風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

文字の大きさ
上 下
87 / 200
高校最後の夏休み

三十一話

しおりを挟む
姫川が家に帰ってくる頃には23時近くなっていた。祖母はもう寝ていて、家の中は暗くひっそりとしていた。静かに2階に登ると、直ぐに自室に入る。すると気が抜けたのか、今日1日の疲れがどっとのしかかってくるように感じた。
姫川は布団を敷くのも億劫でそのまま床に寝そべった。
目を閉じると柏木の顔が自然に浮かんできた。いつもはヘラヘラしているくせに、たまに自分に見せる無表情の顔が姫川には恐ろしく感じた。あの奇抜な髪と瓶底眼鏡の下で不気味にこちらを見る柏木・・・そこまで考えて姫川はバッと体を起こした。
それはほぼ無意識だった。気がつけば、姫川は電話を握りしめていた。
『もしもし?こんな遅い時間にどうした?お前から連絡してくるなんて珍しいな。』
何回かのコール音の後、電話口から正木の声がした。
「えっ?正木?」
『はっ?何言ってんだよ。お前から連絡してきたんだろ。』
驚いたような姫川の声に正木がそう返す。
「そうか。俺は正木に連絡してたのか・・・」
『おいおい、それも分かってないのかよ。お前がこんな風になるなんて珍しいな。何かあったのか?』
自分を心配するような正木の声に心がジワッと温かくなるのを感じる。
蒸し暑い夜なのに何故か先程まで冷えていた体が、少しずつ体温を取り戻すのを感じた。
「いや、大丈夫だ。」
姫川が短く返すと、
『まさか俺の声が聞きたかったとか?』
と揶揄うような正木の声が聞こえてきた。
「そんな訳っー」
そこまで言いかけて、姫川は言葉を呑んだ。そして、
「いや、正木の言うとおりだな。」
と言い直した。
『えっ?お前どうしたの?本当に大丈夫か?』
姫川の素直な言葉に慌てたように正木が返す。その反応が可笑しくて姫川がクスッと笑った。
「あぁ、大丈夫だよ。いつもしつこいくらい会ってたのに、ここ最近会ってなかったからかな。」
いつになく素直な姫川に正木も段々と姫川の事が本当に心配になってくる。その間も姫川は言葉を続けた。
「お前は、もう学校に戻るのか?」
『そうだな。そろそろ2学期も近くなってきたしな。月曜には帰ろうと思ってるよ。」
そうかと言って、少し寂しそうな声をだす姫川に正木は後ろ髪を引かれる。
『なぁ、何かあったなら話を聞くぞ。1人で抱え込むなよ。』
いつもと違う姫川の態度に正木がそう声を掛けると
「いや、お前の能天気な声を聞いてたら悩みも忘れたよ。」
と茶化すように姫川が言った。
『なんだよ。人が折角心配してんのに。』
正木がムスッとすると、
「ははっ、それは悪かったな。」
不貞腐れたような正木の声に姫川が笑い声を漏らす。
「いや、でも心配してくれてありがとう。」
正木と話していて、気分が浮上してきたのは本当だった。そのことに姫川は礼を言うと、静かに電話を切った。
正木の声を聞いただけで先程まで感じていた恐ろしさが消え失せていた。
姫川は、急に激しい眠気を感じて、気がつけばそのまま床で眠ってしまっていた。

電話を終えた正木はベッドの上に携帯を放り投げ、自身もそこにゴロンと寝そべった。
あれは、絶対に何かあっただろ。
姫川の様子がいつもと違うのは正木にもすぐわかった。正木が悩んでいる時にはお節介なくらい首を突っ込んでくるくせに、自分の悩みは全然口にしようとしない姫川に正木はじれったさを感じる。
俺だってお前に頼られたいんだよ。
自分で全て解決してあまり人を頼ろうとしない姫川に正木は一抹の不安を覚えていた。
以前は冷徹で冷静な男だと思っていたが、今は情に厚く、意外に繊細であることを知った。そんな姫川が自分の知らないところで追い詰められていくのを想像して正木はグッと拳を握りしめるのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

風紀委員長様は今日もお仕事

白光猫(しろみつにゃん)
BL
無自覚で男前受け気質な風紀委員長が、俺様生徒会長や先生などに度々ちょっかいをかけられる話。 ※「ムーンライトノベルズ」サイトにも転載。

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

処理中です...