風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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高校最後の夏休み

二十一話

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「悪い。待ったか?」
門の前で待つ他の風紀委員達に姫川が声を掛ける。
「久しぶりだね。僕たちも今来たところだから。」
「うん。そんなに待ってないよ。」
牧瀬と三田が姫川の言葉に答える。
庄司も同じなのか、無言で頷いていた。そこで姫川は庄司の後ろの人物に目が止まった。
見たことのない可愛らしい男の子がいたからだ。
「庄司、その子は?」
「俺の弟。」
短い言葉で庄司が返す。それを聞いて、姫川はそういえば夏休み前に祭りに庄司の弟がくるかもしれないと話したことを思い出した。
「あぁ、庄司の弟か。中学生か?」
「いや、こう見えて高校1年生なんだ。俺とは違う学校に通ってる。」
庄司の言葉に姫川は密かに驚く。目の前の人物はどう見ても中学になったばかりのように見えた。背も高く体付きもいい庄司とは、まるで正反対の印象を持った。
「自分で名前くらい言ったら?」
庄司が言うと、背中に隠れていた弟がおずおずと顔を出した。
「庄司薫です。」
短い挨拶をすると、また直ぐに庄司の背中の後ろに隠れた。
「悪いな。極度の人見知りなんだ。今日も置いてこようと思ったが、行くって聞かなかった。」
弟の代わりに話しているからか、いつもより饒舌な庄司が申し訳なさそうに断りを入れる。
「別に構わないよ。薫くんよろしくね。」
佐々木が人好きのする顔で薫に向かって挨拶をする。しかし、薫が庄司の背中から出てくることはなかった。
「祭りの会場まで少し歩くし、そろそろ行こうか?」
微妙な空気を察した牧瀬がさり気なく皆に声を掛ける。
「あぁ、そうしようぜ!」
するとその言葉に三田が嬉しそうにのっかり、場の雰囲気が和んだ。
こうして6人は祭りの会場へと足を向けた。

「お盆は家でゆっくりしたかったけど、親戚中で集まったりもしたから全然ゆっくりできなかったよ。あっ、佐々木くんは旅行に行くって言ってたよね。どうだった?」
「俺は友だちとキャンプしたよ。凄く楽しみにしてたんだけど、夏のキャンプってめちゃくちゃ虫が出るんだよ。あちこち咬まれるわ、見たことない虫がそこら中にいてまいったなぁ。」
「えっ?佐々木って虫がダメだったけ?」
「ダメとかそういうレベルの話じゃないんだよ。マジで蛾とか手のひらサイズのやつだからな。」
「いや、それは盛りすぎだろ。」
祭りの会場に向かう間、夏休みの思い出を楽しそうに話す。しかし、主に口を開くのは牧瀬と三田と佐々木だった。
そんな3人の後ろを歩いていた姫川だが、ふいに佐々木が姫川に話を振る。
「姫川はずっと帰省してたじゃん。何してたの?」
「俺は別に。幼馴染と会ったり、友だちと会ったりあとは正木と•••」
そこまで言いかけて言葉をきる。そして正木の名前を出した事を姫川が後悔していると、案の定前の3人の顔が輝いていた。
「えっ?正木と何?」
「もしかして、夏休みの間に遊んだりしたの?」
「正木くんといつの間にそんなに仲良くなったの?」
興奮した様子で詰め寄ってくる3人に姫川は焦る。いくら風紀の仲間を信頼しているからといって、正木との関係を素直に話す気にはなれなかった。何より恥ずかしくて口にするのも憚られた。
「いや、別に。正木と街で偶然会ったって言おうとしただけだ。」
「えー?本当に?」
三田と牧瀬が疑いの眼差しを姫川に向ける。
「本当だって。」
まだ、納得していない様子ではあったが、ふーんと返事をするとまた前に向き直り、祭り会場へと歩き始めた。
苦し紛れではあったがなんとか誤魔化せた事にホッと胸を撫で下ろす。
しかし、庄司と、佐々木だけは正木と姫川の間に何かあったと姫川の態度を見て確信するのだった。
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