ろしさが消え失せていた。
姫川は、急に激しい眠気を感じて、気がつけばそのまま床で眠ってしまっていた。
電話を終えた正木はベッドの上に携帯を放り投げ、自身もそこにゴロンと寝そべった。
あれは、絶対に何かあっただろ。
姫川の様子がいつもと違うのは正木にもすぐわかった。正木が悩んでいる時にはお節介なくらい首を突っ込んでくるくせに、自分の悩みは全然口にしようとしない姫川に正木はじれったさを感じる。
俺だってお前に頼られたいんだよ。
自分で全て解決してあまり人を頼ろうとしない姫川に正木は一抹の不安を覚えていた。
以前は冷徹で冷静な男だと思っていたが、今は情に厚く、意外に繊細であることを知った。そんな姫川が自分の知らないところで追い詰められていくのを想像して正木はグッと拳を握りしめるのだった。
姫川は布団を敷くのも億劫でそのまま床に寝そべった。
目を閉じると柏木の顔が自然に浮かんできた。いつもはヘラヘラしているくせに、たまに自分に見せる無表情の顔が姫川には恐ろしく感じた。あの奇抜な髪と瓶底眼鏡の下で不気味にこちらを見る柏木・・・そこまで考えて姫川はバッと体を起こした。
それはほぼ無意識だった。気がつけば、姫川は電話を握りしめていた。
『もしもし?こんな遅い時間にどうした?お前から連絡してくるなんて珍しいな。』
何回かのコール音の後、電話口から正木の声がした。
「えっ?正木?」
『はっ?何言ってんだよ。お前から連絡してきたんだろ。』
驚いたような姫川の声に正木がそう返す。
「そうか。俺は正木に連絡してたのか・・・」
『おいおい、それも分かってないのかよ。お前がこんな風になるなんて珍しいな。何かあったのか?』
自分を心配するような正木の声に心がジワッと温かくなるのを感じる。
蒸し暑い夜なのに何故か先程まで冷えていた体が、少しずつ体温を取り戻すのを感じた。
「いや、大丈夫だ。」
姫川が短く返すと、
『まさか俺の声が聞きたかったとか?』
と揶揄うような正木の声が聞こえてきた。
「そんな訳っー」
そこまで言いかけて、姫川は言葉を呑んだ。そして、
「いや、正木の言うとおりだな。」
と言い直した。
『えっ?お前どうしたの?本当に大丈夫か?』
姫川の素直な言葉に慌てたように正木が返す。その反応が可笑しくて姫川がクスッと笑った。
「あぁ、大丈夫だよ。いつもしつこいくらい会ってたのに、ここ最近会ってなかったからかな。」
いつになく素直な姫川に正木も段々と姫川の事が本当に心配になってくる。その間も姫川は言葉を続けた。
「お前は、もう学校に戻るのか?」
『そうだな。そろそろ2学期も近くなってきたしな。月曜には帰ろうと思ってるよ。」
そうかと言って、少し寂しそうな声をだす姫川に正木は後ろ髪を引かれる。
『なぁ、何かあったなら話を聞くぞ。1人で抱え込むなよ。』
いつもと違う姫川の態度に正木がそう声を掛けると
「いや、お前の能天気な声を聞いてたら悩みも忘れたよ。」
と茶化すように姫川が言った。
『なんだよ。人が折角心配してんのに。』
正木がムスッとすると、
「ははっ、それは悪かったな。」
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「いや、でも心配してくれてありがとう。」
正木と話していて、気分が浮上してきたのは本当だった。そのことに姫川は礼を言うと、静かに電話を切った。
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姫川は、急に激しい眠気を感じて、気がつけばそのまま床で眠ってしまっていた。
電話を終えた正木はベッドの上に携帯を放り投げ、自身もそこにゴロンと寝そべった。
あれは、絶対に何かあっただろ。
姫川の様子がいつもと違うのは正木にもすぐわかった。正木が悩んでいる時にはお節介なくらい首を突っ込んでくるくせに、自分の悩みは全然口にしようとしない姫川に正木はじれったさを感じる。
俺だってお前に頼られたいんだよ。
自分で全て解決してあまり人を頼ろうとしない姫川に正木は一抹の不安を覚えていた。
以前は冷徹で冷静な男だと思っていたが、今は情に厚く、意外に繊細であることを知った。そんな姫川が自分の知らないところで追い詰められていくのを想像して正木はグッと拳を握りしめるのだった。
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