54 / 178
嵐のような怒涛の1学期
五十三話
しおりを挟む
学校が終わり、自室に戻った姫川が携帯に目を遣ると、珍しく沙羅から着信が来ていた。
いつもは姫川から連絡することが多いため、何かあったのかと直ぐに掛け直す。
数回のコール音の後、直ぐに沙羅の声が電話口から聞こえた。
「何で直ぐに出ないのよ。」
開口1番そう言った沙羅の声で、姫川は安心した。沙羅の声音で特に問題があったわけではないと分かったからだ。
「沙羅から電話を掛けてくるなんて珍しいな。何か用事があったのか?」
姫川が聞くと、沙羅が尖った声を出す。
「何かあったのかじゃないわよ。久しく連絡も寄こさないで。何かあったのかと心配したのはこっちの方なんだから。」
沙羅の言葉を聞いて、そういえば最近沙羅に連絡していなかった事を思い出した。姫川にとってはこの学園に於いて、沙羅との電話は癒しではあったが、最近は色々なことがありすぎて、沙羅との連絡をすっかり失念していた。
「あぁ、悪い。色々と立て込んでてな。」
「ちょっと、大丈夫なの?今までこんなことなかったじゃない。」
1年や2年の時でさえ、テレビ電話は無理でも連絡は欠かした事のない姫川だけに沙羅は尚更心配したようだった。
「大丈夫ではないが、何とかなってるよ。」
姫川の曖昧な回答に沙羅が言い募る。
「何?何があったの?1人で抱え込まずにちゃんと吐き出さなきゃダメだよ。」
こういう時に沙羅の存在が姫川の救いになっていた。正木とのことはとても沙羅に話せないが、柏木とのことを少し簡略して沙羅に伝えることにした。話していくうちに心が少しずつ軽くなっている
ことを姫川自身も感じることができた。
「そんな話聞かされたらメッチャ心配なんだけど。あんた、絶対夏休みはこっちに帰って来なさいよ。そんな閉鎖された空間にばっかり居たら、頭がおかしくなっちゃうよ。責任感があるのはいいことだけど、歩が全部背負うことはないんだからね。」
沙羅の優しい言葉に姫川は電話口で微笑む。
「あぁ、ありがとう。話を聞いてもらって少し気持ちが楽になった。沙羅に言われなくても、終業式が終わったら、速攻でそっちに帰るつもりだから。」
「うんうん、絶対約束だよ。それから、もうその転校生には無闇に近づかないで。危険だし。話を聞いただけでも何考えてるのかわからない。歩夢1人で対峙するには余りに危なすぎるよ。歩はしっかりしてそうで想定外の事には弱いんだから絶対1人で関わっちゃダメだよ。分かった?」
余りの沙羅の勢いに姫川は眉尻を下げる。
「わかったわかった。そうするよ。」
姫川が約束すると沙羅はやっと安心したように溜息を吐いた。
「あと、たまにはおばあちゃんにも電話してあげなさいよ。あんたが全然連絡してくれないって寂しそうにしてたわよ。」
そう言われて、姫川の胸が痛んだ。勿論姫川だって祖母の声は聞きたい。しかし、電話をすると、直ぐに会いたくなってしまう事と、電話をする度に自分に謝る祖母の声を聞くことがしんどいという理由で姫川は連絡を躊躇っていた。結局、この学校に入ることを決めたのは姫川だが、そのことに祖母はずっと負い目を感じているようだった。そんな祖母の弱った声を聞くと姫川はどうしようもない気持ちになった。
「あぁ。」
短く返事を返すと、沙羅がふんと鼻を鳴らした。姫川が祖母に連絡はしないだろうと気づいているようだった。
「じゃあ、そろそろ切るね。もう直ぐ会えるの楽しみにしてる。私の彼氏も紹介するから楽しみにしててね。」
沙羅の言葉に姫川は微笑みながら
「そうだな。じゃあまたばあちゃん家に帰ったら連絡するよ。」
と言って電話を切った。沙羅だって話したいことがあるだろうに、いつも自分の話を真剣に聞いてくれることに感謝をしながら姫川はソファに座り込んだ。
いつもは姫川から連絡することが多いため、何かあったのかと直ぐに掛け直す。
