風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

文字の大きさ
上 下
71 / 177
高校最後の夏休み

十五話

しおりを挟む
「ちょっと近いって。もうちょっとあっちで寝ろよ。」
結局、あの後正木は電話で両親に泊まることを伝えた。正木の両親は特に渋ることもなく二つ返事で泊まることを了承した。
そして今に至る。
もともと狭い姫川の部屋に、2枚の布団を敷いて2人で横になる。姫川の部屋は畳敷の和室になっていて、ベッドなどが無い分、正木との距離の近さが気になってしょうがなかった。
「仕方ないだろ。お前の部屋狭いし。何だよ。そんなに俺の事を意識してるの?」
確かに正木のことをかなり意識している姫川はその言葉に恥ずかしさが芽生える。
「うるさいな。散々俺に好きだ好きだって言っといて、意識しない方がおかしいだろ。」
正木に背中を向けたまま、少し熱の集まった顔に気づかれないよう言葉を返す。しかし正木から言葉は返ってこなかった。そして暫しの沈黙の後、
「すまなかったな。」
突然なんの脈略もなく正木が謝罪の言葉を口にした。
「はっ?何のことだ?」
姫川には身に覚えがなくて、思わず顔を正木に向け聞き返す。
「俺はお前のことをかなり誤解してたみたいだ。」
なるほどそういうことかと姫川は納得する。
「お前、沙羅から何か聞いただろ?」
「いや、別に。只、この家で暮らしてるお前を見て色々思うところがあったんだ。」
沙羅に秘密にしといてと言われた手前、正木は本当のことが言えず、適当に誤魔化す。
「誤魔化すなよ。この家に来た時から、生い立ちや生活環境について疑問に思うことが沢山あっただろうに、お前何にも聞かなかっただろ?それは、俺の事情を沙羅から事前に聞いてたからだろ。」
「・・・」
姫川の鋭い指摘に思わず正木が黙る。
その反応を肯定と受け止めた姫川が、はぁぁぁと深い溜息をついた。
「ったく、あいつはマジで口が軽いな。」
沙羅の口の軽さに呆れていると、
「お前のことを凄く心配してた。学校で色々大変なことや不安な事があるだろうけど、そんな時自分は助けてあげられないって。お前の事、本当に心から思ってるって事だろ?だから、沙羅ちゃんを責めたりするなよ。」
「分かってるよ。あいつがどんな気持ちだったのかくらい。幼い頃からの付き合いだぞ。」
姫川の言葉に正木が少し寂しそうな顔をする。
「そうだよな。姫川たちは幼い頃からお互いの事をよく知っていて、互いに思い合ってる。たとえそこに恋愛感情がないとしても羨ましいよ。それに比べて俺はお前に酷い態度ばかりとってしまった。お前が俺を見下したりする筈もないのに。」
そう言って自嘲気味に笑う正木は今までの姫川への態度や言動を心から後悔しているようだった。
「別にそれはいい。俺だってお前の事よく思っていなかったし、そこはお互いさまだろ。」
姫川はそう言うと今の素直な気持ちを話し始めた。
「俺は、自分の境遇や生い立ちを知られるのが嫌だった。好奇の目で見られたり、蔑まれたり、媚びられたり。そのどれもが煩わしいと思っていた。だから、学校でも必要以上に親しい人を作らないよう過ごしてきたんだ。でも、お前は俺の境遇を聞いても態度も変えずいつも通り接してくれた。正直、嬉しかったよ。本来の俺を受け入れてもらえた気持ちになった。だから、今までの態度や言動がどうであれ、俺はお前と仲良くなれてよかったと思っている。」
いつもなら考えられないくらい素直な言葉に正木は目を見開く。そして、優しく微笑むと、
「それってもしかして告白?」
と、茶化して見せた。
そんな正木を姫川が睨むと、自分で言った言葉が恥ずかしくなったのか少し顔を赤くして、
「やっぱり今の話はなしだ。お前なんかと仲良くするんじゃなかったよ。」
と言った。
すると正木が姫川の手を優しく握ってきた。その行為に姫川がビクッと体を震わす。
「嘘だよ。姫川の気持ちが聞けて嬉しかったよ。まぁ、沙羅ちゃんからお前の境遇を聞いて、確かに最初は驚いたけど、でもそれ以上に尊敬できた。だってそんな過酷な状況で確実に結果を残してきたなんて凄い事だろ?お前に張り合って優越感に浸ってた自分が物凄くちっぽけに思えたよ。だから、これからは1人で頑張らず、俺を頼ってほしい。」
いつになく真剣な正木の表情に、何故か姫川の胸が熱くなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

天使様はいつも不機嫌です

白鳩 唯斗
BL
 兎に角口が悪い主人公。

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

全寮制男子高校生活~生徒会長の恋~

雨雪
BL
行方不明になってた族の総長が王道学園に入学してみた、の生徒会長、紫賀 庵の話。 スピンオフのようなもの。 今のところR15。 *こちらも改稿しながら投稿していきます。

こんな異世界望んでません!

アオネコさん
BL
突然異世界に飛ばされてしまった高校生の黒石勇人(くろいしゆうと) ハーレムでキャッキャウフフを目指す勇人だったがこの世界はそんな世界では無かった…(ホラーではありません) 現在不定期更新になっています。(new) 主人公総受けです 色んな攻め要員います 人外いますし人の形してない攻め要員もいます 変態注意報が発令されてます BLですがファンタジー色強めです 女性は少ないですが出てくると思います 注)性描写などのある話には☆マークを付けます 無理矢理などの描写あり 男性の妊娠表現などあるかも グロ表記あり 奴隷表記あり 四肢切断表現あり 内容変更有り 作者は文才をどこかに置いてきてしまったのであしからず…現在捜索中です 誤字脱字など見かけましたら作者にお伝えくださいませ…お願いします 2023.色々修正中

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

処理中です...