風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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高校最後の夏休み

十八話

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ボカっ!
「痛ってー!」
姫川は暫く肩を上下させながらぼーっとしていたが、正木に腹や下肢を綺麗にしてもらっている時に正気を取り戻し、すぐさま正木の頬を拳で殴った。そして冒頭に戻る。
「痛いだろ!なんで殴るんだよ。」
正木が頬を撫でながら抗議するが、姫川は顔を真っ赤にして怒っていた。
「当たり前だろ!なんてことしてくれたんだ!」
「俺だってお前が本当に嫌がったり、抵抗したら止めるつもりだったよ。」
「やめろって言っただろうがっ!」
「でも、体は反応してたじゃん。最後にはノリノリでイってたし・・・」
「!?」
正木の発言にボンッと音がしそうなほど、姫川の顔が朱に染まる。自分の醜態を思い出した衝撃に次の言葉が出てこなかった。
「お前って、好きでもない奴にあんな風になんの?誰にでも反応するってこと?」
正木の問いかけに姫川が苦し紛れに睨みを効かす。
「あんな風にいやらしく触られたら、そうなることだってあるだろ・・・」
自分でも言っていることが恥ずかしいのか姫川の声はどんどん小さくなっていく。
「へー、じゃあお前はキモいデブのおっさんでも、去年お前と同室だった奴でも風紀委員の奴らでも触られたら誰にでも反応するんだな?」
「そんな訳あるか!気持ち悪い。」
少し想像して背中がゾッとする。
その答えを聞いた正木はニヤッと妖しい笑みを浮かべる。
「なんだよ。」
姫川はそんな正木の顔に嫌な予感がした。
「じゃあ、俺の事が好きって事だな。」
正木の言葉に姫川が目を見開く。
「それはー」
直ぐに否定しようとしたが、
「だって他の奴にされるのは気持ち悪いんだろ。だったら俺にされた時は?」
と間髪入れずに正木が言葉を重ねる。
今回姫川が感じたのは恥ずかしさと戸惑い。あとは、性に対する恐怖だ。
以前ならそこに嫌悪感も確かに存在したのに、それがなくなっている事に姫川は気づいてしまった。
姫川はその事実に打ちのめされ、両手で顔を覆う。
「えっ?何?その可愛い反応。」
「うるさい。少し黙っててくれ。」
混乱するそばから正木がいらない事を言ってくるので、姫川は思わずそう返す。
「なぁ。」
正木は姫川に話しかけると顔を隠していた腕を持った。
「今を逃したら、今度はいつお前とこういう話ができるかわからないからな。しっかり考えてくれよ。俺たちの事。」
腕をとり姫川の顔を見る正木。その顔が想像以上に真剣で姫川は自然と目を逸せる。
「き、嫌いじゃないことは認める。認めるから、友達じゃダメなのか?」
「ダメだ。」
間髪入れずに正木が返す。
「そんな言葉で俺の気持ちから逃げようとするなよ。」
そう言われて、姫川は途方に暮れた。
腕をとられたまま、暫くじっとしていたが、観念した姫川が口を開いた。その間も正木は真剣な顔で姫川を見ていた。
「もう少し考えさせてくれないか?俺は、その、恋愛とかそういうものに慣れてないんだ。ただでさえ一杯一杯なのに、その上男同士なんて。俺にはハードルが高すぎて簡単に答えなんか出せないんだよ。お前の事、嫌いじゃないのは分かるが・・・この気持ちがお前の望む感情なのかも分からない。でも中途半端なまま答えは出したくないんだ。」
姫川の今の正直な思いを正木は口を挟む事なく聞いた。そして、姫川が話し終わると、正木は、はぁぁぁぁと大きく溜息をついた。
「真面目だな。もう少し簡単に考えてくれてもいいのに。でも、姫川の気持ちを大事にしたいし•••わかったよ。もう少し待つ事にする。でも、いつまで待てばいい?只、漠然と待ち続けるのはかなりしんどいんだが。」
正木の問いかけに姫川が悩む。
「じゃあ、ふ、冬までには・・・」
「長っ!」
歯切れ悪く答える姫川に正木が大きな声で突っこんだ。
そしてうるさいと姫川から怒られるのだった。





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