数回のコール音の後、直ぐに沙羅の声が電話口から聞こえた。
「何で直ぐに出ないのよ。」
開口1番そう言った沙羅の声で、姫川は安心した。沙羅の声音で特に問題があったわけではないと分かったからだ。
「沙羅から電話を掛けてくるなんて珍しいな。何か用事があったのか?」
姫川が聞くと、沙羅が尖った声を出す。
「何かあったのかじゃないわよ。久しく連絡も寄こさないで。何かあったのかと心配したのはこっちの方なんだから。」
沙羅の言葉を聞いて、そういえば最近沙羅に連絡していなかった事を思い出した。姫川にとってはこの学園に於いて、沙羅との電話は癒しではあったが、最近は色々なことがありすぎて、沙羅との連絡をすっかり失念していた。
「あぁ、悪い。色々と立て込んでてな。」
「ちょっと、大丈夫なの?今までこんなことなかったじゃない。」
1年や2年の時でさえ、テレビ電話は無理でも連絡は欠かした事のない姫川だけに沙羅は尚更心配したようだった。
「大丈夫ではないが、何とかなってるよ。」
姫川の曖昧な回答に沙羅が言い募る。
「何?何があったの?1人で抱え込まずにちゃんと吐き出さなきゃダメだよ。」
こういう時に沙羅の存在が姫川の救いになっていた。正木とのことはとても沙羅に話せないが、柏木とのことを少し簡略して沙羅に伝えることにした。話していくうちに心が少しずつ軽くなっている
ことを姫川自身も感じることができた。
「そんな話聞かされたらメッチャ心配なんだけど。あんた、絶対夏休みはこっちに帰って来なさいよ。そんな閉鎖された空間にばっかり居たら、頭がおかしくなっちゃうよ。責任感があるのはいいことだけど、歩が全部背負うことはないんだからね。」
沙羅の優しい言葉に姫川は電話口で微笑む。
「あぁ、ありがとう。話を聞いてもらって少し気持ちが楽になった。沙羅に言われなくても、終業式が終わったら、速攻でそっちに帰るつもりだから。」
「うんうん、絶対約束だよ。それから、もうその転校生には無闇に近づかないで。危険だし。話を聞いただけでも何考えてるのかわからない。歩夢1人で対峙するには余りに危なすぎるよ。歩はしっかりしてそうで想定外の事には弱いんだから絶対1人で関わっちゃダメだよ。分かった?」
余りの沙羅の勢いに姫川は眉尻を下げる。
「わかったわかった。そうするよ。」
姫川が約束すると沙羅はやっと安心したように溜息を吐いた。
「あと、たまにはおばあちゃんにも電話してあげなさいよ。あんたが全然連絡してくれないって寂しそうにしてたわよ。」
そう言われて、姫川の胸が痛んだ。勿論姫川だって祖母の声は聞きたい。しかし、電話をすると、直ぐに会いたくなってしまう事と、電話をする度に自分に謝る祖母の声を聞くことがしんどいという理由で姫川は連絡を躊躇っていた。結局、この学校に入ることを決めたのは姫川だが、そのことに祖母はずっと負い目を感じているようだった。そんな祖母の弱った声を聞くと姫川はどうしようもない気持ちになった。
「あぁ。」
短く返事を返すと、沙羅がふんと鼻を鳴らした。姫川が祖母に連絡はしないだろうと気づいているようだった。
「じゃあ、そろそろ切るね。もう直ぐ会えるの楽しみにしてる。私の彼氏も紹介するから楽しみにしててね。」
沙羅の言葉に姫川は微笑みながら
「そうだな。じゃあまたばあちゃん家に帰ったら連絡するよ。」
と言って電話を切った。沙羅だって話したいことがあるだろうに、いつも自分の話を真剣に聞いてくれることに感謝をしながら姫川はソファに座り込んだ。
25
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。
残業リーマンの異世界休暇
はちのす
BL
【完結】
残業疲れが祟り、不慮の事故(ドジともいう)に遭ってしまった幸薄主人公。
彼の細やかな願いが叶い、15歳まで若返り異世界トリップ?!
そこは誰もが一度は憧れる魔法の世界。
しかし主人公は魔力0、魔法にも掛からない体質だった。
◯普通の人間の主人公(鈍感)が、魔法学校で奇人変人個性強めな登場人物を無自覚にたらしこみます。
【attention】
・Tueee系ではないです
・主人公総攻め(?)
・勘違い要素多分にあり
・R15保険で入れてます。ただ動物をモフッてるだけです。
★初投稿作品
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
お迎えから世界は変わった
不知火
BL
「お迎えに上がりました」
その一言から180度変わった僕の世界。
こんなに幸せでいいのだろうか
※誤字脱字等あると思いますがその時は指摘をお願い致します🙇♂️
タグでこれぴったりだよ!ってのがあったら教えて頂きたいです!
運命なんて要らない
あこ
BL
幼い頃から愛を育む姿に「微笑ましい二人」とか「可愛らしい二人」と言われていた第二王子アーロンとその婚約者ノア。
彼らはお互いがお互いを思い合って、特にアーロンはノアを大切に大切にして過ごしていた。
自分のせいで大変な思いをして、難しく厳しい人生を歩むだろうノア。アーロンはノアに自分の気持ちを素直にいい愛をまっすぐに伝えてきていた。
その二人とは対照的に第一王子とその婚約者にあった溝は年々膨らむ。
そしてアーロンは兄から驚くべきことを聞くのであった。
🔺 本編は完結済
🔺 10/29『ぼくたちも、運命なんて要らない(と思う)』完結しました。
🔺 その他の番外編は時々更新
✔︎ 第二王子×婚約者
✔︎ 第二王子は優男(優美)容姿、婚約者大好き。頼られる男になりたい。
✔︎ 婚約者は公爵家長男ふんわり美人。精霊に祝福されてる。
✔︎ あえてタグで触れてない要素、あります。
✔︎ 脇でGL要素があります。
✔︎ 同性婚可能で同性でも妊娠可能な設定(作中で妊娠した描写は一切ありません)
▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
【 『セーリオ様の祝福シリーズ』とのクロスオーバーについて 】
『セーリオ様の祝福』及び『セーリオ様の祝福:カムヴィ様の言う通り』のキャラクターが登場する(名前だけでも)話に関しては、『セーリオ様の祝福』『セーリオ様の祝福:カムヴィ様の言う通り』のどちらの設定でも存在する共通の話として書いております。
どちらの設定かによって立場の変わるマチアスについては基本的に『王子殿下』もしくは『第一王子殿下』として書いておりますが、それでも両方の設定共通の話であると考え読んでいただけたら助かります。
また、クロスオーバー先の話を未読でも問題ないように書いております。
🔺でも一応、簡単な説明🔺
➡︎『セーリオ様の祝福シリーズ』とは、「真面目な第一王子殿下マチアス」と「外見は超美人なのに中身は超普通の婚約者カナメ」のお話です。
➡︎『セーリオ様の祝福』はマチアスが王太子ならない設定で、短編連作の形で書いています。
➡︎『セーリオ様の祝福:カムヴィ様の言う通り』はマチアスが王太子になる設定で、長編連載として書いています。
➡︎マチアスはアーロンの友人として、出会ってからずっといわゆる文通をしています。ノアとカナメも出会ったあとは友人関係になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる