風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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高校最後の夏休み

二十二話

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そうやって話しているうちに、姫川達は祭りの会場に着いた。
会場では既に屋台がたくさん出ており、人の流れも多くそれなりに賑わっていた。
歳明治学園の近くにある神社で行われるこの祭りは歳明治が出資していることもあり、この辺りでも有名な祭りの一つであった。屋台の数も多く、花火も上がるので地元の人だけでなく、近隣や遠くからわざわざ来場する人も多かった。
普段は静かなこの地域もこの日だけは活気づき賑やかになる。
姫川は祭りは好きだったが学校の近くの祭りにはこの2年間来た事がなかった。
6人は暫し、話すのを忘れ、久々の祭りの雰囲気を楽しんだ。
金魚すくいにお面やさん。射的や魅力的な食べ物がたくさんあり、皆目を輝かせる。
「花火までまだだいぶ時間があるし、お店を色々回るか。」
佐々木がそう言うと、皆も嬉しそうに頷く。こうして6人は花火の時間まで好きな店を順番に回っていった。

焼きそば、ポテト、フランクフルト、かき氷、クレープ。着いて早々、色々な店を回り取り敢えず6人は食べまくる。
「祭りってこう言う遊び方だっけ?」
佐々木が、先ほどから持ったまま一向に口に運べずにいるクレープを見てげっそりした。
姫川も何とか腹には収まったがもう限界だった。
「えっ?次は肉巻きおにぎり・・・」
「もう無理だって!」
庄司の言葉に思わず三田が叫ぶ。
いつもは無口で控えめな庄司が何故か会場に着いた途端先陣を切って食べ物の店ばかりを回り始めた。
初めは久々の屋台に他のメンバーも喜んでいたが、流石に連続で3軒目に行き出した頃には、顔が強張ってきていた。
「肉巻きおにぎりが食いたいなら庄司だけで買ってこいよ。俺たちはもう腹がパンパンなの。」
三田が庄司に言うと、
「えっ?それじゃあ皆で来た意味がない。」
と冷静に言葉を返す。
「お前に合わせてたら腹が破裂するんだよ!」
そんな庄司に必死に抗議をする三田に珍しく他のメンバーも頷いた。
すると、あからさまに庄司が凹む。そんな庄司の姿が新鮮で思わず誰もそれ以上何も言うことができなくなった。
「じゃあ、折角皆で来たんだし、食べ物以外の店も回ろう。」
見かねた姫川がそう提案すると、三田と牧瀬の顔が輝いた。
「そうしましょう。それなら皆で来た甲斐があるもんね。ねっ!庄司くん。」
可愛らしい顔で首を傾げて牧瀬が庄司に問いかける。
「まぁ別にいいけど・・・」
庄司の言葉に他のメンバーがホッと胸を撫で下ろした。
「じゃあ、最初は射的にしよう。」
佐々木が声を弾ませると、
「いいねぇ。勝負、勝負!」
と三田が佐々木の肩に腕を回した。その後を牧瀬が嬉しそうに付いていく。
そしてその場には姫川と庄司と薫だけが残った。姫川達も3人の後をゆっくり歩いて追いかける。
「お前がそんな大食漢だなんて知らなかったな。」
先程の庄司の食べっぷりを思い出して姫川が笑いながら、庄司に話しかけると、
「姫川もそんな顔で笑えるなんて知らなかったな。」
と真剣な声で庄司が言う。
どんな顔だ?
庄司の言葉の意味が理解できない姫川は思わず自分の顔を触る。
「姫川のそんな顔も見れたし、皆と祭りに来れて今日は楽しいな。」
そう言って、庄司が姫川に笑顔を見せた。
それは庄司と接するようになって初めて見た笑顔だった。姫川は驚きに目を見開く。
しかし直ぐに真顔に戻った庄司は
「ゆっくり歩いてると、あいつらを見失うぞ。」
と言って歩みを早めた。
初めて見る庄司の笑顔が余りにも綺麗だったので姫川は不覚にもドキッとしてしまった。
そんな2人のやり取りを暗い瞳で薫が見ていた。

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