83 / 177
高校最後の夏休み
二十七話
しおりを挟む
「大丈夫か?」
聞き知った声に牧瀬がゆっくりと目を開けるとそこには姫川が立っていた。
「すまない。遅くなった。流石にあれだけの情報だったから、探すのに手間取った。何もなかったか?」
「うっ・・・うぅ」
安心した途端、一気に緊張が解け、牧瀬の目から涙が溢れた。それでも、姫川の問いに、必死に首を振って答える。ホッと少し安心したような表情で姫川が言う。
「そうか・・・良かった。しんどいかもしれないが少し動けるか?ここにいるよりは、おそらく人混みに紛れた方が安全だ。取り敢えず会場に戻ろう。」
姫川という冷静沈着な助っ人に牧瀬は心からホッとした。それと同時にこんな状況でも直ぐに打開策を見出す姫川を素直に尊敬した。
姫川は牧瀬の手を取って立たせると、遊歩道の方に出た。そして来た道を慎重に戻り始めた。
「ここから、あの男達の声はしたか?」
「逃げてすぐは聞こえてたけど、此処に隠れてからは聞いてない。ここに着いて男達の声がしなくなった事を確認して姫川に連絡したんだ。」
牧瀬が歩きながら姫川の問いに答えると、姫川が難しい顔をした。
「俺がここに着くまでに15分か。出来ればそいつらとの鉢合わせは避けたい。もう諦めてくれたならそれが1番いいんだが・・・幸い俺が来る時にはそんな奴見なかったから、取り敢えずこの道を戻れば大丈夫だとは思うが・・・」
姫川の言葉に牧瀬は実際に男達と鉢合わせてしまう事を想像してゾッとした。そして、絞り出すように言う。
「あいつら、僕たちの事を最初から狙ってたみたいだ。」
「はっ?」
その言葉に姫川が目を見開く。
「聞いたんだ。そんな会話をしてるのを。あと、僕が1番捕まえやすそうだからって・・・」
俯きながら話す牧瀬に姫川が息を呑む。
俺たちを狙ってた。一体何の為に?
そこで嫌な人物の顔が姫川の頭に浮かぶ。夏休み前初めて自分の前で本性を見せたあの男。そう思うと姫川の背中に嫌な汗が伝う。
その時、
「なぁ、もうそろそろ諦めようぜ。」
「えぇー、あいつには何て説明すんだよ。怒らすとマジでやばいって。」
遊歩道の脇道の方から男達の声がした。
姫川は一瞬で思考を停止させると牧瀬の手を強く握って言った。
「牧瀬、走るぞ。」
「えっ?わっ!」
牧瀬が恐怖を感じる前に姫川が走り出す。
「おいっ!あいつらっ!」
「待てっ!」
姫川達の存在に気づいた男達が背後から追ってくる。
「ちっ!」
姫川が男達に気づかれた事に舌打ちをする。
「牧瀬一気に下るぞ。」
そう言うと姫川は牧瀬の手を持ったまま猛スピードで遊歩道の階段を下っていった。牧瀬は恐怖よりも姫川について行くことに必死になった。それくらい姫川の足は速かった。あっという間に男達との間に距離が出来る。
先程まで恐怖しかなかった牧瀬だが姫川が一緒に逃げてくれるだけで、きっと大丈夫だと確信を持って思うことが出来た。
牧瀬の息が切れ、足が縺れ、もう限界を迎えそうな頃、祭りの会場についた。
姫川は少し歩みを緩めるとずんずんと人混みの中を突き進んでいく。
「これだけの人混みの中なら、あいつらも簡単に見つけられないだろ。」
そう言うと、後ろの牧瀬に姫川は目を遣る。牧瀬は精魂尽き果てたように膝に手を置き、腰をおり、肩を上下させ激しい呼吸を繰り返していた。
「悪い。無理をさせたな。」
特にそこまで息も切れていない姫川がバツが悪そうに牧瀬に謝る。
「はぁ、はぁ・・・い、いや、た、助けて•••はぁ・・・くれて・・・ありがとう・・・」
牧瀬は姫川への感謝を息も絶え絶えに伝えた。
その時空に無数の花火が打ち上がった。どうやら花火もいつの間にかクライマックスに差し掛かっているようだった。
「とんだ祭りになってしまったな。」
姫川が空を見上げながらそう言う。その真剣な横顔に幾分か息が整ってきた牧瀬が声をかける。
「本当だね。•••でも僕は姫川くん達とここに来れて良かったよ。」
そう言って笑う牧瀬に一瞬姫川は驚いたような顔をした。しかし直ぐに表情を緩めると、
「さっきまであんな目に遭ってたのによくそんな事が言えるな。」
と意地悪そうに言った。
「いや、まぁ確かにそうだけど・・・」
返す言葉もなく、牧瀬が言葉を濁していると、
「まぁ、でも色々トラブルもあったが、俺も皆とここに来れてよかったよ。」
と姫川が言った。その表情が余りにも優しくて牧瀬は暫しその顔から目が離せなかった。
聞き知った声に牧瀬がゆっくりと目を開けるとそこには姫川が立っていた。
「すまない。遅くなった。流石にあれだけの情報だったから、探すのに手間取った。何もなかったか?」
「うっ・・・うぅ」
安心した途端、一気に緊張が解け、牧瀬の目から涙が溢れた。それでも、姫川の問いに、必死に首を振って答える。ホッと少し安心したような表情で姫川が言う。
「そうか・・・良かった。しんどいかもしれないが少し動けるか?ここにいるよりは、おそらく人混みに紛れた方が安全だ。取り敢えず会場に戻ろう。」
姫川という冷静沈着な助っ人に牧瀬は心からホッとした。それと同時にこんな状況でも直ぐに打開策を見出す姫川を素直に尊敬した。
姫川は牧瀬の手を取って立たせると、遊歩道の方に出た。そして来た道を慎重に戻り始めた。
「ここから、あの男達の声はしたか?」
「逃げてすぐは聞こえてたけど、此処に隠れてからは聞いてない。ここに着いて男達の声がしなくなった事を確認して姫川に連絡したんだ。」
牧瀬が歩きながら姫川の問いに答えると、姫川が難しい顔をした。
「俺がここに着くまでに15分か。出来ればそいつらとの鉢合わせは避けたい。もう諦めてくれたならそれが1番いいんだが・・・幸い俺が来る時にはそんな奴見なかったから、取り敢えずこの道を戻れば大丈夫だとは思うが・・・」
姫川の言葉に牧瀬は実際に男達と鉢合わせてしまう事を想像してゾッとした。そして、絞り出すように言う。
「あいつら、僕たちの事を最初から狙ってたみたいだ。」
「はっ?」
その言葉に姫川が目を見開く。
「聞いたんだ。そんな会話をしてるのを。あと、僕が1番捕まえやすそうだからって・・・」
俯きながら話す牧瀬に姫川が息を呑む。
俺たちを狙ってた。一体何の為に?
