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高校最後の夏休み
二十話
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毎日に近いくらい姫川の家に通っていた正木だが、お盆に入ると、両親が家に居るからか、あまり姫川の家に顔を出せなくなっていた。
最後に会った時、これから暫く来れない事を伝える正木の顔を姫川は思い出していた。
少し寂しそうな顔だったな。
正木の顔を思い浮かべてふいに胸がキュッとなる。最近たまに起こるこの現象は正木といる時にだけ起こる症状だった。無意識に胸を押さえながらふと、携帯を見ると佐々木からメッセージが入っている事に気づいた。
姫川は直ぐにメッセージを確認する。
『今日の集合は学校でいいか?』
そんな短いメッセージだった。そこで、姫川は今日は風紀のメンバーと祭りに行く約束をしていたことを思い出した。
最近は正木に振り回されて、正木とのことばかり考えてしまっており、すっかり失念していた。
「やばいな・・・」
姫川は呟くと、
『構わない。』
と同じく短い文章で返す。
『じゃあ17時に学校で』
すると直ぐに返事が返ってきた。
時計に目を遣ると、13時を少し回ったところだった。
まだ余裕があるな。
姫川はそう考えてメッセージをくれた佐々木に密かに感謝した。
椅子から立ち上がると姫川はパンっと両手で一度自分の頬を打った。そして最近すっかり素の自分に戻ってしまっていた自分を戒めた。
支度を整えると姫川は15時半頃に家を出た。夏休みということもあり、15時はまだまだ暑く、外に出ると一気に汗が噴き出した。
軽く汗を拭いながら駅までの道を急ぐ。風紀のメンバーに久々に会えることは嬉しかったが、学校までの道のりはどうしても姫川の足を重くさせた。
それは、祖母の家に帰ってくる時とは正反対の気持ちだった。あと1週間もすれば、本当に学校に戻らなければならない。
そうなる前に残りの期間は祖母との時間を大事にしようと姫川は思うのだった。
電車に乗り込み、学校の最寄駅で降りると丁度4時半頃になっていた。
これなら、少しゆっくり歩いても十分時間に余裕があるだろうと歩き出そうとした時、
「姫川?」
と後ろから声を掛けられた。
声のした方に振り向くと、そこには甚平姿の佐々木が立っていた。
茶髪の柔らかそうな髪を横に流し、片方の髪は耳にかけており、甚平姿も相まって妖艶な雰囲気を醸し出していた。
その姿に姫川が暫し見惚れていると、
「何?そんなに似合う?」
と満更でもなさそうに佐々木が尋ねた。
「あぁ、よく似合ってるよ。」
素直に言えば、佐々木が頭を掻きながら近寄ってきた。
「そんなに素直に褒められると、なんか調子狂うな。姫川は祭りなのに私服で来たのか?」
「あぁ、甚平なんか持ってないし、祭りなんて中学生以来だからな。」
苦笑しながら姫川が答える。高校に入ってから友達らしい友達なんていなかったから、それは当然の事でもあった。
「まぁ、私服姿も貴重だよな。学校ではあんなに毎日顔を合わせるのにプライベートで会うのは今回が初めてだもんな。」
佐々木の言葉に
「あぁ。」
と姫川が短く返した。確かにこんな風にプライベートで会う仲間が高校でできるとは姫川自身思っていなかった。しかし、風紀委員の仕事以外で会うのは初めてな上、祭りということもあり姫川は少し緊張していた。
その後も他愛のない会話を続けながら歩いていると、学校の門が見えた。
そこにはもう何人か集まっているようだった。
姫川は時間を確認しながら、佐々木と共に門の方へ急いだ。
最後に会った時、これから暫く来れない事を伝える正木の顔を姫川は思い出していた。
少し寂しそうな顔だったな。
正木の顔を思い浮かべてふいに胸がキュッとなる。最近たまに起こるこの現象は正木といる時にだけ起こる症状だった。無意識に胸を押さえながらふと、携帯を見ると佐々木からメッセージが入っている事に気づいた。
姫川は直ぐにメッセージを確認する。
『今日の集合は学校でいいか?』
そんな短いメッセージだった。そこで、姫川は今日は風紀のメンバーと祭りに行く約束をしていたことを思い出した。
最近は正木に振り回されて、正木とのことばかり考えてしまっており、すっかり失念していた。
「やばいな・・・」
姫川は呟くと、
『構わない。』
と同じく短い文章で返す。
『じゃあ17時に学校で』
すると直ぐに返事が返ってきた。
時計に目を遣ると、13時を少し回ったところだった。
まだ余裕があるな。
姫川はそう考えてメッセージをくれた佐々木に密かに感謝した。
椅子から立ち上がると姫川はパンっと両手で一度自分の頬を打った。そして最近すっかり素の自分に戻ってしまっていた自分を戒めた。
支度を整えると姫川は15時半頃に家を出た。夏休みということもあり、15時はまだまだ暑く、外に出ると一気に汗が噴き出した。
軽く汗を拭いながら駅までの道を急ぐ。風紀のメンバーに久々に会えることは嬉しかったが、学校までの道のりはどうしても姫川の足を重くさせた。
それは、祖母の家に帰ってくる時とは正反対の気持ちだった。あと1週間もすれば、本当に学校に戻らなければならない。
そうなる前に残りの期間は祖母との時間を大事にしようと姫川は思うのだった。
電車に乗り込み、学校の最寄駅で降りると丁度4時半頃になっていた。
これなら、少しゆっくり歩いても十分時間に余裕があるだろうと歩き出そうとした時、
「姫川?」
と後ろから声を掛けられた。
声のした方に振り向くと、そこには甚平姿の佐々木が立っていた。
茶髪の柔らかそうな髪を横に流し、片方の髪は耳にかけており、甚平姿も相まって妖艶な雰囲気を醸し出していた。
その姿に姫川が暫し見惚れていると、
「何?そんなに似合う?」
と満更でもなさそうに佐々木が尋ねた。
「あぁ、よく似合ってるよ。」
素直に言えば、佐々木が頭を掻きながら近寄ってきた。
「そんなに素直に褒められると、なんか調子狂うな。姫川は祭りなのに私服で来たのか?」
「あぁ、甚平なんか持ってないし、祭りなんて中学生以来だからな。」
苦笑しながら姫川が答える。高校に入ってから友達らしい友達なんていなかったから、それは当然の事でもあった。
「まぁ、私服姿も貴重だよな。学校ではあんなに毎日顔を合わせるのにプライベートで会うのは今回が初めてだもんな。」
佐々木の言葉に
「あぁ。」
と姫川が短く返した。確かにこんな風にプライベートで会う仲間が高校でできるとは姫川自身思っていなかった。しかし、風紀委員の仕事以外で会うのは初めてな上、祭りということもあり姫川は少し緊張していた。
その後も他愛のない会話を続けながら歩いていると、学校の門が見えた。
そこにはもう何人か集まっているようだった。
姫川は時間を確認しながら、佐々木と共に門の方へ急いだ。
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