風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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高校最後の夏休み

一話

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姫川は学校を出ると、直ぐに沙羅に連絡を入れた。
今日は数ヶ月ぶりに祖母や沙羅に会えると、姫川の気持ちも自然と高揚していた。
姫川が電車に乗り一息ついた時に、携帯が振動する。見ると、沙羅からの返事が来ていた。
「わかった。今日は歩とそっちでご飯食べるわ。」
その文章に、自然に笑みが漏れる。久々に会って話が出来ることが姫川にはとても楽しみだった。
電車を乗り継ぎ、家に近づくにつれ、段々と見慣れた景色が広がっていく。
姫川の家がある辺りは、比較的落ち着いていて、近くに商店街や個人商店も多く、人とのつながりが多い場所だ。普段居る、閉鎖的な学校とは違い、開放的で温かい街の雰囲気が姫川は好きだった。今までは何も思わずそこで育ってきたが、家を出たことで、この街の素晴らしさを姫川は認識することができた。
もうすぐ姫川の降りる駅が近づいている。電車のアナウンスも流れ、姫川はソワソワと席から立ち上がる。そして、電車のドアが開くと同時に、家までの道を急いだのだった。

久々に見る家は、それでも春休み前とそこまで変わっていなかった。姫川はじっくりと自分の家を見る。
姫川の家は祖母が駄菓子屋を経営していて、家の一階部分が駄菓子屋になっており、その奥に住居があった。2階には姫川の部屋とあと数部屋空き部屋があり、祖母は足腰が弱くなってきている事もあり、普段の生活は殆ど一階で過ごしていた。
「お兄ちゃん。そこいい?」
姫川がいつまでも店の前に立っているので店に入りたい子どもが姫川に声を掛けてきた。
「あぁ、悪い。」姫川が横に避けると、子ども達が喜んで店内に入って早速駄菓子を真剣な顔で選び始めた。
段々と数を減らしている駄菓子屋なので、夏休みともなると珍しさに子ども達が何人もやってきていた。
「ばぁちゃん、これ買いたいんだけど!」
店の奥にいるであろう店主に子ども達が声を掛ける。暫くすると奥の暖簾をおして、祖母が顔を出した。
「はいはい、ごめんなさいね。あら、今日も沢山買うのね。」
祖母が目を細めながら子どもに話しかける。
「うん。今日は絶対に当てるんだ!」
当たり付きの駄菓子を大量に持った少年が祖母に嬉しそうに答えた。
その様子を姫川はジーッと眺める。自分が小さい頃から変わらない風景に心が温まる様だった。
そんな気配を感じ取ったのか、祖母がふと顔を上げた。
「歩?」
一瞬驚いたような顔をした祖母だが直ぐにその顔が笑顔でクシャっとなった。
「なんだ、帰ったんだったら声を掛けたらよかったのに。」
袋にお菓子を詰めながら祖母が言う。その様子を少年がまだかまだかと覗き込むように待っていた。
「はい、どうぞ。」
祖母がお菓子を渡すと、少年は喜んで走り去っていった。
「ただいま。久々に帰ってきたから懐かしくて眺めてたんだ。」
学校での口調より穏やかに姫川は答えた。
「早く入っておいで。連絡がなくて心配だったけど元気そうでよかった。」
祖母はそう言いながら、姫川を家に招き入れた。
祖母に続いて、姫川も家に上がると、久々の匂いに深呼吸をする。前はいつも嗅いでいて、当たり前だった祖母の家の香りが、今の姫川にはとても心の落ち着くものになっていた。
「もう少ししたら、沙羅ちゃんが来るみたいだよ。」
「そうか。」
姫川は沙羅にもうすぐ会える事に、心が踊るのだった。
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