そこで嫌な人物の顔が姫川の頭に浮かぶ。夏休み前初めて自分の前で本性を見せたあの男。そう思うと姫川の背中に嫌な汗が伝う。
その時、
「なぁ、もうそろそろ諦めようぜ。」
「えぇー、あいつには何て説明すんだよ。怒らすとマジでやばいって。」
遊歩道の脇道の方から男達の声がした。
姫川は一瞬で思考を停止させると牧瀬の手を強く握って言った。
「牧瀬、走るぞ。」
「えっ?わっ!」
牧瀬が恐怖を感じる前に姫川が走り出す。
「おいっ!あいつらっ!」
「待てっ!」
姫川達の存在に気づいた男達が背後から追ってくる。
「ちっ!」
姫川が男達に気づかれた事に舌打ちをする。
「牧瀬一気に下るぞ。」
そう言うと姫川は牧瀬の手を持ったまま猛スピードで遊歩道の階段を下っていった。牧瀬は恐怖よりも姫川について行くことに必死になった。それくらい姫川の足は速かった。あっという間に男達との間に距離が出来る。
先程まで恐怖しかなかった牧瀬だが姫川が一緒に逃げてくれるだけで、きっと大丈夫だと確信を持って思うことが出来た。
牧瀬の息が切れ、足が縺れ、もう限界を迎えそうな頃、祭りの会場についた。
姫川は少し歩みを緩めるとずんずんと人混みの中を突き進んでいく。
「これだけの人混みの中なら、あいつらも簡単に見つけられないだろ。」
そう言うと、後ろの牧瀬に姫川は目を遣る。牧瀬は精魂尽き果てたように膝に手を置き、腰をおり、肩を上下させ激しい呼吸を繰り返していた。
「悪い。無理をさせたな。」
特にそこまで息も切れていない姫川がバツが悪そうに牧瀬に謝る。
「はぁ、はぁ・・・い、いや、た、助けて•••はぁ・・・くれて・・・ありがとう・・・」
牧瀬は姫川への感謝を息も絶え絶えに伝えた。
その時空に無数の花火が打ち上がった。どうやら花火もいつの間にかクライマックスに差し掛かっているようだった。
「とんだ祭りになってしまったな。」
姫川が空を見上げながらそう言う。その真剣な横顔に幾分か息が整ってきた牧瀬が声をかける。
「本当だね。•••でも僕は姫川くん達とここに来れて良かったよ。」
そう言って笑う牧瀬に一瞬姫川は驚いたような顔をした。しかし直ぐに表情を緩めると、
「さっきまであんな目に遭ってたのによくそんな事が言えるな。」
と意地悪そうに言った。
「いや、まぁ確かにそうだけど・・・」
返す言葉もなく、牧瀬が言葉を濁していると、
「まぁ、でも色々トラブルもあったが、俺も皆とここに来れてよかったよ。」
と姫川が言った。その表情が余りにも優しくて牧瀬は暫しその顔から目が離せなかった。
22
お気に入りに追加
366
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
全寮制男子高校生活~生徒会長の恋~
雨雪
BL
行方不明になってた族の総長が王道学園に入学してみた、の生徒会長、紫賀 庵の話。
スピンオフのようなもの。
今のところR15。
*こちらも改稿しながら投稿していきます。
こんな異世界望んでません!
アオネコさん
BL
突然異世界に飛ばされてしまった高校生の黒石勇人(くろいしゆうと)
ハーレムでキャッキャウフフを目指す勇人だったがこの世界はそんな世界では無かった…(ホラーではありません)
現在不定期更新になっています。(new)
主人公総受けです
色んな攻め要員います
人外いますし人の形してない攻め要員もいます
変態注意報が発令されてます
BLですがファンタジー色強めです
女性は少ないですが出てくると思います
注)性描写などのある話には☆マークを付けます
無理矢理などの描写あり
男性の妊娠表現などあるかも
グロ表記あり
奴隷表記あり
四肢切断表現あり
内容変更有り
作者は文才をどこかに置いてきてしまったのであしからず…現在捜索中です
誤字脱字など見かけましたら作者にお伝えくださいませ…お願いします
2023.色々修正中
真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる