風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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高校最後の夏休み

二十七話

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「大丈夫か?」
聞き知った声に牧瀬がゆっくりと目を開けるとそこには姫川が立っていた。
「すまない。遅くなった。流石にあれだけの情報だったから、探すのに手間取った。何もなかったか?」
「うっ・・・うぅ」
安心した途端、一気に緊張が解け、牧瀬の目から涙が溢れた。それでも、姫川の問いに、必死に首を振って答える。ホッと少し安心したような表情で姫川が言う。
「そうか・・・良かった。しんどいかもしれないが少し動けるか?ここにいるよりは、おそらく人混みに紛れた方が安全だ。取り敢えず会場に戻ろう。」
姫川という冷静沈着な助っ人に牧瀬は心からホッとした。それと同時にこんな状況でも直ぐに打開策を見出す姫川を素直に尊敬した。
姫川は牧瀬の手を取って立たせると、遊歩道の方に出た。そして来た道を慎重に戻り始めた。
「ここから、あの男達の声はしたか?」
「逃げてすぐは聞こえてたけど、此処に隠れてからは聞いてない。ここに着いて男達の声がしなくなった事を確認して姫川に連絡したんだ。」
牧瀬が歩きながら姫川の問いに答えると、姫川が難しい顔をした。
「俺がここに着くまでに15分か。出来ればそいつらとの鉢合わせは避けたい。もう諦めてくれたならそれが1番いいんだが・・・幸い俺が来る時にはそんな奴見なかったから、取り敢えずこの道を戻れば大丈夫だとは思うが・・・」
姫川の言葉に牧瀬は実際に男達と鉢合わせてしまう事を想像してゾッとした。そして、絞り出すように言う。
「あいつら、僕たちの事を最初から狙ってたみたいだ。」
「はっ?」
その言葉に姫川が目を見開く。
「聞いたんだ。そんな会話をしてるのを。あと、僕が1番捕まえやすそうだからって・・・」
俯きながら話す牧瀬に姫川が息を呑む。
俺たちを狙ってた。一体何の為に?
そこで嫌な人物の顔が姫川の頭に浮かぶ。夏休み前初めて自分の前で本性を見せたあの男。そう思うと姫川の背中に嫌な汗が伝う。
その時、
「なぁ、もうそろそろ諦めようぜ。」
「えぇー、あいつには何て説明すんだよ。怒らすとマジでやばいって。」
遊歩道の脇道の方から男達の声がした。
姫川は一瞬で思考を停止させると牧瀬の手を強く握って言った。
「牧瀬、走るぞ。」
「えっ?わっ!」
牧瀬が恐怖を感じる前に姫川が走り出す。
「おいっ!あいつらっ!」
「待てっ!」
姫川達の存在に気づいた男達が背後から追ってくる。
「ちっ!」
姫川が男達に気づかれた事に舌打ちをする。
「牧瀬一気に下るぞ。」
そう言うと姫川は牧瀬の手を持ったまま猛スピードで遊歩道の階段を下っていった。牧瀬は恐怖よりも姫川について行くことに必死になった。それくらい姫川の足は速かった。あっという間に男達との間に距離が出来る。
先程まで恐怖しかなかった牧瀬だが姫川が一緒に逃げてくれるだけで、きっと大丈夫だと確信を持って思うことが出来た。
牧瀬の息が切れ、足が縺れ、もう限界を迎えそうな頃、祭りの会場についた。
姫川は少し歩みを緩めるとずんずんと人混みの中を突き進んでいく。
「これだけの人混みの中なら、あいつらも簡単に見つけられないだろ。」
そう言うと、後ろの牧瀬に姫川は目を遣る。牧瀬は精魂尽き果てたように膝に手を置き、腰をおり、肩を上下させ激しい呼吸を繰り返していた。
「悪い。無理をさせたな。」
特にそこまで息も切れていない姫川がバツが悪そうに牧瀬に謝る。
「はぁ、はぁ・・・い、いや、た、助けて•••はぁ・・・くれて・・・ありがとう・・・」
牧瀬は姫川への感謝を息も絶え絶えに伝えた。
その時空に無数の花火が打ち上がった。どうやら花火もいつの間にかクライマックスに差し掛かっているようだった。
「とんだ祭りになってしまったな。」
姫川が空を見上げながらそう言う。その真剣な横顔に幾分か息が整ってきた牧瀬が声をかける。
「本当だね。•••でも僕は姫川くん達とここに来れて良かったよ。」
そう言って笑う牧瀬に一瞬姫川は驚いたような顔をした。しかし直ぐに表情を緩めると、
「さっきまであんな目に遭ってたのによくそんな事が言えるな。」
と意地悪そうに言った。
「いや、まぁ確かにそうだけど・・・」
返す言葉もなく、牧瀬が言葉を濁していると、
「まぁ、でも色々トラブルもあったが、俺も皆とここに来れてよかったよ。」
と姫川が言った。その表情が余りにも優しくて牧瀬は暫しその顔から目が離せなかった。
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